第3話

「あーもう分からん!」

「うるさい奴じゃのー。此処が図書館だって分かってる?」

礼音は呆れたように郁弥を見た。

テスト前なので、礼音は郁弥と図書館に来ていた。

長机で2人は真横に並んで勉強している。

「英語なんて出来なくても死にゃあせん」

郁弥は苦虫を噛み潰したような顔で教科書を見ている。

「やれやれ……しょうがないなあ。礼音さんが教えてあげようじゃないの。何処?」

「全部」

郁弥はそう言ってソッポを向いた。

礼音にはその仕草が可愛く見える。

「いじけてても宿題終わらないよ」

「問2」

郁弥はボソっと言った。

礼音は郁弥に説明を始めた。


「いいなあ、礼音。どうやったら桜井君とそんなに仲良くなれるの?」

クラスの友人がそう言った。

「別に普通だよ」

「桜井君の事好きなの?」

別の友人も訊いて来る。

「友達だよ。なんか郁ちゃんとは気が合うの。それだけ」

礼音はあっさり答えた。

「いいなあ、私も桜井君の事郁ちゃんなんて呼んでみたいー」

「そもそも、桜井君とどうして仲良くなったの?」


それは去年の4月……

まだ高校に入学して間もない頃、雨が降っていた日の事だ。

礼音は学校からの帰り道だった。

ベビーカーを押していた女性が赤ちゃんが濡れないように覆いを掛けている。

「これ、どうぞ」

礼音はそう言って傘を女性に渡した。

「あの」

礼音はそのまま走り出した。


その翌日、礼音は隣のクラスの生徒から呼び出しを受けた。

屋上に行くと、傘を渡された。

「これ、お前だろ?」

「どうしてこの傘を?」

「昨日、姉さんがベビーカー押してた時、この傘を渡してくれただろ?ありがとう。姉さんも樹もお陰で風邪引かずに済んだから」

「当たり前だよ。あなたが同じ立場でもそうしたでしょ?」

「俺、1Bの桜井郁弥って言うんだ」

郁弥はそう言って柔らかな笑顔を見せた。

「私も改めて1Aの奥沢礼音よ」

「よろしくな」

「よろしくね」


「……それがきっかけ」

「へえー」

友人達は声を揃えて頷いた。

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