第6話 オロチを捕獲せよ!
結局、狼刀の風のみで、オロチと戦う事になってしまったヨウ一行はギルドから、一旦、宿屋に帰って来た。
はっきり言ってヨウとヴァンは不安でたまらなかった。
2人は昨日の温泉で、オロチとの出会いを思い出す。顔はどこにでもいる冴えない中年男性だったが、湯気が晴れると全く違う印象に戸惑った。ヨウとヴァンは息を吞吞む。顕わとなったのは夜空に浮かぶ星々の如く、数多の激戦を乗り越えた無数の刀傷であり、人の限界を極めた肉体美だった。笑うと目尻にシワが出来る穏やかな顔なのに、その瞳の奥は一切の光が届かない真っ暗な深海が広がっていた。
オロチが温泉を出るまで、ヨウとヴァンは息を殺して何事も起きませんようにと神に祈った。
「いや無理だ!絶対に勝てない!今からでも――」
「僕もヨウに賛成だ。相手は王の位と同等の強さだよ?それを狼刀の風のみであたるなんて、あまりに危険過ぎる‥いや無謀だよ!」
「二人共しつこい!嫌なものは嫌なの!私は信頼している人とじゃないと一緒のチームは組めない」
「アリア。俺達を信頼してくれるのは嬉しいけど、流石に我儘が過ぎるぞ!」
「我儘?違うそうじゃない!私が言いたいのは土壇場で保身に走るチームは要らないって言ってるの!」
「まだ、組んでもいないのに勝手に決めつけるなよ!そんなの解らないだろ!」
「解るもん!」
「おい!痴話喧嘩は他所でやれ。今はオロチを生け捕りにする作戦を考えた方が有意義だろ」
「痴話喧嘩じゃない!」
興奮したヨウはアリアは、身を乗り出して机を叩くと思わずハモってしまった。
「ちょっと、真似しないで!」
「真似してるのはそっちだろ!」
「ああもう五月蝿い黙れ!愚か者!」今度はアレイスが机を叩く番になった。「アリア!これ以上くだらない喧嘩をするならこの依頼断るぞ!」
「え~なんで私だけ!」
「言い訳は無用だ。時間が惜しい。さっさと作戦会議を始めるぞ!」
ヨウだって悪いのに――と言いたそうな顔をしているアリアだが、本気で怒ったアレイスは怖かったので、大人しく作戦会議を始めた。――けど、ヨウの口元が笑っているのが見えてちょっと‥いや、かなりイラっとした。
やっと作戦会議が始まったが、オロチを見つける方法なんて見当もつかなかった。
普段どこに住んでいるのか知らないし、生活習慣だってわからない。
たまたま、同じ宿の温泉で出会って顔を知る事が出来たけど、それだけでどうやって探せと言うのか?
「‥いや、まてまて。もしかして、この宿に泊まってる?」
「いや、それはもう調べたがヤツは泊まっていない。きっと、温泉だけ利用したのだろう」気が利くアレイスは先に調べてくれていた。有難い。
「オロチって温泉好きなのかな?宿に泊まらず温泉だけ利用するなんて珍しいよね」
「そう?普通じゃない?」
「いや、これは大きなヒントにかもしれんぞ!」
ヴァンの何気ない会話にアレイスは唸った。
それに触発されたヨウは天の啓示をキャッチした。
「――秘湯‥か。倭国の周囲に秘湯はないかな?もしかしたらそこにオロチが現れるかもしれない」
「それはいくら何でも無理やり過ぎない?」アリアは眉を眉間に寄せる。
「僕が言っといてなんだけど、アリアの言う通りだよ。それに温泉なんて倭国にはいっぱいあるよ。どうやって探すの?」
「なら、女将さんに倭国で一番有名な秘湯を聞いてみよう!」
「わかった。ちょっと待ってて聞いてくる!」
思い立ったが吉日。アリアは立ち上がってさっさといってしまった。
それから、暫くしてドタドタと廊下を走る音が近づいて来た。帰って来たアリアはドアを蹴破る勢いで入って来てテンションが高く飛び跳ねた。
「ねえ朗報よ!聞いて!なんと昨日の夜、女将さん、オロチらしき人物に有名な秘湯を聞かれたんだって!それで地獄巡りの秘湯って場所を教えたら『地獄?そりゃ結構、カカカ。明日はそこで骨を休めるとしますか』って言って宿を出て行ったんだって!凄くない!ヨウ。アンタ天才!早速捕まえに行こう!ほら、早く!」
アリアは荷物を背負って
「お―――い!待て待て!そう急ぐな!本題はこれからだよ。最大の問題はどうやってオロチを生け捕りにするかだ!」
話し合いばかりでご機嫌斜めになってくるアリアは、腕を組んで、つま先で床をトントンと叩きながら、ぶっきらぼうに答える。
「そんなの、正面から叩き潰すに決まってるじゃない!」
「いや、生け捕りだから‥」アリアらしい答えにヨウは可笑しくて笑ってしまった。
その時、狼男のヴァンの耳がピンと張った。
部屋の前の廊下で軋む音がした。家鳴りではない。確かに人の体重が乗った音だった。ヴァンは急いで廊下に出た。
「何?どうしたの?ヴァン!」
驚くアリアを他所に、ヴァンは左右を確認するが誰もいなかった。
「立ち聞きされた‥今の話、全部に聞かれたよ。多分、ラフレシアかビギンズ兄弟じゃないかな?宿まで尾行されてたんだ!」
「え!ヤバいじゃん?早く!出発しよ!先越されちゃう!」
「クソ!アリアの言った通りじゃないか!」
「だから言ったでしょう!あいつ等最初っから裏切るつもりだったのよ!」
「決まりだな!我々の事を知ってる冒険者なんてアイツ等しかいない。それよりマズいぞ。ゆっくりしてる場合じゃない。手柄を横取りされるぞ!」
「仕方がない。直ぐ出発しよう!」
「やった!」
作戦会議は打ち切って急いで秘湯に向う事になってしまったが、それを喜んでいるのはアリアだけだった。
メノウの指示で透明の精霊を使って盗み聞きしていた銀髪ダークエルフのヘレンは銀髪をなびかせ屋根から屋根へと飛び移って、ラフレシアの元へ急いだ。
女将が言うには、地獄巡りの秘湯は倭国から歩いて半日で着くのだけど、獣道を歩く事になるから気をつけてと言われた。
鬱蒼とした山に入ると太陽の光は森に遮られ急に暗くなった。
ガサガサと草が揺れる度に、アレイスは身体を硬直させて、悲鳴を飲み込んだ。
仕舞いには、野鳥の羽ばたく音に驚いてアリアにしがみ付いてしまった。
「怖いなら宿で待っててもいいよ?」
「い、いや!問題ない!」
青い顔で虚勢を張るが、誰がどう見ても問題大有りなアレイスを見て、アリアが手を繋いで引っ張ってくれた。
「う‥スマン。アリア」
「私、一人っ子だから、何が出来の悪いお姉ちゃんが出来たみたいで、嬉しいかも?へへ‥」
「弟と同じ事を言うな!」
「へ〜アレイスって、お姉ちゃんなんだ」
「ああ。とは言ってもこの身体になってか会ってないがな。今、どうしているやら‥」
そんな世間話を交えながら、オロチを生け捕りにする方法を模索したが、これと言った決定打は無かった。
出来る事と言えば、ヨウが遠距離攻撃しつつの、アレイスが盾になって、アリアとヴァンで接近戦で戦う事ぐらいか?ヨウは不安が拭えず、嫌な予感が止まらなかった。
魔獣と交戦しつつ、たどり着いた地獄巡りの秘湯は、森と岩に囲まれた、グリーン色の小さな秘湯だった。てっきり、地獄巡りと言うから赤い温泉だと思い込んでいたヨウはガッカリした。
だがもっとガッカリした出来事が起こっていた。なんと、既に先回りしていたチームラフレシアが武器を構えてオロチを囲っているところだった。悔しがるヨウ達は木や岩の影に隠れて取りあえず様子を伺う事にした。
「アンタがオロチたろ?巫女様を暗殺しようとしたんだってね。緊急依頼で倭国中大騒ぎよ!」
温泉に浸かるオロチに向かってメノウは剣を突き出すのだが、肝心のオロチはまるで何事もないように温泉を楽しんでいるのイラっとした。剣を握る指に力が入る。再度、突き出し威嚇した。
「さっさと温泉から出てくれる!アンタの湯浴みに付き合う気は無いわ。なんてったって、アンタを突き出せば1億ルビが貰えるんだからね!」
「1億ルビですか~それはお安い!カカカ」
「なに?自分はもっと価値があるって言いたいの?言うじゃない!自信のある男は嫌いじゃないわ」
「いえいえ。滅相も無い。あっしに価値などありゃしません。あっしはただ、お嬢さん方の価値を問いているのです。で?もう一度お聞きしますが。それが貴方達の命のお値段ですが―――よろしいので?」
「――馬鹿にして!何?勝てるつもり!」
「メノウお姉ちゃん気を付けて!」
「ミュウは心配症なんだから。こっちは4人もいるのよ。大丈夫だって!」
ほんの一瞬だった。
一瞬――メノウはミュウに視線を移した。
その隙をオロチは見逃さなかった。
「メノウちゃん。油断しないで!」
ハズキの声が届くと同時に、オロチはメノウの剣を奪って振りかぶると、メノウの頭から股まで一刀両断した。
メノウの死体から血が飛び出し、美しいグリーン色の温泉は赤く染まり、名の通り血の池地獄と化した。
「いやはや全くなってませんね。いけませんよ。お嬢さん戦闘中によそ見しちゃ」
「お姉ちゃん!―――メノウお姉ちゃんがああああああ!」
「ミュウ落ち着け!取り乱すな!」
ダークエルフのヘレンが叫んだ時には、オロチは既にミュウとの間合いを詰めて首を刎ねていた。
「何だアイツは‥」
強すぎる!ハズキには悪いがアイツを囮にして撤退だ!勝てる気がしない!
ヘレンは仲間のハズキを見捨てて、透明の精霊を使って身を隠した。
「ヘレンちゃん?え?嘘でしょ?」
ハズキはオロチの前で、1人取り残されてしまった。
――あれ?私ここで死ぬの?
ダークエルフは隠密行動が得意らしく、それを気に入ったメノウはどうしてもラフレシアに入れたいって言うから合意した。
けど、ヘレンには孤独癖があって、気付けばいつも1人だった。
それでも、これから仲間になるのだから、私から歩み寄って打ち解けようと頑張った。けど、彼女は面倒くさそうに一言二言答えるだけだった。
――結局、ヘレンは最後まで私に心を許してくれなかった。
「あ~あ残念だな。ヘレンとはもっと話してみたかったのに‥」
「ほう。裏切られて、尚、友と呼ぶか。あっぱれ!」
オロチは剣を振り上げる。
メノウとミュウの血で染まった剣を見上げると、ハズキは戦意を失って、反撃を諦めた。だって何かする前に殺されるに決まってる。だから、素直に死を受け入れた。
「せめて、痛くない様にして下さい」ハズキは目を閉じて静かに祈った。
「承知!」
オロチが剣を振り上げる。が弓矢がオロチのこめかみをかすめた。
それはヘレンの矢だった。
「私も大概ね‥」
ヘレンはそう呟くと、素早く次の狙撃ポイントへ移動した。
「どうしてどうして――美しき友愛の精神かな。カカカ」
オロチは笑って衣服を羽織る。
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