第2話 黄金色の空間






貴方と夜に会う約束をして

家路に向かうまで私は確かに私だった

きっと

貴方が好きになってくれた私は

いろんな感情を持ち合わせながら

一人、てくてく歩いていた



川沿いの空に夕焼けが染まる

しばらく立ち止まって

広がって滲む景色の中に佇む

携帯にメールの着信表示

冷たい指先で確かめると

連絡をとることをやめたあの人からだった

「今夜、会いたい。迎えに行くよ」

目も体も、時間さえ止まって

私は身動きが出来なくなる

一行の文章で

私の感情は破れた



玄関の扉を開けて靴を脱ぐと

右手に家の鍵を握りしめたまま

暗闇の中、そのまま椅子に腰掛けた

全体の一点の中に私は在る

小さな一点の中に全体が在る

ただ私は在る…

そんなことを考えながら

静かに目を閉じた

脳裏には、もう貴方の笑顔しか浮かばない

それでも感情が乱されている

自分に対する不快感や嫌悪感よりも

罪の意識だけが立ち込める

私はそんな自分をよく知っていた

そして貴方も私をよく知っている

ゆっくり立ち上がり

クローゼットから手袋を取り出した

スニーカーに履き替えると

もう一度、扉の鍵をかける




私は貴方の場所へ向かう

焦る必要は、もうない

あの人ではなく貴方が

私には必要



夕暮れはなくなり

冷たい空気に変化した夜の風が

頬を撫でた








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る