★Tさんのお話
彼女はTさんという、とても面倒見の良い女性でした。
当店では珍しく、人妻でもシングルマザーでもありません。
系列店からの移籍なのですが、自宅もかなり遠く県外からなので通うのも大変だと思うのですが、週に4~5日は来てくれるレギュラーのコンパニオンさんでした。
とっても愛嬌がありほっそりとスタイルも良い方ですが、なかなか系列店ではお仕事が付きにくいとのこと…。
……なるほどな、と。
誤解しないでください。
別に悪いわけではないんです。
ただ、なんというか壊滅的に色気がない。
言ってしまうと、年齢の割に超がつくほど幼いんです。雰囲気、話し方、仕草等。
もしかしたら当店では致命的かもしれません。
人気のあるコンパニオンさんは、年齢に限らず大体しっとり落ち着いた方が多かったので。
あ、お店によって雰囲気は違うので、あくまで当店のお話。
とはいえ、とても話しやすくて明るいTさん。すぐに皆仲良くなり待機室で賑やかに過ごすようになりました。
真面目で性格もスタイルも良し。
新人さん(当店舗では)ということもあり、大々的にお客様へおススメしていきます。
しかし、新規のお客様は付くもののやはりリピーターさんとなると難しい…。
フリーのお客様からの電話で、今行けるコンパニオンさんをおススメする時、Tさんだと
『ああ~…』という声が。
『いや、悪くないのよ。一生懸命だし気も利く子だと思うけど…』
わかります…とてもわかります。
エロくないんですよね!と思うも、そんなことも言えず。
私の焦りに反してTさんのお仕事は暇になるばかりでした。
そんなある日、Tさんからポソッと
「リョウコさんってSMのお店に詳しいですか?」
「SMですか?」
「はい…ここより稼げるかなと…ああ、ごめんなさい。不満ってわけではないんですけど」
あたふたしているTさん。申し訳ないやら何とも言えない気持ちになる私。
「実は、こないだお店で会ったお客さんがお金に困ってて…」
…ん?
「カメラマンなんだけど、新しいカメラがないと仕事出来ないのに買えないって」
「…で、買ってあげたい…んですか?」
「うん…才能ある人だなって思って。その話した時に風景を撮った写真を何枚かくれたのね。それがほんとに綺麗で」
綺麗すぎるのはTさんの心ですーーー!
純真すぎる…
「SMは稼げると思いますよ。単価がヘルスとは全然違いますから」
そう、SM、特にM嬢専門のお店って単価が高いです。そして可能な有料オプションを増やせば増やすほど稼げるお金は当然高くなっていきます。
でもその分ハードになる為、肉体的にも精神的にも負担はかかると思うんです。
「ただ…本当に特殊でハードな業界だと思うので、SMでお金を稼ぐなら自分や自分にとって大切な人の為に使ってほしいなって思います」
自分で稼いだお金をどう使おうが私が口を出すことではないと思うんですが、言わずにいられませんでした。
Tさんは黙って聞いてくれ、
「そうだね、ちょっと考えるね」
と笑ってくれました。
その後、Tさんからカメラマンの話は聞くこともなく出勤が減ることもなく今まで通りでした。
私の家に遊びに来てくれた時もあります。
ご飯食べよう!リョウコさんは用意しなくてもいいから!というTさん。
旦那と駅まで迎えに行くと、カニ鍋したいと思って!と両手に百貨店の袋を抱えていて驚いたことも。
言ってくれてたらいいのにー!
ポン酢まで用意してくれて!!
私が受付を辞めたあともお店には在籍していたようなんですが、ある日お話したいから時間を作ってほしいと言われ。
久々に会ったTさんが世間話も程程に始めたのは、某宗教団体についてでした。
宗教というものに興味のない私はただ只管話をするTさんに頷くだけで、最後にどうかな、と聞かれた時に
「すみません…興味がないんです…」
と一言。
Tさんは
「ごめんなさい、リョウコさん。実は私の家はこの宗教にとても熱心で。私もずっと布教活動するように言われてたんです。
はぐらかしてきたけど、多分そろそろ無理みたいで。きっと断られるなって思いながら聞いてもらったんです」
すっきりした!と晴れやかな顔を見せたTさんは、その後お店のHPから消えており、私も会ったのはそれきりとなりました。
Tさんはあれからご家族と布教活動に精を出しているんでしょうか…。
Tさんには幸せになっていてほしいなと思うばかりです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます