考えさせられる提案

 若桜まで行って帰りにした。もうちょっと走れば、


「もうちょっと言うけど鳥取市まで三十キロやぞ。往復したら二時間かかるわ」


 若桜からさらに二時間はキツイよ。行くだけなら良いけど、行けば帰らないとならないもの。戸倉峠を久しぶりに走ったけど、コータローとのツーリングに行き詰まりを感じてるところはある。


「オレとのツーリングやのうて、モンキーでの日帰りツーリングの行き先やろ」


 まあそうだ。モンキーのツーリングは下道専科だ。バイクだから道さえあればどこでも走れるようなものだけど、まず市街地走行は可能な限り避けたい。そうなると神戸から東へのツーリングはなくなってしまう。


「芦屋、西宮、尼崎を通って大阪に行きたないわな」


 西も問題でまともに走ると、


「明石、高砂、加古川、姫路の数珠つなぎや」


 だから北区に出て丹波を目指したり、今回みたいに瀬戸内海沿岸の市街地を避けて西に走るルートになってしまう。それはそれで楽しいのだけど、


「これぐらいが日帰りの限界やろ」


 隣の府県の端っこに轍を踏み入れるぐらいが限界ってこと。同じ道だって楽しいけど、やっぱり一番わくわくするのは初めて走る道なのよね。


「それがツーリングの醍醐味やもんな」


 そうなのよね。これは中型や大型に乗っても日帰りで考えると出てくるはず。


「そやろな。高速使える分だけ行動半径は広がるやろうけど、大型でも岡山ならまだしも広島日帰りは厳しいんちゃうか」


 白浜行くのだって無理がありそうだし、名古屋でもそうだよ。せいぜい滋賀県ぐらいか。


「モンキーでビワイチは無理やもんな」


 ところで次はどこを考えてるの。


「考え中やねんけど」


 期待してるぞ。


「ムチャ言うな」


 そうなるよね。コータローと行っていないところになると、


「フェリー使うのはどうや」


 フェリーって・・・なるほどアワイチも楽しいよね。あれは明石からだけど日帰りで走れるよ。


「渡し船みたいなジェノバラインやのうて、ホンマのフェリーを使うんや」


 えっと、えっと、なるほど小豆島に行こうってことか。小豆島なら帰りが少し遅くなるけど日帰りは出来たはず。


「そうやのうてフェリー使って泊まるやつ」


 はぁ、もしかして九州とか考えてるの。そりゃ、フェリー使ったら阿蘇だって行けるだろうけど、行きに一泊、帰りに一泊の弾丸ツーリングってもったいなくない?


「弾丸ツーリングやったらな。そうやのうてオレが言いたいんは、ツーリングの行動半径を広げたいんやったら、お泊りツーリングにすべきやってことや」


 お泊りにしたら、今日だって鳥取に余裕で行けたのは認める。お泊りを重ねたら出雲だって行けるよ。


「北海道かって夢やない」


 そうなんだけど、コータローは忘れてない。千草だって女なんだよ。


「知っとるわい。そやけど、幸か不幸かオレも千草も独身やんか。二人で行ってもなんの問題もあらへんやん」


 不倫とか浮気にならないし、今は神戸に住んでるから小うるさい近所のオバハン連中の陰口のネタにはされないのは認めるよ。それでも問題がないはずないじゃない。これでも千草は若い女なんだよ。


「アラフォーに近づいとるで」


 轢き殺したろか。まだまだ千草は若いんだよ。そこで過ちが起こったらどうしてくれるのよ。コータローだってたぶん男だから、


「同い年の健全な男子や」


 旅先の高揚した気分で狼にならない保証はないでしょうが。


「自称でも若い女と健全な男とやから無いとは言えんかもな」


 誰が自称なのよ。そうなったら困るでしょ。


「それって千草に責任取れって言うってことか」


 仮定でも答えにくい質問をするな。だってだよ、もしそういう関係になって責任となったら、


「結婚やろ」


 うむむむ。賠償とか慰謝料って取れるのかな。刑法なら不同意性交罪てのがあるけど、二人でツーリングに出かけて、そこでお泊りしても成り立つのかどうかだ。いや、成り立ったはず。だって夫婦の間でも成り立つって聞いた事がある。


 刑法に該当するのなら民事で賠償金とか慰謝料も取れるはずだけど、相場っていくらなんだろ。一千万円ぐらい取れるのかな。とは言うものの、いくら不同意での過ちになってもそこまでしたくないのはどこかにある。


 だって相手はコータローだ。別に憎んでる相手じゃないし、素直に見れば良い男になってる。こうやってマスツーにも付き合ってもらってる。そうなると結婚って事になるけど、それこそちょっと待っただ。


「まさかと思うけど千草はヴァージンか?」


 バカにするな。いくつだと思ってるんだ。


「同い年や」


 千草だって経験ぐらいあるに決まってる。いくらブサイクでもバカにするのもエエ加減にしやがれ。そもそもだぞ、コータローに千草が抱けるのか。


「そやから健全な男子や言うてるやろ」


 そうじゃなくて、千草に女を感じて欲情するかって意味だよ。


「千草でも女やんか」


 火炙りの死刑だ。


「どう答えたらエエんよ」


 そんなもん自分で考えやがれ! それぐらいの女心がその歳でもわからんのか。それで千草をお泊りツーリングに誘おうなんて百年早いわ。


「百年したら長寿世界一になってまうで」


 生きとるか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る