ロングツーリング

「行くで、千草」


 今日はロングツーリングだ。コータローはどのルートを選ぶかと思ってたのだけど、


「普通や、普通」


 でもないでしょうが。それでも新神戸トンネルを潜ったから、豊地から桃坂にしたのか。この道はひまわりの丘公園の北側に出るのだけど、


「この辺で腹ごしらえしとこ」


 国道一七五号バイパスを少し北上して社のジョイフルに。ここは二十四時間営業だし、


「モーニングもしっかりしとる」


 味はこんなものぐらい。それでもコメダのモーニングより充実してるかな。朝食休憩をしっかり取って、


「加西に行くで」


 加西の道も慣れないとややこしいのだけどさすがにコータローも良く知ってる。県道二十三号に乗れたから、しばらくはこれで西に、西にだ。福崎で市川を越え、夢前まで来た時に、


「コーヒーブレークや」


 あそこのセブンだな。ツーリングでコンビニ休憩は定番なんだけど田舎に行くほど少ないんだよね。コーヒーを飲んで生理現象も解消させてさらに西にだ。夢前川を渡り、この辺が安富のはずだけど安志姫神社ってなんだ。


「播磨風土記にあるんやが・・・」


 この地に安志姫って美人がいて、これに伊和大神が求婚したそうなんだ。だけど安志姫がこれを拒否したんだって。これに怒った伊和大神が川の水源をせき止めて揖保川に流してしまい、


「林田川の水量が少なくなった謂れとなっとるらしい」


 えっと、えっと、それだけなの。こういう話ってもっとオチがあるはずじゃないの。


「言われたってそれだけしかあらへん」


 安富で県道二十三号から国道二十九号に乗り換えるのだけど、ちょっとだけややこしいとろなんだよ。でもコータローは知ってるな。この安富だけど江戸時代には安志藩があったって聞いてビックリした。こんなところにお殿様がいたって言うんだもの。


「小笠原家や」


 小笠原家は譜代大名なんだけど三河以来って家じゃないんだそう。もともとは信濃にいて、


「武田信玄に滅ばされて三河に落ち延びたんよ。塩尻峠の戦いが有名や」


 そこからの家康の家臣になったぐらいみたい。でもってここは小笠原家の分家の一万石の小大名だから城跡もないのか。安富から安志峠を越えたら山崎だ。揖保川を渡り、中国道を潜ったら山崎の街になる。


 山崎の街を抜けたら次は一宮になり、安志姫にイジメをした伊和大神を祀る伊和神社の前を過ぎていく。そこから揖保川沿いに、


「あれは揖保川やのうて引原川や。揖保川は東の山の方に流れてるねん」


 そうだったのか。この辺はひたすらリバーサードロードで快走できるんだよね。そして山崎からひたすら、北へ、北へだ。山崎で休憩しなかったから道の駅みなみ波賀に寄ると思ってたんだけど、


「どうせやったら道の駅はがにしょ。あれもいつまであるかわからんし」


 道の駅はがは、なんと近畿の道の駅第一号なんだよ。どうして第一号になったかはわかんないけど、あれより古い道の駅は県内どころか近畿にもないことにはなる。あそこだな。山崎からはひたすら快走路で気持ちが良いのだけど、こうやって見るとよくもまあ、こんなところが近畿の第一号だと思うもの。


 だってだよ、快走路なのは良いけど、快走路って事はクルマが少ないんだもの。それも北上するほど少なくなって、


「なんかバイクの方が多い気がするもんな」


 そういう道だからバイクが集まって来るのもわかるけどさ、バイクなんて集まったところで知れてるじゃない。


「さすがに大阪や京都から遠いもんな」


 それに今日は休日だからバイクも集まるけど平日だったら、


「さぞや静かなんやろな」


 そうなるけど、そうじゃなくて。


「国道二十九号もかつては鳥取と姫路を結ぶ輸送路やってんよ。そやけど鳥取道が出来たからシフトしてもたはずや」


 そっかそっか、この道の駅が出来た頃はトラックがごっそり走っていたのか。そんなトラックの群れはもう戻ることはないだろうから、この道の駅だって、


「いつまであるかはわからん」


 バイクが少々集まっても厳しいよな。ところさ、この先に滝流しそうめんって店があったじゃない。


「今でもあるで」


 そうなのか。あれって行ったことある?


「あるで。あれもおもろいと言うか、変わってると言うかで・・・」


 なかなかイメージするのが難しいのだけど、樋に流される素麺を食べるのだけど、その樋が、


「五十本ぐらい等間隔で並んどって、その一番下のところに座って素麺を待ち受けるんや」


 うんと、うんと、流しそうめんってさ、竹を割って節を抜いたので水路を作って、そこに素麺を流すイメージじゃない。それが竹じゃなくて樋になってるのは理解できる。でもさぁ、食べる時って流れ来る素麺を樋の横でキャッチするのじゃないの。


「千草のイメージは間違いやとは言わんけど、そのシステムやったら上流が絶対有利やんか」


 それはそうだ。だから一人ずつの専用レーンシステムにしてるのはわからなくもないけど、それはそれでどこか変だよ。


「そう言うたりな。あれはあれで今でも人気があるみたいやねん」


 コータローに言わせると素直に普通に食べた方が美味いはずだって。流しそうめんなんてパフォーマンスとか演出みたいなもので、あれで美味しくなるものじゃないものね。子どもなら喜びそうだけどね。


 道の駅からぐらいからはいよいよ戸倉峠の道になってくる。戸倉峠と言っても場所をイメージしにくいかもしれないけど、氷ノ山の麓の一角ぐらいになるのよ。


「それじゃわからんて。緯度で言うたら竹田城ぐらいや」


 もっとわからんやろが! 戸倉峠は新戸倉トンネルがあるところで標高が七百メートルぐらいあるけど、峠自体はモンキーでも登れるよ。


「追い抜かれるけどな」


 仕方ないでしょうが! あっちはリッタースポーツなんだから、こんな峠道で勝負になるはずないじゃないの。それでもかつてトラック輸送のメインルートにしてただけあって、それなりに登れる道ぐらいだとしておこう。でさ、この戸倉峠を越えるていうのは意味があるんだよ。


「春日から登った三春峠みたいなもんや」


 あんなところと一緒にするな。そりゃ、三春峠は兵庫県と京都府の境界になるけど、戸倉峠を越えたら鳥取県なんだぞ。


「なんとなく鳥取県に轍を刻んだ方が、価値がありそうやもんな」


 距離と時間が違うでしょうが。神戸から小型バイクでツーリングに来るのは少ないと思うぞ。


「というか、やっぱり小型でツーリングしとるんは少ないわ」


 それは思うよ。どんなに力んでもしょせんは原付二種だものね。走りが違い過ぎる。でもさぁ、だからこそモンキーで戸倉峠を越えるのに価値があると思わない?


「あいつら、あんなバイクでようやっとるわって見られるもんな」


 ぎゃふん。

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