異世界建築〜鑑定スキルで生存圏を取り戻せ!〜
カネキモチ
第1話 選べ、チートスキル?
「ここは……」
俺は気がついたら真っ白な世界で椅子に座っていた。
俺は直前の行動を思い出す。
「確か……」
---
昨晩俺は会社の先輩に誘われて飲みに行った。
先輩の悩みを聞きながら俺もかなりの量を飲んでいたはずだ。
そこからの記憶がない……
「まさかそこで毒を盛られて!!」
いや、先輩はそんな人じゃない。
そもそも俺が毒を盛られる理由がない。
薄々気がついていたがここはおそらく死後の世界だ。
時間の流れや匂い、そして音などの情報が全くない異質な空間である。
死後の世界なら俺にも死因があるはず。
俺は必死に記憶を遡る。
「そうだ俺はあの後上司と別れて、夜風に当たるために河川敷を目指した。その途中で確か……」
「女性に見惚れて怪談から滑り落ちんじゃよ」
俺の目の前に老人が立っていた。
「誰!?」
「神じゃよ」
「神!?」
そう言われてみればそう見えなくもない。
白くて長い髭を蓄えたその容姿は俺が想像していただき神そのものである。
「そうか、俺はやっぱり死んでしまったんですね」
「そうじゃな」
「しかも美女に目を奪われて転落死……なんか情けないっすね」
「そっ、そっ、そうじゃな」
どうせ死ぬなら子供を車から守るなどのかっこいい死に方が良かった。
俺の最後がこんななんて……
「あんまりだ!」
「おぉー、そ、そうじゃな」
神様は何やら気まずそうな表情を見せた。
「神様、何か隠してることありませんか?」
「……実はお主に伝えなければいけないことがある」
やはり神様は何か隠し事をしていたようだ。
どんなことを伝えられても受けとめる準備はできている。
「お主が見惚れな美女、実はワシなんじゃ」
「はぁーー!?」
とんでもない事実が伝えられた。
「いや、だって、えぇぇーー。つまり俺は、女装した爺さんに目を奪われたっていうのかよ!」
「まあワシ可愛いからの。ほれ、」
目の前にいた老人が一瞬にして美女に姿を変えた。
「うわ、確かにあの時の女性だ。俺の死に様情けなさすぎるだろ……」
衝撃の事実に俺は膝をついて倒れた。
こんな情けない死に方世界でを俺が初じゃないだろうか。
「いや、そもそも神様がどうして俺たちの世界にいたんですか!」
「そ、それはちょっとした趣味じゃよ」
趣味で女装して俺たちの世界に来ているなんて、神様というのは皆こうなのだろうか。
「それでじゃが、流石にワシも自分が原因であることに罪悪を覚えていな。お主を異世界に転移させようと思っておる」
「ありがとうございます」
「返事が速すぎやしないか?まぁ、即決してもらえるのはこちらも助かるでな」
まさかな異世界転移という展開に心が躍った。
この流れなら必ずあれがあるはずだ。
「神様、特典とかありますか?」
「本当に飲み込みが早いの。最近の日本人は異世界転移や転生というものに慣れすぎているの。やはり創作物の影響か、いや……」
「あのー、神様?」
「おぉ、すまない。特典じゃったな。もちろんあるぞ。いわゆるチートスキルというやつをお主に一つやろう」
やはりあった。
異世界にいくのに流石に生身というわけにはいかない。
「チートスキルは好きなものを貰えるのですか?」
「流石にそんなに都合のいいものではないな。いくつかの選択肢の中から一つ選んでもらおう」
RPGのスキル選択のようで心が踊らされる。
おそらくこの選択が俺の異世界生活の全てを決めるだろう。
ここは慎重に時間をかけて……
「この三つのスキルから好きなものを選ぶがいい」
「「少な!!」」
思わず大きな声を出してしまった。
流石に三つは少なすぎる。
もっとたくさんの選択肢の中から時間をかけて選ぶものだと思っていた。
確かにいくつかと言っただけなので、こっちの勘違いではあるが……
いくらなんでも3つはないだろう。
俺はとりあえず神様が出した三つの紙を受け取った。
『創造』
なんでも自由に生み出すことができる。
『瞬間移動』
どこにでも一瞬で移動することができる。
『鑑定』
見たものをなんでも調べることができる。
三つとも悪くはない。
確かに全てがチートスキルである。
だが、どうにも説明が曖昧すぎる。
なんでもや、どこにでもなんて言葉だけで詳しいことは何も書かれていないのだ。
まるで重要なことを隠しているような胡散臭さがある。
「ん?」
俺は紙の下の方に何やら小さい文字があることに気がついた。
目を凝らしてみるとやはり文字である。
『創造』は、生み出す物質の構造を完璧に理解していないと失敗する。
『瞬間移動』は、移動するのは自身の体だけで、装備や持ち物を全てその場に置いていってしまう。
『鑑定』は、調べたい物の名前を理解しないと情報は見れない。
うん……
「クソスキルじゃねぇか!!」
一見チートスキルのように見えて、説明を読むと明確にクソスキルである。
「それでどのスキルを選ぶのだ?」
神様は平然とした表情で聞いてくる。
ここから何か言っても無駄だろう。
「……『鑑定』でお願いします」
俺は三つのクソスキルのなかから鑑定を選んだ。
このスキルが一番可能性を感じたからだ。
「うむ、それでは『鑑定』を授けよう」
神様が言葉に出した瞬間、手に持っていた紙が光に変わり俺の体の中に吸い込まれた。
「準備は整ったな。異世界生活を存分に楽しむが良い!」
「えっ、ちょっ」
俺の足元が突然光った。
俺はまだ異世界についても何も聞いていない。
スキルを渡したからおさらばは流石にないだろ。
そもそも俺はあの女装神のせいで死んだのだ。
「……!?」
声が出ない。
くそ、もう何を言っても伝わらないじゃないか。
「あっ、言い忘れていたが異世界へは瞬間移動を利用するのでな」
(瞬間移動……まさか!)
「身につけているものは全てここに残る」
(クソが……)
渦に飲まれるように俺は真っ白な世界に移動した。
---
真っ白な世界を彷徨っている。
冷静になればなるほどあの神に対して苛立ちが湧いてくる。
死因の半分は神様のせいで、与えられたスキルも制限付きのもの。
そして挙げ句の果てに、全裸になる瞬間移動で異世界転移だと?
「ふざけんな!」
俺の声が響いた。
おかしい、俺はさっきまで声が出なかったはずだ。
俺はゆっくりと顔をあげる。
「……あっ、どうも」
俺の異世界生活は全裸で始まった。
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