第24話 引越し


 時間はオアの大陸の勇者と魔王⑮から数ヶ月ほど遡る──



 暗闇に星が瞬いている宇宙のような景色。


 そこに文字が拡大して迫って来ては次々に消えていった。


 ──どうする? 世界! 


 どうなる世界!! 


 序曲が終わり、そして始まっていく。終わりの始まりが……。


 世界は何を見つめ、そして何を祈ればいいのか? 


 奴が、奴が、奴が、遂に復活する!!


 そう、奴が、奴が、奴が、


 過去に世界に絶望を与えた、奴が!


 ラグン・ラグロクト!!


 もう、世界は滅亡からは逃れられない…….。


 その運命の日は……………………… coming soon。


 ガー、ガー、ガー。


「いつだよ!」


 時の魔法使いミヨクは布団からがばりと飛び起きると声を張り上げた。


「──くそう。途中から夢なのは分かっていたけど、まさかカミングスーンとは……最後まで起きずに見てやって、カミングスーンとは……なんだよ、カミングスーンって……」


 ──というのが10分前の出来事だった。


 ミヨクは食事の用意を済ませて、食卓に着くとゼンちゃんとマイちゃんにこう告げた。


「って、事でこれから引っ越すから」


 と。


「ふんふん、なるほど、なるほど、今日の予定は引っ越しっと……えっ? 引っ越しって何? って事って何? オラ、魂を入れてもらったばかりで全く分からないんだけど」


 マイちゃんはナイスなリアクションでそう言い、ゼンちゃんは「……引っ越しは、まあ別にいいけど、何かあったのかミヨク?」と割と冷静だったので、ミヨクはそれはそれで面白くないと内心で思った。


「……うん。俺も急かなとは思ったんだけど、さっき予知夢を見せられちゃってね“夢の魔法使い”に。で、カミングスーンで終わったから、続きを聞きに行かなきゃならなくなったんだ」


「か、かみんぐすーん……?」


「なるほど予知夢か。それなら仕方ねーな。じゃあ支度するか」


「えっ、ゼンちゃん知ってるの? この話が理解できてるの? ってかさっきから何の話をしてるの? かみんぐすーんって何?」


「あっ? ああ、そういやマイは初めてだったか? ミヨクはたまに夢の魔法使いに予知夢を見せられるんだ。オイラは今回で3度目だからあんまり驚いてないだけだ。まあ、年の差だな」


 ──年の差……そう、実はゼンちゃんとマイちゃんは同じ歳ではなく、ゼンちゃんの方が50年ほど先輩だった。


「えっ、なんか悔しいんだけど! ゼンちゃんの言い方が凄く腹ただしいんだけど!」


 と、マイちゃんがブーと頬を膨らませた瞬間にすかさずゼンちゃんの暴力が飛んできて、今回もまた無駄に泣かされた。


「こらケンカしないの。魂抜いちゃうよ。でも今回のはマイちゃんも言い過ぎだから気をつけてね。それでマイちゃん詳しく説明すると──夢の魔法使いの予知夢ってのは絶対で、それを俺に見せてくるって事は俺にも関係がある何かが起こるって事で、しかも今回のは意地悪にもカミングスーンだったから、続きを確かめに行かなきゃならないんだ。だから引っ越しするんだ。これで納得してくれたかな?」


「……う、うん。なんか復唱されただけの気もするけど、分かったよ。かみんぐすーんは謎のままだけど、とにかく引っ越しなんだね。それはそれでオラ嬉しいよ! っで、どこ行くの? ここの大陸の国のどこか? それとも大陸移動? ミョクちゃんの家は世界の6つの大陸のそれぞれにあるもんね。オラ、久しぶりに旅行が出来るから楽しみだよ。また雪が見たいな。えへへ」


「うーん、雪か……。このオアの大陸はあまり雪が降らないからその気持ちはよく分かるね。ゼンちゃんはどこがいい?」


「ん? 何処でもいいのか?」


「まあ、そうなるかな。そういえばゼンちゃんも夢の魔法使いを探しに行った事はないんだっけ?」


「ないな。過去にミヨクが、予知夢を見た。ってオイラに教えてくれただけで、その時は探しには行かなかったからな」


「それは探しに行く必要がない予知夢だったんだね。俺はもう内容も忘れているけど」


「何処にいるのかは分からないのか?」


「うん。近くに行けば魔力で感知できるけど、今の時点で何処にいるのかは分からない。アイツも世界中に住処があるからね。しかも実はアイツは楽しんでるから。俺が探しに行くのを。隠れん坊みたいな感覚で。そういう奴なんだ夢の魔法使いは」


「隠れん坊? この広い世界で?」


「そう。でもさっきも言ったけど、近くに行けば魔力感知できるから心配ないよ。そうだな……同じ大陸内なら最北と最南に離れていても分かると思うよ。その近くの孤島にいてもね」


「つまり大陸に行けばいいのか。だったら確率は6……いや、このオアの大陸には居ないんだろうから5分の1か。じゃあ、オイラもマイと同じで北の大陸でいいぞ」


「えー、うっそ! ほんとに、ほんとにいいのゼンちゃん? ありがとう!」


 マイちゃんがそう喜び、ミヨクも「なんだかんだで優しいよね」と茶化した。


「う、うっせー」


「じゃあ、取り敢えず北に行くけど後悔しないでね。寒いよー」


「うん。オラ後悔しない。雪楽しみー」

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