異世界ぼっち旅〜旅好き少女は異世界を往く〜

あもる

プロローグ

 最近この街で、よく話題に上がる少女がいるらしい。

 なんでも彼女は、膝から下が露出するくらい短いスカートと、それを隠すくらい長い黒靴下、それから此処らじゃ見慣れない白いシャツに上着を羽織った格好で、世界を旅してまわっているとのこと。


 綺麗な顔立ちや、漂う清潔感からどこかの国の王族じゃねえかと噂がたつこともあったらしいが、それは本人が否定したと。本当かどうかは、わからないがな。


 そんな話があちこちから聞こえてくる酒場で、ブレザー姿の少女、赤松くるみは、ピザとは違う、チーズがたっぷり乗ったパン生地を頬張っていた。


「そういやあんた、噂の少女と随分似た格好をしているねぇ」

「これですか? 多分私がその噂の少女ですよ」


 堂々と正体を明かすくるみをまじまじと見ながら、給仕をしている少し太った中年女性は笑った。


「そうかい、女の身でありながらよくやるわぁ。これ、サービスしとくね」


 注文より一枚多いチーズ乗せパン(仮)を前にして、くるみは目を輝かせた。


「ありがとうっ!予定より移動が長引いたせいでお腹が空いてしまって」

「ん? 北の方から来たと聞いたけど、道中にそんなに大変な道はあったかいな」

「魔物が出たんです」

「それはまあ! 大変だっただろう。まさか、あんたが倒したのかい?」

「まあ、通りすがりの冒険者さんに手伝ってもらいましたけど」

「それでも十分すごいさあ!」


 魔物とは、魔力という不思議な力を扱う害獣のことだ。

 時には畑を荒らし、人を襲い、街に壊滅的な被害を及ぼすことだってある。

 伝説では、過去に国をも滅ぼす恐ろしい怪物が存在したらしい。


「本当に、大変だったんですよ。前に寄った町でいただいた短剣もこの通り」


 クルミは、スカートを少し捲った。

 中からチラッと見えたのは、革製のレッグホルスターと、短剣。

 彼女はなれた手つきで短剣を抜くと、中年の女性に見せた。


「あらあら、酷い劣化ねえ。それにこれ、隣町の特産品じゃない!」

「そうなんですよ」

「それにしてもあなた、レディが素足を気軽に見せるもんじゃないわよ!」


 女性が、くるみの脚に釘付けになっている男らをチラッと見ながら言った。

 

「あんたも旅してんだから、そのくらいの自衛はしなさいな」

「わかりました」


 くるみは、あははと苦笑いをしながら頷くと、少し土で汚れた銀貨の山を卓上に置いて立ち上がった。


「ちょっと、そんなにいらないわ」


 このまま押し通すのも良くないな。

 そう思って、くるみは銀貨に手を伸ばした。

 ふと、女性の影から椅子くらいの大きさの女の子がひょこっと顔を出した。


 それを見てくるみは、銀貨を回収する手をピタッと止めた。


「娘さんに、お洋服でも買ってやってください。また来ますね」


 女性は、そう言って去っていったくるみの後ろ姿を、娘の手を握り締めながら見送った。


 


 



 

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