AIが恋を教えてくれるらしい〜操作しているのが幼馴染だと俺は知っている〜

すずと

AI恋愛指南

第1話

 まさか、ぼっちの俺が高校の二大美女の一人と一緒にこうやって作業をする日が来るとはな。


 放課後に残って女子と作業だなんて青春って感じだ。


 この日だけは日直というやたらめったら面倒臭いシステムに感謝しても良いかもしれない。


 パチン。パチン。


 紙をホッチキスで止める音が俺達以外、誰もいない教室に響き渡る。


「うはー。終わんないねー、福井ふくいくん」


 ミディアムヘアがキューティクルで天使の輪みたいに光っており、整った顔立ちと相まって本当に天使かと錯覚してしまうほどの美少女である、天枷愛理あまかせあいりが手を動かしながら呆れたように笑っていた。


「新入生用の資料なんてネットで良いだろうに、なんで今時紙なんだか」


 とかなんとか口では言いつつも、二大美女の一人と一緒になれた喜びを噛み締めている。


「ほんとそれだよねー」


 天枷が俺の言葉を肯定してくれながらスマホを確認した。


「やばっ」


 つい声が漏れたといった様子の彼女へ尋ねる。


「どうかした?」


「バスケ部の先輩からさっさと来いってLOIN入っちゃった。あの先輩怒らすとやっかいなんだよねー」


 言いながら天枷は机の上にスマホを置いた。


「今時の運動部にもそういう先輩っているんだな」


「昔っからそういう先輩っているよ。ほとんどは良い先輩なんだけど、やっぱり一人、二人は存在するんだよ」


 運動部というものの歴史ってのは、そう簡単に変わるわけもないってことか。


「だから、サクッと終わらせよう福井くん」


 言いながら天枷は、「はっ! やっ!」と声を発している。その実、スピードは先程となんら変わっていない。


「いいよ。ここは俺に任せて先に行きな」


「へ?」


「部活。ややこしい先輩に急かされてんだろ? ここは俺がやっとくから部活行きな」


 高校二年になって二週間。


 天枷とは同じクラスになってまだ二週間しか経っていない。それなのに俺みたいなジェネリックぼっちの名前を覚えていてくれたことが嬉しかったから、ついかっこつけてしまう。


「いいの?」


「俺は部活にも入ってないぼっちだからな。あいにく放課後は暇なんだよ」


「そういえば福井くんって一人でいることが多いよね。全然喋れるのになんで?」


「ぼっち=コミュ症ってわけじゃねぇよ。シンプルに友達がいないだけだ。言わせんな悲しくなる」


「福井くんならすぐに友達できそうだし、友達くらい作りなよ」


「これだから女バスのリア充は困る。コミュ症じゃなくても、友達作りってのは難しいんだよ」


「えー、そうなのかなー」


「そうなの。ほらほら。さっさと行った行った。ややこしい先輩がお待ちになってんぞ」


 しっしっと野良犬を払うように手を振ってやる。


「ごめんね、福井くん。この埋め合わせは絶対にするから」


「それ、絶対しないやつだろ」


「あ、ひどーい」


 ぷくっと頬を膨らませながらバスケ部専用のエナメルバッグを担いだ。


「今度絶対お礼してあげるんだから」


「期待しないで待っておくよ」


「超絶期待してて!」


 そう言い残して、「ほんとごめんね!」なんて最後にもう一度律儀に謝ってから教室を出て行った。


 運動部というやつはいつの時代も中々にややこしい。今もなお廃れることもない上下関係ってやつか。やだねぇ、上下関係。面倒ったらありゃしない。


「二大美女様も大変だ」


 ジェネリックぼっちの俺には無縁の話だ。


 パチン。パチンと作業を再開させる。ぼっちで。


 先程までの青春の一ページみたいな空気は一気に崩れ、今は平常運転。安定の一人作業。


 べ、別に悲しくなんてないもん。ひ、一人の方が楽に作業できるもん。


 とか強がっているところに、こちらに近づいて来る足音が聞こえてくる。


龍馬りょうま。あんたが天枷さんと喋るだなんて珍しいじゃない」


 聞き慣れた女子の声。俺のことを名前で呼ぶ奴なんて顔を見ずとも誰だかわかってしまう。


「今日は二大美女様に縁のある日だな」


 ノールックで、パチン。パチンと手を動かしながら、声をかけてきた人物に返事をする。


「その二大美女って言うのやめなさいよ」


「良いじゃないか。褒め言葉だろ」


「色々と反応に困るのよ。さっきだって……」


「ん? さっき?」


「……なんでもないわよ」


「実際、あおいは二大美女に相応しいと思うけどな」


「は、はぁ? 別にあんたに言われても嬉しくともなんともないわよ」


「そう言う割には嬉しそうだぞ」


「なっ!? なんで顔も見てないのにわかんのよ!」


「何年一緒にいると思ってんだよ」


 ここでようやくと顔を上げた。


 そこには見慣れた長い髪の美少女が立っている。


 長谷川葵はせがわあおい


 艶やかで手入れの行き届いた髪。ぱっちりとした目は少しだけつり上がっており、まつ毛が長く自然な美しさが感じられる。


 そんな彼女の口元が若干ニヤついているのが見えた。


「ほら、やっぱり嬉しそうじゃんか。口元ニヤついてんぞ」


「うっさいわよ! 見んな! 変態ぼっち!」


 ふんっと腕を組んでそっぽを向く葵に訂正を申し出る。


「おいおい。男は皆変態だぞ」


「さいてー」


「それに俺はぼっちだ。ぼっちとは違うんで、そこんとこよろしく」


「なにが違うのよ」


「たまにこうやって葵が絡んでくれるだろ。だから真性ぼっちじゃなくてジェネリックぼっちなんだよ」


「なによ、それ。あんまり変わりないじゃない」


「ぼっちにもカーストがあるんだよ。知らんけど」


「知らんのかい」


「とにかく、あんまりぼっちとか言ってくれるな、辛くなる」


 本音を吐くと、「ふぅん」と声を鳴らして問いかけてくる。


「やっぱりぼっちなの辛いんだ。彼女とか友達とか欲しいの?」


「そりゃ、まぁな」


「だったら、これ、試してみたら?」


 葵がスマホを取り出して画面を見してくる。


 スマホの画面にはなにかのアプリが起動してあるみたいであった。


「恋ナビAI? なんだ、それ」


「AIが恋愛指南してくれるアプリよ」


「恋愛指南って、恋愛の本並に信用性なくない?」


「今や大AI時代。そして恋愛はどの時代、どの世代にでも必要なことよ。恋愛にAIの助言があってもおかしくない時代だわ。あんたも高校生なら恋愛の一つでもしてみなさいよ」


「ふぅん。でも、恋愛ってAIと一緒にするもんなのかね。自分が好きになった人に一生懸命にアタックするのが恋愛ってもんじゃないの?」


「はぁ。考えが古臭い。これだからぼっち童貞は困るわね」


「真実を確実にえぐってくれるな」


「このアプリを入れれば脱ぼっちできて、ついでに彼女なんかもできるかもよ」


「そんなに上手くいくもんかね」


「それは龍馬次第。ほら、アプリ入れてあげるからスマホ貸して」


 必要ないと断りを入れようとしたが、葵なりに俺のぼっち具合を心配してくれているのだろう。話のネタでも作ってくれているんだと思い、素直にアプリを入れてもらうことにした。


「はい。入れたわよ。これで脱ぼっちできると良いわね」


 返されたスマホのホーム画面には、『恋ナビAI』と書かれたアイコンが追加されていた。


「それじゃ、私は帰るわ」


「ああ。またな、葵」


 葵は先に帰ってしまった。作業の手伝いでもしてくれれば良いものの、そこは冷たいな、とか思いつつスマホのホーム画面を見つめる。


「恋愛指南ねぇ」


 今や大AI時代。恋愛もAIと一緒に……。


 ま、恋愛は置いといても、AIの助言で友達なんかもできるかもしれない。


 これは葵なりの気遣いだ。それを無駄にするのもなんだし、やってもみても良いか。


 俺は、『恋ナビAI』のアイコンをタッチしてみた。

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