第九話
洞穴から出る。入り口を取り囲むように、大鼬の群れが集結していた。七匹はいるだろう。全てが牙をむき、洞穴から出てきた陣太たちに視線が集中する。
そのうちの一匹は横腹に傷があった。忌夜の攻撃を受けた個体だろう。
「お礼参りってか」
陣太が大鉈を構えると、敵も飛びかかりの姿勢を見せた。向こう様の準備は万端のようだ。
「忌夜、いつでもいいぞ」
「分かりました。では」
忌夜の体から黒い竜気が立ち上る。それは徐々に濃く束になって陣太の大鉈へと乗り移ってゆく。禍々しく黒い気配が刃にまとわりつき広がってゆく。やがて柄まで浸透すると、体を芯から冷やすような怖気が手から伝わってきた。死の気配だ。
「これが屍竜の気か、おもしれえ……!」
柄を握り直し、屍竜の気に向かい合う。呑まれはしない。辰斬り嵐兵衛は死の気配も闘志で御するのだ。
「いくぞ!」
地を蹴って走り出し、正面にいる大鼬に斬りかかる。横薙ぎの大振り。
吹き荒れる風のような音と共に、黒い刃が夜を裂く。斬撃の余波と共に放たれた竜気が大鼬に襲いかかった。物の怪の速さでも避けきれない一撃だ。大鼬は胴の中程で両断され、血を撒き散らした。
「かかってこい!」
陣太はその場で大鉈を振りながら回転。黒い旋風が巻き起こる。
左右両側から飛びかかってきた二匹の大鼬は竜気の刃に自ら飛び込み、その体を切り刻まれた。
「おらおらッ、まだ終わんねえぞ!」
さすがに警戒したか、逃げ腰になった敵へ目がけて陣太が襲いかかる。竜気を使って強化された跳躍力は物の怪も上回る。下段から振り上げた一撃が森の木々ごと三匹の敵をまとめて吹き飛ばした。残りは一匹だ。
勝ち目が無いと思ったか、最後の一匹は陣太に背を向けて全速で走り出した。山を駆け上がって行くのは横腹に傷を持つ個体だ。
「逃がさねえ!」
竜気を纏わせた大鉈を振り上げ、敵に狙いを定める。既にかなりの距離をとられているが問題ない。
陣太は大鉈を投擲した。漆黒の刃が空を横切り、逃げる敵の背に突き立つ。その一撃は勢い余って敵の体ごと地に大穴を穿つほどだ。
「一丁上がりだ」
あっと言う間の出来事だった。嵐のような戦いが終わり、再び静けさを取り戻した夜の山。木々が倒れて土が抉れ、舞あげられた草葉が散らかっており、戦いの激しさを物語っている。
陣太の背後でその全てを見届けた忌夜が小さく呟く。
「これが辰斬り嵐兵衛……。なるほど、言い得て妙ですね」
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