盛り盛り嘘日記
髙 文緒
2024/11/22(FRI) ニールセイロン
【元日記】
ネイルサロンに行ってグラデーションネイルにしてもらった。ピンクラメを選択して深めのグラデにしてみたらいい女の爪すぎた。指だけでも美しいと嬉しいなと思う。QOLってやつが上がる。だからみんな爪をやった方がいいぞ。それもシンプルなやつがいい。安いから。
↓ 盛り盛り
【嘘日記】
ニールサイモンの家に行ってグラデーションのニールに出逢った。
グラデーションのニールというのは、
ニールサイモン
ニールセイロン
ニールサンコン
ニールサイクロン
ニールパンシロン
ニールサンシロウ
という六兄弟である。
ニールサイモン以外は暇をしており、みんなニールサイモンの収入に頼っておるのは明白だった。しかしニールセイロンが淹れてくれた紅茶は美味かった。さては名前のとおりにセイロンティーなのだろう、きっとこのニールセイロンは名前の通りに紅茶を淹れるのが上手いのだろう、と思った。ニールセイロンの爪がつやつやと血色がよくて美しく、優雅だ。
ニールセイロンだから、セイロンティーの淹れ方を極める。いいものだ。非常にシンプルだ。
ライフ、すなわち人生。人生の質というものを考える。上質な人生というのはシンプルなものなのかもしれない。
ふざけた名前に感じても、その名前の通りに生きてみる。意志に関係なく定められたものに従ってみる。それがいいのかもしれない。一種の覚りを感じるものだ。
そしてジャンピングする紅茶の葉を眺めていると、本当に豊かな気持ちになった。
カップに紅茶が注がれる。
「粗茶ですが」
ニールセイロンが言った。なんとも古風なふるまいで、紅茶をサーブするというより茶室で茶をたてるみたいだった。
すっかりニールセイロンが気に入ったので、神妙に神妙に紅茶のカップを取り上げて口に運ぶ。紅茶には詳しくないが、多分うまくは無かった。
おかしい。味が薄い。本当に粗茶なのかもしれない。
「結構なおてまえで」
一応そう返して、ティーカップを置く。
するとニールセイロンが切り出した。
「我が国の領海が脅かされている、ということについてあなたは如何様に考えますか」
すごい、挨拶→お茶→世間話、と段階を踏んでいるというのに? 選ばれた話題が領海問題である。
「美味しい紅茶ですね。セイロンティーですか?」
無視して紅茶の話題に戻してやる。なんなら次には天気の話題にうつるつもりだ。
「さあ? アールグレイとかじゃないですか? スーパーで買いました」
「セイロンじゃないんですか?」
「詳しくないので。それよりも、せんかく……」
「ああ! 分かりましたよ! あなたニール『正論』*なんですね」
あわてて彼の、ニールセイロンの言葉を遮った。
*『正論』・・・そういう雑誌がある
盛り盛り嘘日記 髙 文緒 @tkfmio_ikura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。盛り盛り嘘日記の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます