5
結局、まどかの父親が勤務するという映画館に着いてしまった。
良いのか、悪いのか。
大抵のことには動じない廉が、この時ばかりは動揺してしまう。
「どの映画観るか、決めるか」
「そうだね。上條くんはどんなのが好き?」
「俺は何でも大丈夫」
「じゃあ、今流行りのやつにする?」
「そうだな」
館内に貼られている広告を見たり、上映スケジュールを確認していた、その時。
「まどか?」
「ッ?!……あ、お父さん」
「っ……」
黒いスーツの制服にインカムを装着した男性が声を掛けて来た。
「もしかして、デートか?」
「えっ、……そうなの……かな?」
チラッと隣りにいる廉に視線を向けるまどか。
勝手に『デート認定』みたいに言ってしまったことにハッとして、視線を逸らした。
「初めまして、上條と申します。まどかさんとは同じクラスです」
「あぁ~、君が上條君ね!まどかからよく話は伺ってます。いつも娘がお世話になってます」
見た目30代後半といった感じの若々しい父親。
けれど、キリっとした雰囲気と優しい眼差しは、何となくまどかに似ている。
「俺の話をよくするの?」
「あ、うん……。助けて貰ったこととか、学校のこととか、うちは何でも話すから」
「そっか」
「観るのは決まってるのか?」
「ううん、まだ」
「じゃあ、決まったらフロントに声掛けて」
「分かった」
「それじゃあ、上條君、娘のこと……よろしくね」
「あっ、はい」
にこやかな笑顔で会釈したまどかの父親は、颯爽と仕事に戻って行った。
「なんか拍子抜けした」
「え?」
「うちの父親と大違い。ってか、すげぇ緊張したんだけど」
「あはっ、うちの両親、友達みたいって和香がよく言うの」
「……へぇ~」
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