御礼の御礼

 8月、夏休み中の登校日。

 朝から汗が滴るような猛暑日。

 運命なのか、何なのか……。

 席替えをしても変わらず、また上條くんの後ろの席になったまどか。


「おはよう」

「はよ」


 上條くんと初めて朝の挨拶をした。


 数日前、渋谷駅の近くで男性に絡まれてるところを上條くんと藤宮くんと津田くんに助けて貰ったまどか。

 その日は、その後に何故か上條くんと2人きりで買い物することになってしまった。

 でも、表参道のお店で色違いのスリッパを両親へのプレゼントに購入することが出来た。

 なんでも、彼のお母さまのお気に入りのショップらしくて、優しい風合いタッチの素材が売りの雑貨店だった。


 その日のうちに御礼のメールは入れたけれど、それ以降上條くんとは連絡を取っていない。

 男の子に私的な連絡をしたことがなくて、どうしていいのか分からなかった。

 学校の連絡事項とかなら、気負いせずに連絡できるのに。


 和香にはその日のうちに経緯を報告して、アドバイスを貰ったけれど。

“『長瀬に送るみたいに』って言ってるんだから、普通に『おはよう』とかメールすればいいじゃん”と返って来た。

 それができるなら、こんなに悩んだりしないのに。


 でも、上條くんにはきちんと御礼がしたい。

 これまでも何度も助けて貰ってるのに、何一つ返せてない自分が嫌になる。


 朝のSHRまでの少しの時間、上條くんは自席で音楽を聴いてるっぽい。

 耳にイヤホンを着けた状態で頬杖をついている。


 そんな彼を後ろの席からじーっと見つめ、自身のスマホを立ち上げた。

『今日、放課後に渡したいものがあります』

 ハンパないほどにドキドキしながら、彼へとメッセージを送った。


 ブブブッ。

『帰る前に声掛ける』

 早っ、すぐさま返信が来た。


 その画面を見つめ、彼の背中がいつもより優しく見えた。

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