期末考査初日。

 都内有数の進学校というだけあって、ピリピリとした緊張感の中、試験が行われた。


――――放課後。

 帰り支度をしている中沢なかざわ 文乃あやのにまどかは声をかける。


「中澤さん、昨日貸した数学のノートを返して欲しいんだけど」

「あっ、ごめんねぇ~、家に忘れて来ちゃったぁ」

「え……」

「明日持って来るから」

「……明日は忘れずに持って来てね」

「うん」

「あやちゃん、帰るよ~」

「あ、待ってっ、すぐ行く~~。じゃあ、そういうことだから」


 中澤は悪びれる様子もなく、女友達の後を追う。


「ほら、やっぱり貸さない方が良かったんだよ」


 和香が心配そうに見つめて来る。


「大丈夫、数Ⅱは最終日だし。うちらも帰ろうか」

「ん」


 最悪の場合、和香にコピー取らせて貰えば済むこと。

 『クラスメイトと揉めたくはない』まどかはそう思ってしまう。


 中澤の席から自席へと戻ろうとした、その時。上條くんと視線が合った。

 また『いい子ぶってる』と思われたのかもしれない。

 軽蔑するような、呆れたような表情を浮かべていた。


『ありのままで』という彼の言葉が脳内でリフレインする。

 割り切れるような性格なら、悩むほどこんなにも努力なんてし続けたりしないのに。


「廉、ちょっと寄りたい店あんだけど」

「おぅ」


 上條くんは藤宮くんと共に教室を後にした。

 そして、私も和香と一緒に教室を出る。


「キャア~ッ!まどか、見て~~っ!!来月にあるファンミの席、めっちゃ前の席だよっ!」

「どこどこ~~?」


 和香の推しのイケオジ俳優のファンミーティングが来月行われる予定で、そのイベントの観覧席が、前方の席になったと喜ぶ和香。

 先月購入したチケットの送付が今日だったらしく、オフィシャルサイトにログインして確かめたらしい。

 チケットが自宅に届くまで待ってられないほど、笑顔で喜ぶ和香が、一段と可愛く見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る