第15話 追い詰められていくクリント-2
「えっ? な、なんでお前が……?」
クリントの声が震えた。そこに立っていたのは、彼が一番ここにいてほしくない人物――家令のラリーだった。
「まったく、お前ほどわかりやすい悪党も珍しいな」
そう言ったのは、プリムローズの隣に立つアルバータスだった。
「自分で刺客を送り込んでおきながら、標的が生きているとあからさまに驚くとは。だが、もう終わりだ、お前の悪事もここまでさ」
「刺客……はて、なんの話でしょうな?」
クリントは冷や汗を拭いながら、虚勢を張るように問い返す。
「私はそんな男を送った覚えなどありませんが?」
「ふっ」
アルバータスは冷笑を浮かべながら、詰め寄るように言葉を続ける。
「もう白状しているようなものだ。私は“男”とは一言も言っていない」
「おかしなことをおっしゃいますな。刺客と言えば普通は男でしょう? だから、そう言ったまでのことです」
「最近では女性の刺客も珍しくない」
アルバータスは冷静に指摘する。
「理由は簡単だ。女性のほうが相手に油断を生じさせやすいからな。刺客が男とは限らない。だが、それはどうでもいい。重要なのは、その“刺客”が捕らえられ、すでに自白しているという事実だ」
アルバータスが扉を振り返ると、それに応じて重厚な扉が音を立てて開いた。現れたのは、オラールだった。彼の顔色は妙に血色が良く、身にまとった服は貴族のそれを思わせる高級な仕立てだ。クリントはその異様な姿に動揺を隠せなかった。
「俺はここにいるレストン伯爵に命じられて、その老人を亡き者にしようとしました」
オラールはアルバータスと国王に媚びるような眼差しを向けながら、深々と頭を下げる。そして、あっさりと自分の罪を告白した。
「ほぉ。理由は聞いているか?」
国王の冷静な問いに、オラールは緊張しながら答えた。
「はい。レストン伯爵家の財産を不当に自分のものにした事実が露見するのを恐れたからです。金庫の中身や家財道具を売却した金は、すべてレストン伯爵が懐に入れていました」
「ふざけるな!」
クリントは声を荒げて叫ぶ。
「そんな男の戯言を信じるつもりか? 私はこんな男など知らんし、ましてや命令を下した覚えなどない! そもそも、こいつがラリーを襲おうとしたなら、ただの空き巣に決まっている!」
だが、その反論に対するオラールの反応は意外なものだった。彼は薄く笑い、嘲るような口調で言い返す。
「なるほど。俺を切り捨てるつもりなんですね? ですが、忠告しておきますよ――言葉には気をつけたほうがいい。お互いのために、ね」
その一言に、クリントの顔色がさらに悪くなる。
「そうだな」
アルバータスが再び口を開いた。その声には冷徹な威圧感が宿り、クリントの言葉を封じ込める力を持っていた。
「言葉には気をつけたほうがいい。さらなる罪を追及されたくなければな。詐欺に横領、爵位を不当に奪った件。それから、前レストン伯爵に借金があったなどと故人を貶めた侮辱罪……他にもまだまだありそうだが……」
鋭い眼差しがクリントを捉えた。逃げ場のないその目に射竦められ、クリントの背中に冷たい汗が流れる。
――やばい。このあたりで手を打たないと、弟を亡き者にした罪まで掘り返される……それだけは絶対に避けなければならない。オラールの奴も、すっかりプリムローズ側に寝返ったようだし、やけっぱちになって弟のことまで話されたら極刑だ……
クリントはついに観念し、重い口を開いた。彼は弟を亡きものにした最大の罪以外の罪を認めた。さて、王の裁定は……
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