第4話『あなたが生きているかぎり』

 放課後。今日は演劇部の練習があった。

 とはいえ部員は、私と菜緒だけだった。なので、ふたりで出演をしつつ雑用も分担していた。


 今日はシナリオ作成の日だった。

 内容は、敵国に捕まって奴隷にされた王子を、幼馴染みの王女が助けにいく物語。


 内容は概ね決まっているものの、タイトルで私たちは悩んでいた。


 あなたが生きているかぎり。


 すると、菜緒がゆっくり口を開いた。

 

 あなたが生きているかぎり。

 私は菜緒の言葉を、自分の声で言ってみた。

 

 素敵なタイトルだと思った。

 でも、なぜだろう。この言葉には、続きがあるような気がする。

 

 私は菜緒に訊いてみた。

 あなたが生きているかぎり。

 その後に続く言葉を。


 おばあちゃんが、亡くなる間際に言った言葉なの。

 明るくて元気だったおばあちゃん。幼い頃は、一緒に遊んだり、お菓子をくれたり。転んで泣いた時は、優しく抱きしめてくれた。何よりも私のことを、大切にしてくれたおばあちゃん。


 それなのに、ある日を境におばあちゃんは、日に日に身体が弱っていったの。

 

 あの日は、お母さんに手を引かれて、おばあちゃんのところへ行ったの。

 そこにいたおばあちゃんは、私の知っているおばあちゃんではなく、土気色の肌と落ち窪んだ目をしていて、口からは荒い呼吸を繰り返していた。

 私は目を背けて、お母さんの手を硬く握った。お母さんは私の肩を抱き寄せて、それから私を、おばあちゃんのすぐそばまで導いた。

 

 と、おばあちゃんは薄く目を開いて、私の顔を見た。

 私はおばあちゃんの胸にしがみついて、泣き出した。

 そんな私の頭を、おばあちゃんは細い腕で優しく撫でてくれた。多分、おばあちゃんの、最期の力を振り絞って。

 

 それから私の耳元に、聞き取れないほど小さな声で囁いたの。

  

 あなたが生きているかぎり、と。


 それから、おばあちゃんは意識を失って、そのまま。

 だから分からないの。その言葉の続きが。

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