【実は】このVRMMORPGは……【その……】

あいざわゆう

第1話 【すべての】VRMMORPG、はじめました【始まり】

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 自分は薄暗く狭い部屋にずっとこもりきりだった。

 でも、あの日。現れたそれが、全てを変えたんだ。

<グランファンタジア・オンライン>が。


 1

 

 ……

 …………

 

 ……さん。

 ……ハヤト・クドウさんっ。

 

 ん、誰、僕を呼ぶのは……。


 そう言えば、VRMMORPG<グランファンタジア・オンライン>のβ版クライアントのインストール始めたら寝ちゃってたんだっけ……。


 ちょっと引きこもりきりだけど、ゲーム会社に入って働きたいなと思っている自分は、テスターのバイトも含めてあれこれVRゲームのβテストをやっていたりするんだけど、このゲームもその一つだったんだ。

 

 ゆっくり目を開けると、そこは宇宙の彼方のような暗い青系に一条の水色に近い光が横に走っている空間で。

 

 そこには、可愛い顔立ちをした金髪赤眼、白い肌の少女が立っていた。


 彼女の着ている黒と銀のツートンのワンピースは機械的な意匠が施されてて、ふわっと動くとその裾や袖から虹色の燐光が散った。


 身長は──一六〇cmぐらいかな?


 彼女はにこやかな笑顔でこう話しかけてきた。

 

<ハヤトさんっ。ようこそ<グランファンタジア・オンライン>の世界へっ>


 少女は一度お辞儀をすると続けてこう言ってきた。


<私はグランファンタジア・オンラインを開発、運営しているトリトンワークスに所属するカランと申しますっ。これからよろしくお願いいたしますっ>

 

「ど、どうも、はじめまして……」


 僕は気後れしながらそう答えると、カランちゃんは続けざまにこう尋ねてきた。


<まずはどの職業クラスを選びますかっ? 以下の中から選べますけどっ>


 おいそこからかよ!?


「いきなりそこから!? ねえキャラクタークリエイトは!?」


<キャラクリはβ版なので現在ハヤトさんが使っているアバターでいいじゃないですかっ。本格的なキャラクリは本サービスが始まってからでもっ>


「それはそうなんだけど……」


<いいじゃないですかいいじゃないですかっ。さて、どのクラスを選びますかっ?>


 カランちゃんの言葉とともに、ズラッとクラスの名前と特徴などのリストが表示される。

 おいおい、こんなにクラスあるのかよ。画面を覆い尽くすほどあるじゃないか。

 どれにしようかな……。

 

 と考え込んでいると。

 

 ふと、さっき見たオープニングムービーを思い出した。


 普通の中世世界だけでなく、機械的な国の世界、植物を主体とした森の国、砂漠の中に立つ城を中心とした砂漠の国、氷雪の中に街がある雪の国……。

 

 そこに住む個性豊かな人間、亜人、モンスター……。

 

 その大軍が剣や魔法を使ってぶつかり合う戦の様子……。双剣を使って戦場で優雅にモンスターと戦う剣士……。

 

 あ、これいいじゃん。

 

 あのクラス無いかな……。

 

 と思って探す。

 

 すると。

 

 あった。<双剣士>だ。多分これだ。

 

 僕はカランちゃんに尋ねてみた。

 

「この……、双剣士っていうのはどうなんでしょうかね?」


 すると、眼の前にいる金髪の美少女のアバターは満面の笑みを見せ、

 

<いいですねーっ! じゃっ、それにしましょうかっ。では、アークシャードの世界へー、レッツゴー!>


 と言って、眼の前にある<双剣士>のウインドウを押した。

 

「え、ちょっと待って!? まだなんの準備もできてないのに!?」

 

 と抗議の声をあげる暇もなく、僕らは白光に包まれた……。

 

 なんでこんなに急展開すぎるの!?

 

 …………

 

                   *


 明るい光に誘われて、僕は顔を上げた。

 

 僕は緑の草原の中にいた。

 

 遠くには大きな城が見え、その周りには街が城塞の中に広がっている。

 

 爽やかな風が、心地よかった。


 薄暗く冷たい自分の部屋にいるのとは大違いだった。

 

「ここは……」


 僕がそう呟くと、突然そばにカランちゃんのアバターが現れ、

 

「ここは<グランファンタジア・オンライン>の舞台であるアークシャードという世界の、ボーディアット大陸にあるザウエン王国の王都ザウエナード周辺の草原ですっ」


 そう説明してくれた。

 

「ザウエナード……」


 僕はそう答えた。

 

 まあ、カランちゃんの言葉の最後の方しか覚えてなかったんですけどね。

 

 そんな僕の心中を知ってか知らずか、カランちゃんは笑みを絶やさずにこう続けた。

 

「あなたには<双剣士>の基本装備が既に装備されていますっ。これで、近くにいるモンスターと戦ってみましょうっ」


 僕は全身を見た。

 

 両脇のさやにそれぞれ細い剣が差してあって、更に僕は革鎧を着込んでいた。

 

 ステータス、観てみるか。


 僕は視線でステータスをウィンドウを表示し、しばらくステータスや装備類を観てみた。

 

 HP、攻撃力、防御力、それぞれ大丈夫かな。

 

 じゃあ、戦闘してみるか。

 

 僕は周囲を見渡した。

 

 すると、何匹かの丸くぷよぷよした生き物が草原のあちこちで震えていた。

 

 スライムだ。

 

 見るからに弱そうな生き物である。

 

 僕は一匹のスライムに狙いをつけ、両方のさやから剣をそれぞれ抜いて両手で持ち、駆け寄ると、

 

「チェストーッ!!」


 と叫んで両の剣で二回切りつけた。

 

 ちょっと恥ずい。

 

 スライムは素早い双剣の切りつけであっけなく寸断され、ばらばらになった。

 

 弱っ! スライム弱っ!

 

 調子に乗って近くにいるスライムたちに駆け寄っては次々と双剣で切りつけ、容易く分断し、倒しまくる。

 

 ふうっ、いい気分だ。爽快だね!

 

 しばらく戦って、あらかたのスライムを狩りまくると、倒したスライムのあとには様々な色に光り輝く透明な多面体、サイコロのようなものがあった。

 

 僕は剣を鞘に納め、それを拾い上げた。

 

「これ、なんだろ?」


 独り言を言うと、近くにいたカランちゃんが笑顔で反応した。袖から虹色の燐光がきらめく。

 

「あっ、これはですね~、モンスターを倒すと必ず出てくる『コア』というものなんですよー。このコアがあるからこそモンスターはモンスター足り得るんですっ。このコア、貨幣代わりに使われたり、生産系のクラスが錬金などの合成や生産などを行うときには素材として使われるんですよー」


「へええ……」


 僕は感心しながらあちこち歩き回り倒したスライムのコアを全部拾い上げ、バックパックにしまった。

 

 アイテムウィンドウにもコアが表示される。

 

「これなら、街でもアイテムとか幾つか買えるんじゃないですかっ。さあ、もっとモンスターを倒して、コアを稼ぎましょうっ!」


 そうドヤ顔をして話すカランちゃんに、僕は気になっていたことを尋ねた。

 

「でも、これこのクラス強すぎて、ゲームバランスが……」


 しかしカランちゃんは即座に、


「ゲームバランスなんて、クソ喰らえでっす!」


 そう言って更に白い歯を見せるのであった。


 おい運営がそんな事言うな。

 

 ……でもまあ、こんな感じのβテストも、悪くないのかもな。


 僕は一つ頷いたときだった。


「キャーッ! 助けてー!!」


 女の子の悲鳴が森の方から聞こえてきた。


 行ってみよう。


 森の方へと行ってみると、中から魔術師の木の杖に茶色のローブを着込んだ黒髪の女の子が飛び出してきて、その後から緑色の肌をした薄汚い亜人が数匹出てきた。


 ゴブリンだ。


「大丈夫!?」


「は、はい、ちょっと森の中でレベル上げしていたら……」


「ちょっとやっつけるね!」


 彼女とすれ違いざまそう言い合いながら僕はゴブリン達へと突撃し、


「チェストーッ!!」


 と双剣をふるった。


 はい手斧を躱して一匹スレイ。僕の隙を見て左から襲いかかってくるけどそれも躱して切りつけて倒す。そのまま勢いでターンして右のゴブリンの攻撃を片方の剣で受け止めて残りの剣で斬るっと。


 ……双剣士性能いいな!?


 森の中にもゴブリンの気配がいたような気がするけど、逃げてったか。


 さて。僕は女の子の方へと振り返った。


 彼女は長い黒い髪に小さな顔の中に黒い目、小さな鼻と口に一五五センチぐらいの身長という典型的な日本人の少女だった。まだ高校生じゃないかな。これは。


「怪我はない?」


「え、ええ。助けてくださってありがとうございます……。お名前は」


「ハヤト・クドウです。よろしく。貴女は?」


「アヤネ・アマミヤです。……あの」


「なに?」


「もしよろしければ、フレンドになっていただけませんか?」


 その言葉に、僕の心臓は一つ早鐘を打った。


 マジか。


「本当? いいの?」


「いいですよ。これもお礼のうちですから」


 初めてのフレンド……。引きこもりの僕には無縁の言葉だったけど。


 ああ、なんて言えば良いのか。


「じゃあ、登録、させて、いただきます」


 僕は震える指で、フレンド登録ボタンを押した。


                  *


「<ファイアーボール>!」


 アヤネちゃんの魔法で、魔獣はどうと大きな音を倒れ、そして動かなくなった。


 僕は彼女の方を向いて親指を立てた。


「アヤネちゃん、ナイス連携! これでお互いレベルアップだね」


「はい、ありがとうございます。なんだか楽しいですね。……でも、疲れちゃった」


 アヤネちゃんは少し疲れたような表情をしていた。でも、僕と遊んだのは嬉しかったようだ。


 僕は二つの剣をそれぞれの腰の鞘に納めて頷いた。


「じゃあ今日はこれまでにしようか。街に行って、コアを売ってアイテムでも買おうか」


「はいっ、ハヤトさん」


 彼女の返事は明るかった。


                 *


「いらっしゃいませ~。どのような用件で?」


 ザウエナードに行って、大きめの武具店に入ると、愛想の良さそうな店員が出迎えてくれた。


「コア売りたいんだけど」


「はい。これらですね。……いいですねー。二万ゴールドでどうですか?」


 ……まあこれぐらいでいいか。


「良いですよ。じゃあ、そのお金で武器や防具を買いたいんだけど」


「よろこんで!」


 そんな風に、僕とアヤネちゃんは武器と防具などを買い、余ったお金で少しお茶をした。


 僕は新しい双剣と軽装鎧などを買い、アヤネちゃんは魔法の杖と新しい呪文などを買った。


 お互いの姿を見て、強くなったねと笑いあった。


 彼女は実は大学生で、暇なのでVRデバイスを買って、VRMMOを始めてみたそうだ。


「ゴブリンに襲われたときは、どうなるかと思いましたけど」


 そう言って彼女は少しはにかんでくれた。


 お茶をしてから、彼女は明日大学があるのでこれでログアウトすることになった。


 別れ際アヤネちゃんは、


「今日は本当にありがとうございました。また遊びましょうね」


 とはにかんだ笑顔を見せながらお辞儀をしたあと、小さく手を振って姿を消した。


 うん、だいぶ仲良くなれたような気がする。


 彼女、性格もいいし、また入ったら一緒に遊ぼう。

 

 それに結構稼げて、装備も強化できた。うん、いいじゃん。

 

 グラフィックを含めた世界のフィーリングもリアルだし、プレイアビリティも良くて、簡単にモンスターを狩れたし、これはしばらく遊んでもいいかな。

 

 そんな事をカランちゃんに伝えると、彼女はいい笑顔で、

 

「それは良かったですっ! これからも<グランファンタジア・オンライン>を楽しんでくださいねっ!」


 そう言うと、彼女のアバターは、虹色の燐光を煌めかせながら、僕のそばから掻き消えていった。

 

 さて、僕もログアウトするか。

 

 夜遅いし、明日続きをやろう。

 

 この世界がどんな風に広がっているのか、楽しみだな。

 

 僕は唇の端を歪ませると、画面内のログアウトのボタンを押した。

 

 こうして、僕の<グランファンタジア・オンライン>の第一日目のβテストプレイは終わった。


               *

 

 僕は<グランファンタジア・オンライン>のバーチャル世界で、しばらく遊んでいた。


 ゲームは概ね満足できる出来だった。


 これなら、本サービスにしてもいいんじゃないか。そう思えるほどに。

 

 僕は<グランファンタジア>の世界にのめり込んでいった。


 アヤネちゃんとは彼女になって、リアルで初体験をした。


 彼女の体は……、なんというか、温かかった。


 人のぬくもりが、こんなにうれしいものだとは、思わなかった。


 それと、彼女の他にも仲間がたくさんできた。


 仲間と共に強いボスと戦い、倒したときの爽快感はたまらないものだった。


 でも、僕の今いる部屋やゲームよりも、アヤネと一緒に居たくなった。


 引きこもりをやめられるなら、辞めたいと思った。


 こうして数カ月は平和に過ぎた。

 

 そう、あの事件が起きるまでは。

 

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