34 血霧に沈む狩猟の舞台

溶岩の荒野を後にし、俺は次なる狩猟場へと足を進めていた。

乾いた唇を舐めるたび、熱砂に焼かれた血と焦げた肉の残滓が喉奥で軋むような感覚が甦る。

険しい岩肌が連なり、荒れ果てた土地が広がる中、不意に立ち止まる。

空気が重い。

皮膚の裏側を冷たい刃物がなぞるような冷気が全身を覆い、血管を硬直させるような不快感が芽吹いていく。


「この空気…違和感を感じる。」

俺は顔をしかめ、岩陰に潜む死肉の幻影を探すように周囲を慎重に見渡した。

焦げた骨片が砂に埋もれ、何者かの内臓の断片が風に乾いて舞っているかのような臭気を鼻腔が捉える。


「お主が感じている通り、ここにはただならぬ気配がある。戦いに備えよ。」

神威の声が頭蓋を貫く刃のように響く。


霊刃を握り締め、腱が軋む。

砂を踏むたび、足裏に突き刺さる冷気が膝まで這い上がり、皮膚下で凍り付いた血が細かく砕かれていくような錯覚を覚える。

その中で、視界の先に異様な光景が浮かび上がる。



巨大な渦が

不規則に

歪んだ形状で

ゆらめいて

いる



その中心から発せられる力が、世界の腐肉を引き寄せる餓えた獣のように禍々しく感じる。


「これは…」

俺は渦を凝視し、恐怖より先に血濡れた興奮が胸を突き刺す。

この不条理な現象は、さらなる鮮血と死闘を求める次なる宴への誘いだと悟るまでに多くの時間は要らなかった。


「この渦はおそらく、異次元の裂け目だろう。異質な存在が現れる可能性がある。十分に警戒を。」

神威の声には、目の前で腸を引きずり出された獲物を品定めするような真剣さが滲む。


俺は頷き、身構えた。

瞬間、渦の中心から鋭い断裂音が響き、空間が裂かれるような感触と共に奇怪な影が姿を現す。

光の粒子が不安定に跳ね回り、一定の形を持たない異次元の魔物が揺らめいていた。

その輪郭は定まらず、視認しようとする眼球の裏で神経が焼かれるような不快な疼きを感じる。


俺は深く息を吸い込み、喉奥に残る血の気配で胃が攪拌されるのを堪えながら霊刃を握り締めた。


魔物が一声も発さず、粒子状の体を引き絞るようにうねらせ、一瞬で間合いを詰める。

その速度は、裂かれた肉から滴る血が地に落ちるよりも速く、瞳が追いつく前に獲物を噛み千切らんとする飢えた衝動が伝わってくる。


「動きは速いが、相手の本体を見極め、決定的な一撃を。」

神威の指示が冷静に響くが、それは傷口を舐める飢えた虫の囁きにも似て、残酷さを帯びている。


俺は瞬時に魔法陣を展開し、切り裂かれる一歩手前で体を捻るように攻撃をかわす。

目の前で粒子が渦巻き、空間そのものを切り刻むような音が聴こえる。

透明化の術を発動し、己の姿を消すと同時に、再び魔法陣を組み直し、氷結魔法を放った。


突然現れる氷の壁が魔物の動きを一瞬止める。

その刹那、粒子が強張るように弾け、飛散する断片が細かな棘のように俺の頬を裂き、血が熱を孕みながら滴る。

しかし、その瞬間を逃さぬように、俺は黒炎をまとわせた霊刃を振り下ろす。


黒炎が

魔物の中心に

命中する


不安定だった粒子が

内臓を抉るように爆ぜ

本体が露わになる

黒ずんだ核は

脈打つ心臓のように吐息を散らし

光の腐汁を滲ませていた



「見えた!」一気に本体を貫く。

黒炎が本体を焼き尽くし、魔物は喉を貫かれた獣のように光を吐き出して爆裂するように消え去った。


俺はその場に立ち尽くし、肺の奥で血と焦げた匂いが溶け合う荒い息を整えながら周囲を見渡す。

異次元の魔物は完全に消失し、あの異様な空気も徐々に静寂の中へ溶け込んでいく。

流れた血は頬の上で冷え、焼けた皮膚が微かに疼く。


「驚くべき反応速度だったな。しかし、お主はそれに対処できた。」


霊刃を収めながら、俺は少し疲れた様子で頷く。

頬を伝う血が鉄錆の味で舌先を刺激し、微かな愉悦が胸中に残る。

「まぁ、こういう戦いは面白い。」


再び歩き出す。


新たな獲物の気配を求め、血と苦痛と狂気が交差する狩猟場へと進んでいく。

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