32 戦士の覚悟
強烈な日差しが砂漠を焼き、乾いた風が肌を切りつけるようだった。
砂が舞い上がり、視界を妨げるたびに目を細める。
それでも俺は足を止めない。
背中に掛けた黒炎の霊刃が、確かな重みで存在を主張していた。
この重さは嫌いじゃない。
むしろ、戦いを求める俺の心を落ち着かせてくれる。
「次の狩猟場、まだか?」俺は神威に語りかけた。
「焦るでない、もう間もなくよ。だが無駄な体力を削るでないぞ。お主の身体は既に限界近い。」神威の声は相変わらず冷静だったが、その奥に含まれるわずかな気遣いを感じ取った。
「わかってるさ。」
俺は息を整えながら答えた。
けれど、心は既に次の戦場に向かっている。
どんな獲物が待っているのか。
その想像が、全身の血を熱くさせる。
遥か遠く、蜃気楼の揺れる向こうに小さな町の影が見えた。
俺は無意識に足を速める。
砂漠の過酷な道のりを越えた先に、わずかな休息が待っている。
戦いの合間の短い時間、俺にとって必要なものだ。
町に入ると、まずは道具屋へ向かった。
手際よく魔法薬や補助アイテムを補充し、戦いの準備を整える。
普段ならさっさと済ませるところだが、今日は何故か少し余裕を持ちたかった。
「これで必要なものは揃ったか?」神威が念話で問いかけてくる。
「ああ、これで十分だ。」
俺は応えながら、店を後にした。
次に向かったのは町外れの飯屋だった。
扉を開けると、肉が焼ける香ばしい匂いが鼻腔を満たす。
一歩足を踏み入れると、熱気とともに、腹の底から本能的な渇望が湧き上がった。
俺は迷うことなく一番奥の席に座り、次々と料理を注文する。
しばらくして運ばれてきたのは、山のように積まれた肉の盛り合わせ。
牛、羊、鶏、さらには魔物の肉までが焼かれ、香辛料が振りかけられている。
俺は無言で一切れを口に放り込んだ。
噛むたびに肉汁が溢れ、血液が沸き立つような感覚が体中を駆け巡る。
「食べすぎるでないぞ。」神威が静かに警告する。
「うるさい。これも戦いの準備だ。」
俺は次々と肉を口に運び、まるで飢えた獣のように食らいついた。
満たされていく感覚が、次の戦いへの渇望と絶妙に混ざり合う。
料理を平らげる頃には、皿が積み重なり、店の主人が驚いた顔でこちらを見ていた。
俺は満足そうに椅子にもたれ、腹に手を当てながら深呼吸をした。
砂漠を越えてきた疲れも、今ではどこか遠くへ消えていったようだった。
「腹が満たされたか?次は戦場が待っておるぞ。」
「ああ。準備は整った。」
俺は立ち上がり、勘定を済ませて店を出た。
外に広がる砂漠の風景が再び目の前に迫る。
太陽が傾き始め、背中の霊刃が夕日を反射して淡い輝きを放っていた。
町の外れで深く息を吸い込む。
乾いた砂の匂いが肺に満ちるたび、戦いへの渇望が満たされていく。
俺は歩き出した。
風が吹き抜け、背中の霊刃が力強く揺れる。
それが俺の決意を後押しするようだった。
「さあ、行くぞ。」
俺は心の中でつぶやき、次の戦場へと歩を進めた。
新たな敵、新たな戦い。
俺の生きる理由が、そこにあるのだから。
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