18 初めてのデート 2
一条家は
「
「せんそーじ……?」
サトル様が最初にでて、私に手を伸ばしてきた。
……その手を掴み、私は車から出る。
「わ……! すごいです……人が……こんなに……!」
視界を埋め尽くすほどの人の群れが、目の前にはあった。
台場の街も人が多かったけど、ここは……特に多い。
あっちこっちで美味しいにおいのする出店が出ている。
遠くで音楽がなっている。外で、音楽祭でもやってるのだろうか。
土産物を売ってるお店もあるし、お洋服屋さんもある。
……そして、最も目に付くのは、赤くて大きな門。
【雷門】と書かれた提灯のぶら下がる、大きな門だ。
皆、それの前に集まっている。
「ここが、
「す、すごいです……サトル様。どこかでお祭りでもやってるのですか?」
「ははっ。違う違う。いつもこうなのだ」
「!? 普段から……こんなに賑わっているのですねっ」
西の大陸では、極東は妖魔うろつく魔境と呼ばれていた。
妖魔を恐れ、人々が外にでれないのだと。
でも……台場の街もそうだし、
とても、魔境とは思えない。
やっぱり、噂って当てにならない。
「
「では、離れた場所で護衛しておりますね」
サトル様がムスッ、としてる。
……拗ねていらっしゃる?
「……そうだな。何かあるかわからんからな。護衛はいるな」
「はい。おっしゃるとおりでございます。では……いってらっしゃいませ」
私は頭を下げ「送ってくださり、ありがとうございました」と言う。
「レイ。迷子にならぬよう、しっかり! 俺の手を握ってるんだぞ」
迷子になって、サトル様に迷惑をかけてはいけない。
「承知しました」
私は彼の手を、きゅっと握る。
彼は普段以上に、強く、握りしめてきた。
大きくて、逞しい……手だな。
な、なにを見蕩れてるんだろう。
「……人混みはいいな。合法的に、レイと密着できるからなっ」
「え、何かおっしゃりましたか?」
「んんっ! なんでもない。いくぞ」
「はいっ」
私は恐れ多くも、サトル様のお隣を歩かせていただいている。
でも……ふと、違和感を覚えた。
「サトル様。ここは
「そうだぞ」
「なら……ご当主であるサトル様がここを歩いていたら、大騒ぎになるのではないですか……?」
台場の街ですら、サトル様を知ってるかた多かったのだ。
お膝元の街となれば、もうトンデモナイことになるのは目に見えていた。
「案ずるな。俺は今、呪具を身につけてる」
「じゅぐ……? あ、見慣れない眼鏡をかけていらっしゃいますね」
「よく気づいたな。レイは目が良いな。顔も頭も良いがな」
息をするかのように褒めてくるサトル様……。
最近サトル様に褒められると、胸がぽかぽかしてくる……。
「呪具とは、特別な【
「まじない……ですか?」
「ああ。この眼鏡をかけると、相手からの認識を阻害するまじないが施されるのだ」
サトル様じゃないと、他の人から見えるようになる、ということだろうか。
「便利な道具があるのですね」
「そうだな。ただ、呪具には回数制限があるのだ」
「なるほど……異能と違って、頻繁に使うわけにはいかないのですね」
「ああ。それと、まじないの強さで、呪具には等級が付けられていてな。最上位の呪具は、【宝具】という」
「ほうぐ、ですか」
「ああ。雨を降らすや、嵐を巻き起こすといった、異能と同等か、それ以上の効果を引き出す呪具も存在する。が、とても希少なもので、市場では出回っていないがな」
宝具は希少すぎて出回っていない……か。
でもサトル様の呪具も、十分に、凄いアイテムではないだろうか……?
一個いくら位するんだろうか……。
「まあ、この呪具のおかげで、俺はおまえとのデートに集中できる次第だ。これがないと、街のやつらが押し寄せてくるからなぁ」
……やっぱりサトル様は、人気者なんだ。
当たり前だ。一条家の当主だし、かっこいいし、優しいし……。皆から好かれて、当然なんだ。
ちくっ、と胸が痛んだ。
……恐れ多くも、私は、サトル様を……独占したいと思ってしまった。
ああ、なんて……浅ましい。
サトル様は、皆のサトル様なんだから……。私なんかが、独占していいわけないのに……。
「立ち止まると、危ないぞ。ほら、いくぞ」
「は、はい……」
仲店のなかを、私たちは手をつないで歩く。
周りを見渡すと、私たちと同じように、若い男女が仲睦まじく歩いていた。
デート……してる。
そう……私は、サトル様と……男の人とデートしてるんだ。
こんな日が来るなんて思ってもみなかったな……。
「どうした?」
「あ、いえ……男の人とデートするの、初めてで、ちょっと緊張してて……」
するとサトル様が、ぱぁーっと、明るい顔になる。
「そうかっ! つまり、俺はおまえの、初めてのデート相手ということだなっ!」
いつになく、上機嫌なサトル様。
「は、はい……」
「そうか! 俺もだ! 女性とデートするのは、母様を覗き、おまえが初めてだぞ!」
……そう、なんだ。
そうなんだ……。
へえ……。
……。
…………駄目だ。顔が、にやけてしまいそうになった。
サトル様の初めてをいただけたことが、うれしくて……。
サトル様と、デートするような相手が、他に居なくて……。
私はうれしいって、思ってしまったのだった。
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