15 レイの真価 4



「レイ! 大丈夫か!?」


 気づけば、サトル様が私のことを、抱きしめていた。

 多分一瞬で移動して、私を、爆発から身を挺して守ってくださったんだ。


「怪我はないか!?」

「は、はい……」

「良かった……本当に……」


 サトル様が強く、抱きしめてくださる。

 ……私はとても幸せな気持ちなる。

 

 だ、駄目。私は……魔力無しの使えぬ屑。

 一方、サトル様は尊き御方なのだ。


 こんな風に抱きしめてもらうことなんて、本来ありえないこと。


 離れないと。

 でも……離れたくない。


 真紅郎しんくろうさんが咳払いをする。

 私たちは慌てて、離れる。


「おけがはありませんか、レイお嬢様」


 包帯グルグル巻きの真紅郎しんくろうさんが尋ねてくる。


「はい、サトル様が守ってくださったので」

「当然だ。おまえは俺の大事な妻なのだから」


 この人は本当に優しくて、だから……い、いけない。

 こんな気持ち、恐れ多くて抱いては、いけないのに……。


「それにしても、驚きました。霊力測定の水晶が壊れるほどの、霊力が、レイ様にあるなんて……」

「ああ、俺も吃驚びっくりだ。そして……凄いことだぞ」


 私は首をかしげ、サトル様に尋ねる。


「どういうことですか?」

「ああ、本日をもって、極東最強の異能者は、おまえになったと言うことだ」


 …………………………はい?


「い、意味がわかりません……」

「異能者の強さは、飼っている妖魔の等級もそうだが、妖魔の力を引き出す、霊力に強く依存する」


 霊力に依存……。

 つまり、霊力が強いほど、異能者として強い……ということ?


「極東で一番の霊力量を持つのは、今までは俺だった。霊力1万5千。これが、天井だと」


 真紅郎しんくろうさんが続ける。


「お嬢様は、極東最強の異能者、悟様でさえ破壊できなかった水晶を、壊すほどの霊力をお持ちになられてる。つまり、今を持って最強はお嬢様となったのです」


 わ、私はその場で膝をついて、頭を下げる。


「申し訳ございません!」

「「「は……?」」」


「私ごとき屑が、恐れ多くも、サトル様の上を行くなんてご無礼を働いてしまい! 申し訳ないです!」


「れ、レイ……すまん。正直、おまえが何に謝ってるのか、さっぱり理解できん」


 私はサイガ家でのことを話す。


 この家で一番えらいのは、間違いなく、一条家当主のサトル様。

 そんなサトル様を、上回るようなことは、あってはならない。


 サイガ家でもそうだった。

 何に置いても、当主より上にいったり、先に行くことは許されていなかった。 


「レイよ……なんと、不憫な……」


 サトル様が私を優しく抱きしめてくれた。


「ひどい! お嬢様にそんなことするなんてっ!」

「レイお嬢様に酷いことする家なんて潰れちゃえば良いのにっ!」


 黒服の皆さんが、本気で、憤ってくださっていた。

 こんな、私のために……?


「おまえは、黒服達を地獄から解放してくれただろう? 皆おまえに感謝し、愛おしいと思っているのだよ」


 うんうん、と黒服の皆さんがうなずいてる。

 皆さん……。サトル様も含め、皆さん……本当に優しい人ばかりだ……。


「もういちいち恐縮する必要はないのだ。おまえは、凄い。極東最強を越えるくらい、凄いのだ。自信を持て」


「でも……サトル様より上なんて……不敬ではありませんか?」


「まさか。俺は誇らしいよ。おまえのような、素晴らしい娘を妻にできるのだからな」


 ……この人の言葉を、素直に受け止めたい。

 でも……私は昔から魔力無しのクズだと言われ続けてきた。


 自分に、自信が無い。

 だから、素直に彼の言葉を受け止められない。不甲斐ない、ほんとに。


「水晶が壊れてしまったな。まあ、すぐ直せるから気にするなよ」


 サトル様は懐からお札を取り出し、それを口にくわえると、フッ……と息を吹き込む。


 お札はみるみるうちに膨らんでいき、やがて……小さな人形へと変化した。

 顔や手など、かなりデフォルメされた、可愛らしい人形である。


「これはいったい……?」

呪禁じゅごんが一つ、【修復の式神】だ」


「じゅごん……?」


 朱乃あけのさんが説明する。


呪禁じゅごんとは、呪い……つまり霊力を用いて、ケガや呪いを治す術のことですよ」


 つまり、回復魔法のことらしい。


「修復の式神は、壊れた物を修復する術式が組み込まれているのだ。見ておれ」


 お人形さんがてこてこと近づいて、落ちてる水晶の破片を持ち上げる。

 破片を二つ手に取り、ぴったりくっつける。

 淡く輝くと、二つの破片が1つに合体した。


「壊れた物が、直っていきます!」

「このように、呪禁じゅごんにはケガを治すだけでなく、モノを修復させることもできるのだ」


「すごいです……私にもできるでしょうか?」


 私が壊してしまったんだ、私が治さないと。


 すると、真紅郎しんくろうさんが首を振る。


呪禁じゅごんを使えるのは、男のみなのですよ」

「どうしてですか?」


「男にしか陽の気を使うことができないからです」


 霊力は、男の陽の気、女の陰の気でできてるといっていた。

 だから呪禁じゅごんは男にしか使えない技術、と。


「そうなんですね……申し訳ないです……」

「気にするな。ほっとけば、式神が治してくれる。まあ、時間はかかるがな」


 サトル様が式神を3つ作る。

 式神たちは手分けして、散らばってる破片を集めてる。


 なんだか申し訳なくって、私も破片を集めるのを、手伝うながらふと思う。


「もしかして陰の気をかけあわせたら、陽の気ができないでしょうか?」

「なにを言ってるのだ?」


「マイナスにマイナスをかけると、プラスになるではありませんか? だから、陰の気をかけあわせば、女でも陽の気が使えるかなぁと」


 サトル様をはじめ、皆さん首をかしげていた。


「マイナスに、マイナスをかける?」

「はい、西の大陸では、算術にマイナスのかけ算というものがありまして……」


 もしかして、極東では、使われてないのだろうか。マイナスのかけ算。


「女でも呪禁じゅごんが使えたら、それはもうトンデモないことだ。異能の常識が覆されるぞ」


「す、すみません。素人の思いつきなんで。無視してください」


「まあでも、試してみてはどうだ?」


 お許しが出たのでやってみよう。

 右手に、霊力。そして、左手にも、霊力を集める。


 両方にマイナスの、陰の気が宿ってる。

 これを二つ掛け合わせる、つまり……体の前で手を合わせれば……。


 カッ……!!!!!


「これは……陽の気!? バカな!? 女のレイから、陽の気が発生するなんて!?」


 サトル様が驚愕する一方……。

 私の手の中では、まばゆい光がどんどんと大きくなっていく。


 ……そして、光は唐突に消えた。


「悟様! 水晶玉が戻っております!」


 真紅郎しんくろうさんが水晶を手に取る。

 な、直ってる……良かった……。


「俺の呪禁じゅごんを、凌駕する、強力な呪禁じゅごんだ……! すごいぞ、レイっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る