14 レイの真価 3



「人間の姿になった! やったぁ!」


 黒服の女の子が、その場でぴょんぴょんと跳びはねる。


「良かったね!」

「うんっ!」


 広間には黒服の方達が一列に並んでいる。

 上座に座るのは私と、サトル様。


 私は黒服さんたちに、【異能殺し】の力を使う。

 黒服さんたちは、全員が寄生型能力者。


 異形の姿をしてる人たちだった。

 でも、私の力で、異能がコントロールできるようになってる。


「もう……悪魔って、言われずにすむんですね……」


 ぽろぽろ……と黒服さんが、涙を流す。


「今までよく耐えたな」


 人間姿になった、黒服さんの頭を、サトル様が撫でる。

 皆さんが元の姿に戻れたことが、うれしくてたまらないのが、見ていてわかる。


「ありがとうございます、レイお嬢様っ!」


 人間に戻った黒服さんが、私の手を握って、何度も頭を下げる。


「レイお嬢様は、あたしの恩人です! これから、一生かけて、あなた様に仕えます!」

「そ、そんな……大げさです」


 皆さんが口々に、私への感謝を述べてくれる。

 ……良かった。


 皆さんいい人達なのに、私は何もしてあげられていなかったから。

 だからこうして、皆さんの喜んでもらえるようなことができて、うれしい。


「レイ、少し休憩を取ろう」


 サトル様がそんな提案をしてきた。


「おまえ、さっきからずっと霊力を使いっぱなしじゃあないか」


 霊力を使う……?

 すると、隣で控えていた朱乃あけのさんが説明する。


「異能を使うのには、霊力を消費するのです」


 男なら陽の気、女なら陰の気、それらを総合して霊力という。

 霊力は妖魔の力を使う際に、必要となるエネルギーだそうだ。


 西の大陸でいうところの、霊力は魔力、魔法は異能という感じらしい。


 魔力の場合、使い続けると、精神力を消耗し、頭痛を引き起こし、最悪気絶してしまっていた。


「霊力がつきるとどうなるのですか?」

「死ぬ」


「死ぬ!?」


 そ、そんな大変な事態になるんだ……。

 き、気をつけないと。


「正確に言うと、体内の霊力を全て失うと、飼っている妖魔に体を乗っ取られて、暴走するのだ」

「そ、そんなことになるんですか……」


「ああ、そして暴走状態になると、もう二度と、絶対、人間には戻れなくなる。そうなると駆除の対象となってしまう」


 死ぬ、とはそういうことなんだ。


「だから、レイ。おまえには、霊力を測定してもらう」


「霊力の……測定、ですか?」

「ああ。しっかり自分の限界量を見極めておかないとな」


 と、そこへ……。


「悟様。戻りました」

「おう、真紅郎しんくろう


 入ってきたのは、全身に包帯を巻いた、黒服のかただった。

 顔全体、そして肌の至る部分にも、包帯が巻かれてる。


「レイにはまだ紹介していなかったな。百目鬼どうめき 真紅郎しんくろう、俺の秘書だ」


 百目鬼どうめき……?


「もしかして……朱乃さんと蒼次郎君の」

「はい、兄でございます。長兄の真紅郎です、はじめましてお嬢様」


 真紅郎しんくろうさんは私にぺこり、と頭を下げる。

 素肌を隠してるということは、寄生型能力者なのかな……?


 それにしても、全身を包帯で巻くなんて、どんな妖魔を飼ってるんだろう……?


「兄さん、どこ行ってたの?」


 朱乃あけのさんが真紅郎しんくろうさんに尋ねる。


「極東城の科学班のところだ。霊力測定の水晶を借りてきたのだよ」


 真紅郎しんくろうさんの手には、大きめの水晶玉が握られていた。

 それを、私に渡してくる。


「これを握り、霊力を込めてくださいませ」

「は、はいっ」


 水晶玉……本当に何の変哲もない、普通のもの。


「サトル様……霊力とはどのように、込めれば良いのでしょう」

「そうだな。手本を見せたほうがいいな。朱乃あけの


 朱乃あけのさんがうなずいて、私から水晶玉を受け取る。


丹田たんでんのあたりにある霊力を、こうして、手のひらに動かすイメージでございます」

「た、たんでん……?」


「おへそのことだよっ」


 蒼次郎君が教えてくれた。


 朱乃あけのさんが水晶玉を握り、霊力を込める。

 水晶玉には【四〇〇】と数字が表示された。


「れ、霊力……四〇〇!?」


 朱乃あけのさんが目をむいている。

 どうしたんだろう……?


 サトル様も、そして真紅郎しんくろうさんもだ。


「し、真紅郎しんくろう。おまえ、霊力をちょっと測ってみろ」

「はい…………一〇〇ですね」


 朱乃あけのさんのほうが霊力が上なんだ。

 

「これは……」「まさか……」


 朱乃あけのさんとサトル様が目を見合わせてる。


「俺が、やってみる」


 サトル様が水晶を手に取る。


「【一五〇〇〇〇】」


 れ、霊力15万!?

 凄い。さすが、ご当主様は、霊力の桁が違う……。


矢張やはり……」

「では……」


 朱乃あけのさん、サトル様、そして……真紅郎しんくろうさんの三人が、私を見つめてくる。

 

「レイ。おまえは……凄いぞ」

「は、はい……? 何がでしょう」


「おまえは、他者の霊力を、10倍、上げることができるようだ」


 ………………はい?


「どういうことでしょうか?」

「俺の霊力は元々1万5000だったのだ。それが、15万になっていた」


 朱乃あけのさんが言う。


「アタシは霊力四〇でした。それが、四〇〇に」


 お二方の霊力は、確かに、一〇倍になってる……。

 け、けど……ええ?


「わ、私のおかげってどういうことですか?」

「俺たちに共通するのは、レイに異能を使って貰ったかどうかだ」


 確かに、朱乃あけのさんには、異形を戻すときに使った。

 サトル様には……使っただろうか。


「陰陽の儀式をしただろう?」

「な、なるほど……え、つ、つまり……私が霊力、異能を使うと、他者の霊力を増幅させるのですか……?」


「そうなるな」

「ど、どうして……?」

「わからん……」


 サトル様が、本気で困惑なさっていた。


「レイの異能は、【異能殺し】だけだと思っていた。だが……もしかしたらレイには、異能がもう一つあるのやもしれん」


「ふ、二つ目の異能……? それって、よくあることなのですか?」


 ふるふる、とサトル様、そしてその場にいる全員が首を振る。

 真紅郎しんくろうさんが言う。


「異能者の異能は、たとえどのタイプであっても、一人につき一つ。妖魔を体の中に二つ飼うことは、不可能です。それは、極東五華族当主であろうと、極東王であってもです」


 二つ持ってる私がイレギュラー……ってこと?


「これは本格的に、科学班に調べてもらわねばな……」

「ですね。すぐに連絡をとっておきます」


 真紅郎しんくろうさんが言う。


「その前に、レイ。霊力を込めてみろ」

「あ、はい」


 確か……おへそのあたりの力を、手のひらに持って行って……。


 ピシッ! ピシピシッ!

 ぱきぃいいいいいいいいいん!


 水晶が、粉々になってしまったのだった。

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