【Side】一条 悟
俺こと、
「…………」
妖魔は陰の者。
陽の光に弱いのだ。
それゆえ、東都では夜の間も、ガス灯の光を絶やさぬようにしてあるのだ。
「はぁ……」
「どうなされましたか、悟様?」
自動車を運転してる、使用人の一人……【
「レイとどうすれば仲良くなれるだろうか?」
「…………驚きました。まさか、ぼっちゃまが、女性に関心を示すとは」
真紅郎が本気で驚いた調子で言う。
幼い頃から、俺のことを見てきたからこそ、出てきたセリフだったのだろう。
「悟様は一条家当主。昔からいいよる女性の多いこと。けれど、その全てをひらりひらりと、交わし続けてきましたよね」
「ああ。家柄にしか興味ない娘なんて、お断りだからな」
すりより、媚びへつらってくる娘は、大きく2種類に分けられた。
一条家の財産、および権力に目が眩んだもの。
そして、一条悟の美しい顔に惹かれたもの。その両方。
どちらも、俺の外見や、彼の家柄など、持って生まれたものにしか興味がない連中ばかりだった。
誰も、本当の自分を見て、惹かれるものはいなかった。
そんな状況が幼い頃から続いたのだ。
俺は、いつしか女性に対して不信感を抱くようになった。
どうせどの娘も、自分の顔か、家にしか、興味ないだろうと。
信じられる女性は母や、
それ以外の娘なんて、どうでも良かった。
そんな俺も年頃になり、結婚しなければいけなくなった。
一条の当主して、次の代に、この家と異能を引き継がねばならなかった。
極東王から、直々に命令がくだったのだ。妻を作り、子をなすようにと。
最初、極東の女性たちが全国から押し寄せてきた。
だが、俺はすべて断った。
上述のとおり、俺は極東の娘らを信じられなかったからだ。
お見合い話を全て断ると、今度は、西の大陸から妻を娶れと、王は言ってきた。
西の大陸。つい最近、貿易を開始した、剣と魔法の世界の国。
まあ、極東の女性より、自分のことを知らないやつのほうがいいかと、話を受けたのだが。
後に、俺は知ることになる。
西の大陸には、自分のあだ名である【極東の悪魔】が伝わってるとのこと。
何人もの貴族の令嬢たちが、こちらにくる途中で謎の失踪を遂げていた。
まあ、仕方ないだろう。誰も悪魔のところになんぞ、着たくないのだろうから。
……だから、サイガ家との婚約話がきた際に、俺はやってくる娘に対して、全く期待していなかった。
どうせ、途中でまた謎の失踪を遂げるのだろうと。
しかしやってきたのは、たいそう、変わった娘だった。
驚くくらい、自分に自信のないやつだった。
けれど、海坊主から、船員を守ってみせたのだ。
そこに俺は、この娘は他の子とは違う何かを感じ取った。
その後、悟俺はレイのことを知る。
レイは悪い娘では決してない。
異能殺しの力に、膨大な霊力を持ち合わせる。
それでいて、その力を決して誇示しない。
使用人たちを、街の人たちのように、【悪魔】と呼ばないし。
本当にいい娘が来てくれたものだと、心から、感謝し、気に入っていた。
そう、気に入っていた、だった。
風呂上がりの彼女を見るまでは、そこまでの娘だったのだ。
「困ったな……俺は、あの娘に、好かれたいと今強烈に思ってる。あの子のもとへすぐに帰りたい、抱きしめたいと思っている。それと同時に、彼女を見てると体がこわばり、心臓が高鳴り、動けなくなってしまうんだ」
俺は理解した。
自分は、あの風呂場で彼女を見た瞬間、心を奪われたのだと。
「初めてだよ、本気で、女性に対し、異性に向ける好きという感情を抱いたのは」
母・
こんなふうに、異性に対して、ドキドキしたり、その子のことが気になって仕方なくなってしまうなんてことは、なかった。
「ぼっちゃま、おめでとうございます」
真紅郎が自動車を走らせながら微笑んでいる。
「やっと、
真紅郎の頬から涙が伝う。
彼らは皆、一条悟が辿ってきた過酷な運命を知ってる。
だからこそ、嬉しいと思ってくれているのだ。
「俺は、レイのために、何をすればいいかな」
「そうですなぁ。とりあえず、目一杯、愛してあげてはいかがでしょう?」
「しかしな、その、照れてしまうんだ。レイがな、もう、驚くくらい美人になっていてな。まともに彼女を見られん。なあ、真紅郎。どうすればいい?」
「頑張れ、ぼっちゃま」
「いや、具体的な解決策をだな」
「こればかりは、当人同士の問題ですからね。頑張れとしか言いようがありませんよ」
くっ、と俺は頭を抱える。
「仲良くなるためには、愛でる必要がある。が、そのためにはレイに近づかねばならないが、美しすぎて直視できん……どうすれば……」
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