第7話 一条家の人々 1
あの後すぐ、サトル様のお迎えのかたがやってきた。
私たちを連れて、これから、一条家へと向かう。
「あ、あの……」
「ん? どうした?」
私が座っているのは、ふかふかの椅子。
窓の外の景色が、ものすごい早さで流れていってる。
「ああ、自動車は初めてだったか?」
私たちが乗っているのは、自動車というらしい。
馬を使わない馬車だそうだ。
「極東は魔法技術が元々なかったからな。代わりに、電気や燃料で動く道具を作る技術が磨かれていったのだよ」
「いえ、その……それは、わかりました」
極東が、私たちの住んでいた西の大陸とは、別の進化をたどっていったということは。
「その……」
「なら、どうした? 体を縮ませて? 自動車が怖いのではないのか?」
「はい……。乗り心地よく、大変よろしいのですが……その……」
そう、私が困ってるのは……別のこと。
「近い……です」
なんというか、サトル様が……もう凄く近い。
なんだったら、ぴったりくっついてる。
「? 何か問題でも」
「いや……その……」
……近くで見ると、改めて思う。サトル様のお顔……とても綺麗。
神様が自ら作ったのではないか、と思うくらい、顔のパーツが整っていらっしゃる。
そして……とても良い香りがするのだ。
男性なのに、花みたいに、良いにおい……。
そんな彼が、ぴったり密着してくる。
怖くは、ない。むしろ、胸が、ドキドキしてしまう。
「す、少し……間を開けてほしいといいますか……す、すみません! 私ごときが意見をして」
「ふむ、まあ別にそれはいいが。しかしな、【レイ】よ」
……レイ。
今、サトル様、私のことレイって呼んだ……?
今まで花嫁、と呼んでいたのに、どうして……?
「どうした、レイ?」
「あ、いえ……なんでもありません」
「何でも無いという顔をしてないが?」
ずいっ、とまた顔を近づけくる。
な、なんでこんなに……私にくっつくようになったのだろう?
「正直に申せ」
「その……どうして、サトル様は私に、こんなにくっつくのですか……?」
なるほど、とサトル様がうなずく。
「まあ、簡単に言うとな、レイ。おまえのことを、先ほどの一件で、さらに気に入ったからだ」
「先ほどの……一件?」
「妖魔の毒から、女の子の命を守ってくれただろう?」
私の持つ【異能殺し】というべき異能で、魚妖の毒でおかされていた女の子を助けた。
「一条家当主として、俺は妖魔からこの【東都】の民を守る義務がある」
「東都……?」
「我々の居る、大きな都だ」
東都とは、極東の中心地らしい。
王国で言うところの王都だそうだ。
「東都は人が集まる。なぜなら、東都には【極東王の城】があるからな」
そして、とサトル様が続ける。
「極東王より、我ら一条家には、【東都の守護】を一任されているのだ」
……なるほど。そんな大役を任せられてるから、一条家は【極東五華族】に名を連ねることができるんだ。
「東都の守護、それすなわち、東都に住まう人々の安寧を守ることだ。俺は……あと一歩で、あの女の子を殺してしまうところだった……」
サトル様が、本気で、悔しそうな顔をしてる。
この方は、極東王から一任されている、お役目を果たすことを……何よりも重要に思ってるんだろう。
「おまえのおかげで、あの子は死なずに済んだ。俺の代わりに、一条のお役目を果たしてくれた。ありがとう」
ふっ……とサトル様が優しく微笑み、私の髪の毛をなでる。
……どうしよう、凄く、うれしい。
人から褒められたことなんて、一度も無かったから……すごく……。
「お、おいなぜ泣く……? 気に触るようなことでもしたかっ?」
「違うんです……褒めていただけたのが、うれしくて……」
「ああ、なんと……おまえは、向こうでツラい目にあっていたのだな」
サトル様がぎゅっ、と抱き寄せてくる。
……さっきより、安心感を覚えた。
「レイ。もう大丈夫だ。おまえは、立派な一条の女だ。供に、東都を守護するお役目を、果たして欲しい」
……この方は、私を認めてくれたようだ。
自分の、花嫁であると。
自分の……家族であると。
私を、家族と認めてくれたことが、うれしくて、たまらない。
「……もちろんです。精一杯、できることを、させていただきます!」
何ができるかわからない。
でも……私のこの、【異能殺し】の力が、少しでも一条家の、サトル様のお役に立つのであれば……。
私は、喜んで、この方のために力を使おう。
「「…………」」
サトル様が、放してくれない。あれからずっと抱きしめてくる。
「あ、あの……」
「? どうした?」
「その……」
放して、なんて不敬なことは言えない。
「ああ、これから行く場所について説明してほしいのか?」
違うけど、まあ、そういうことにしておく。
「これから行くのは、一条家の本邸がある、【
「あさくさ……?」
「うむ。東都の門前町として、有数の観光地、および繁華街、観光街となっている」
「へえ……」
「気の良い奴らが多い。きっと異国から来たおまえのことも、すんなりと受け入れてくれるだろう」
「…………だと、良いのですが」
この極東のひとたちは、基本的に、みな黒髪をしてる。
サトル様が例外的に白髪だけども。
私の髪の毛も、確かに黒いみがかってる。でも、よく見ると少し紫っぽい。
そして、極めつけは私の目。
「…………」
異国の血が流れてることが、わかってしまう。
「レイ。おまえの目は……美しいな……惚れ惚れする」
振り返ると、サトル様のお、お顔……ちか……。
唇が、触れてしまいそう……。
「よく晴れた、冬の青空のようで、綺麗だ」
「あ、ありがとう……ございます……」
この人、いちいち近い。距離感どうなってるのだろう……。
いけない。そんな感想を抱くのは不敬だ。
彼が私の体を望むなら、差し出さねば……。でも、まだその、心の準備が……。
「ついたぞ」
ぱっ、とサトル様が離れてくださった。良かった。
……でも、ちょっと残念と思ってしまう私が居る。
なんなのだろうか、これは……。
「さ、ついたぞ。ここが、我が一条邸だ」
自動車から降りると……。
「「「「お帰りなさいませ、ご主人様!」」」」
……黒い着物を着た、たくさんの男女が、私たちを出迎えてくれた。
門から玄関口まで、ずらり……と。
その先にある、巨大な……お屋敷に、私は圧倒されてしまう。
サイガ家のお屋敷より、はるかに大きい。
「ここが今日からレイが俺と暮らす場所だ。ちょっと古いが、住み心地は良いぞ」
……もしかして一条家って、私が思う以上に、お金持ち……?
いや、でもそうだ。
一条の家は東都……極東の中心都市の守りを一手に任されてるのだから。
……もしかして私、トンデモナイところに、嫁いできてしまったのでは?
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