第2話 無能令嬢の嫁入り 1

 私、レイはお父様の部屋を出て、自室へと向かう。


「無能のレイがやっとお屋敷から出ていくみたいよ」

「やっとか」

「この家の品位を下げるから、さっさと出ていってほしかったんだよねぇ」


 廊下を歩いていると、使用人たちが、私を見て言う。

 ……この屋敷において、私は彼らより立場が下だ。


 当然だ。

 私には、人にあって当然の魔力がないのだから。


 部屋に戻り、嫁ぐための荷物をまとめる。

 と言っても、簡単な衣類や、本くらい。トランク1つで、荷物は全部。


 最後に、母と撮った写真を手に取る。


「…………」


 ぽろり、と涙がこぼれ落ちる。

 お母様……。


 どうして、こんなことになっちゃったんだろう。

 私はこれまでのことを、思い出す。


 私はサイガ家の長女として生を受けた。

 生まれてすぐに魔力を測定し、そこで、私には魔力がないことが判明した。


『無能なんて産みよって! このクズが!』


 記憶の中の父は、いつも母をいじめていた。

 母は、祖母たちが決めた結婚相手だったらしい。


 そして、父にはもともと恋人がいたのだが、結婚のために、無理やり別れさせられたとのこと。

 母に対する愛情を、元々持っていなかった父は、無能を産んだ全責任を母に押し付けた。


『今すぐその無能を殺せ!』

『どうか、それだけは、どうかご勘弁ください!』


 母だけが私を庇ってくれた。

 その後、母と私は物置に隔離されることになった。


 寒い冬、過酷な環境。私たちは身を寄せ合って、なんとか毎日を過ごしていた。

 父は私に養育費を用意してくれなかった。


 だから母が外に出て働いていた。

 私を育てるために必死で働いた結果、母は過労で死んでしまう。


 私は、もう人生終了だと思った。

 私の唯一の味方が死んでしまったのだから。


 ところが、私は屋敷で暮らしていいことになった。

 どうして急に? と思ったのだが、答えはすぐにわかった。


『おまえが、あの女の娘ねぇ』


 新しい母が、私を見てそういった。

 この人は父と元々恋人関係だった人だ。


 母と祖母たちが死んで、父の結婚に反対する人はいなくなった。

 だから、元々の恋人である義母と結婚したのである。


 義母は、どうやら自分たちの仲をひきさいた母と、そして祖母に強い恨みを抱いていたらしい。

 だから、憂さ晴らしにと、私に意地悪をするようになった。


『無能クズが! 生かしてもらえてることに、感謝することね!』


 屋敷に引き取られた私は、召使のようにこき使われることになった。

 教育を受けさせてもらえず、食事もまともに与えてもらえない。


 私は召使として働きながら、義母や義妹、父、そして、周囲の人たちからいじめられて、生きてきた。

 ……そんな生き地獄から、ようやく、私は抜け出すことができるのだ。


 嫁ぎ先が海を跨いだ向こうであろうと、結婚相手が極東の悪魔だろうと、どうでもいい。

 ここから脱げさせるなら、どうでもいい。


 そして、数日が経過し、私は極東に嫁ぐことになった。

 港町までいって、そこから船にのって、極東を目指すことになる。

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