第6話 藍の導き手

 「それより、」藍甕を指さしながら言った。「まずは実験をどう完成させるか考えた方が現実的だろう?」


 「そうだね!」彼女はすぐに本題に戻った。「まずは布の選び方…」


 「布は質感が細かいものを選ぶといい、」千紗は真剣に言いながら布の山から慎重に選び出した。「こうやって折りたたむと、厚くなりすぎないから。」


 彼女の集中した姿を見て、普段はどこかドジな彼女が、藍染に向き合うと全く違う一面を見せていると感じた。指が布の表面を軽く撫でながら、繊維の向きを確認しているようだった。


 「この布、」ついに一枚を選んで言った。「どう思う?」


 布に触れてみた。「触り心地は確かにいいけど…」


 「どうしたの?」


 「波紋の効果を出すには、小さすぎるんじゃない?」


 彼女は一瞬戸惑った後、笑った。「やっぱり柊原くんは考えが深いね!」


 もう一枚、大きめの布を選んだ。千紗は彼女の考えに従って折りたたみを始めたが、すぐに困難に直面した。


 「変だな、頭の中ではちゃんと思ってたのに…」眉をひそめ、手の動きに躊躇している。


 「スケッチを見せてくれ、」提案した。「一緒に考えよう。」


 彼女は様々な線が描かれた紙を渡してきた。夕陽の光が弱まり、近づいて詳しく見た。


 「見て、」図のある部分を指さしながら言った。「ここから折り始めれば…」


 「あ!」彼女は突然近づいてきた。「そうだ!こうすれば、中心点がここに来る!」


 彼女は染料の匂いをまだ身にまとっていたが、なぜか今回は嫌な感じがしなかった。おそらく、髪に混ざった淡いシャンプーの香りが理由だろう。


 「それで…」少し不安そうに後ろに下がりながら言った。「試してみる?」


 「うん!」彼女はまったく気づかずに、既に布の折りたたみに集中し始めていた。


 夕暮れの光が窓から斜めに差し込み、藍甕表面の金色の波紋が彼女の真剣な横顔に映し出された。その瞬間、なぜ彼女が藍染にこれほどまでに魅了されているのか理解した。


 もしかすると、ある種の美しいものは、こうして全力で取り組む価値があるのかもしれない。


 「よし、これで完了!」千紗は最後の折り目を終え、慎重に布を藍甕に持って行った。


 「ちょっと待って、」彼女を止めた。「染色の順番を確認しよう。今回の折り方は複雑だから、手順を間違えると…」


 「心配しないで!」彼女は自信満々の笑顔を見せた。「全部計算済みだよ。最初の浸染は三分間、それから最外層を開けて、二回目は…」


 手順を整理しながら説明する姿を見て、驚いた。普段はぼんやりしている彼女が、藍染に向き合うとこんなにもきちんとしているとは。


 「それでは、始めましょう!」


 千紗は慎重に染め付けの角度を調整していた。何度か試みた後、動作は以前よりも安定してきた。横に立ち、彼女の時間を計っていた。


 夜の色が静かに窓枠に忍び寄り、教室には一つの明かりだけが灯っていた。甕の表面に浮かぶ金色の「花」が薄暗闇の中で際立ち、まるで天の星が水中に落ちたかのようだった。


 「あと三十秒。」


 彼女は軽く頷き、染液中の布を集中して見つめていた。気づけば、表情は柔らかく、そして決意に満ちていた。その瞬間、別の千紗を見たような気がした。普段の少し不器用な少女ではなく、創作に情熱を注ぐ工芸家としての彼女だった。


 「終わった!」


 一緒に布を藍甕から取り出した。最後の酸化過程は特に長く感じられ、二人で息を呑んで色の変化を見守った。深浅の異なる青色が徐々に現れ、思いがけないグラデーションが流れるような水紋のような模様を描き出した。

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