カヲルノヒズミル譚
砂生
輿図
序
――――それは、宿運と云うような、たまさかの巡り合わせ。
ふたりと、よにんと、さんにんと、ひとりと、ふたりと。
遁走する者達が、まるで約束でもしていたかのように集まった。
戦火に追われ、
人種で差別され、
政治に追い込まれ、
宗教に裁かれ、
身分で区別され、
【正義】の名のもとに、
【悪意】無く投げつけられる石に、
身も心も傷つき、
やがて疲れ果てて。
それでも、
生きる事だけは、諦めきれず。
――――然して、祖国を見限った。
ただ生きて、静かに暮らすために。
彼等は、夢のような理想郷を探し始める旅人となった。
それが例え、雲を掴む幻でも、縋りたいと願った。
やがて、地図の隙間の名も無き山の頂きから、小ぢんまりとした緑豊かな半島を見付けた。
切り落ちた岸壁は要塞の如く、半島を守り孤立させている。
旅人達は、雲に手を伸ばす。
ただ生きて、静かに暮らすために。
然して遂に、
さんにんと、ごにんと、ふたりと、ふたりと、さんにんの旅人達は、
その地に降り立った。
美しい土地。
旅人達は安堵したのも束の間、
見たこともない大きな建物と、
人の暮らす気配がしない様子に戦慄する。
困惑は、旅人達の足を竦ませる。
すると突然、
旅人達の目の前に、少年が現れた。
黒い髪に黒い瞳、黄色みを帯びた白い肌。
幾かの国を経てきた旅人達が、知らない風貌。
切れ長の目に長い睫毛の影を落ち、
黒い瞳から光を隠す無欲恬淡な表情。
けれども、何故だろう。
不思議と、惧れを感じることはなくて。
神秘的にも見える瞳に、心意が惹かれる。
少年は、ゆっくりと旅人達の顔を見回し、微かに口角を上げた。
微かに、
本当に微かに、細められた目元。
本当に微かに、上げられた口角。
それだけなのに。
旅人達が抱いていた底しれぬ恐れや不安を、得も言われぬ安心感に変えた。
「ようこそ」
少年のような外見からは想像だにしなかった低い声は、【彼】が妙齢であることを物語った。
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