第6話 冒険者ギルド
「あれが帝国屈指の冒険者ギルド、アルバロスです」
「……思ったよりでかいな」
隣接する建物とは違い、明らかな異質さを漂わせており、それに近づくにつれて様々な防具や武器を身につけた冒険者らしき人達が目に付く。
「そりゃそうですよ。帝都に位置するギルドですから規模も違います」
「……金には困らなさそうだな」
大空に掲げられたギルド旗を見上げ呟く俺に、レインは小さく苦笑する。
「階級があるので報酬には個人差がありますが……ユースさんは死龍を討伐した実力があるので、直ぐに最上級クラス、Aランク冒険者に昇級できると思いますよ」
「……金が手に入れば何でもいい」
苦笑を浮かべるレインの後に続き、アルバロスの扉を潜る。すると目の前に広がるのは、やはり想像していた通りの光景だった。そこには多種多様の防具や武器を装備した人達で溢れているにも関わらず、賑やかで生温い空気が空間を埋めていた。それは俺にとって異質そのものだった。
「お!レイン!!やっと来たか!!」
此方に気付いた男女の集団が、何やら賑やかに駆け寄ってくる。
「メンバー全員揃ったし、さっそくA級クエストに行こうぜ!!死龍の討伐も突然中止になっちまったし金がねーんだよ……」
「ちょっと、あんたの私情に私達を巻き込まないでくれる?」
「まあまあ、僕らも早くAランクに上がりたい訳だし……レインさえ良ければどうかな?」
忙しなくレインに詰め寄る冒険者を見て、連中の実力を察する。
「ちょ、ちょっと待ってください……今日は彼の入団のサポートに来ただけですから……」
視線が俺に集まり、目を背ける。
「なんだ?この全身真っ黒なガキは……」
「貴方、諦めた方が良いわよ?身体は貧弱、防具も安物、それに加えて覇気のない顔……とても試験に受かるとは思えないわ」
「まあまあ……レインが連れてきた訳だし、見かけに寄らず実力は確かなんじゃないかな……たぶん」
酷い言われように、俺はレインへと視線を向ける。
「そ、そういう事ですので……じゃあまた、明日にでも……」
早足でこの場を立ち去るレインの後に続く。
「わ、私のパーティメンバーがすみません……彼等も悪気があって言ってる訳じゃないのですが……」
「流石は……帝都屈指の冒険者ギルドだな」
「本当にすみません……後でキツく叱っておくので……き、気を取り直して、さっそく受付に向かいましょうか」
奥にあるギルド受付へと向かうと、そこには見るからに受付嬢らしき女が絶えず笑顔を振り撒いていた。
「あの……えーっと、ユース・ヘイズのギルドカードを受け取りに来たのですが……」
「はい?」
「あ、ギルドマスターはいらっしゃいますか?」
「ギルド長なら外出しておりますが……」
二人の間に沈黙が流れる。
「えー……そちらの方がユース・ヘイズ様、で宜しいでしょうか?」
「そ、そうです!ユース・ヘイズさんです!」
レインは安堵した表情で俺に振り向き、小さく微笑む。
「ギルド長からお話は聞いております。それでは入団試験のご案内をさせ」
「い、いえ!違います!ユース・ヘイズさんのギルドカードですッ!!」
どういう事だ……?まさか、試験を受けさせられるのだろうか。
「……ですから、先に入団試験を」
「いやだから!あのユース・ヘイズですよ!?」
気付けば二人のやり取りは多くの視線を掻き集めており、先程までの生温い空気は一変していた。
「騒がしいな……何事だ?」
二人のやり取りに聞き覚えのある声が差し込む。
……眼帯の女騎士だ。
「ナナセちゃん!!良い所に来てくれました……!えっと、ユース・ヘイズさんのギルドカードを受け取りに来たんですけど、話が通ってないみたいで……」
凛とした立ち姿が纏う強者の風格に、俺達に向けられていた多くの視線がナナセへと移り変わる。
「一体……何の話だ?」
「へ……?」
呆気に取られ、気の抜けた声を上げるレインに、ナナセは困惑した表情を作り向ける。
「ギルドカードはギルドに所属していなければ発行できない。先ずは入団試験に合格してからだ……そうだろう?」
「な、ナナセちゃん……?何を言って」
「規則を述べたまでだが?」
……嫌がらせのつもりだろうか?この女、帝国の命令に背く程に俺の事が気に食わないらしい。
狼狽え動揺するレインに並び、ナナセの前に立つ。
「アンタ……俺の顔を忘れたのか?」
「……知らん」
俺に目を向ける事も無く、ただ虚空を鋭く睨み付ける。
「試験は四日後……筆記と実技、共に合格点に満たなければ入団は認められない 」
「知るか……俺はギルド長を待つだけだ。それもダメなら奴に」
「だが、Aランク冒険者レインの推薦という事だ。特別に試験官との模擬戦闘を認めてやる……今日、今直ぐだ」
その一言に漸く理解が追い付く。
「……ああ、そういう事か」
一連の流れは全て仕組まれており、言わば脚本の様なものか……
「しかし生憎、今回は入団志願者も多く、手の空いている者が居ない……よって、私が試験官役を買ってやる」
ナナセの発言にギルド内が騒つく。
「おいおい……幾らレインのお墨付きでも、ナナセさん相手じゃ無理だろ……」
「アイツ、見るからに駄目だ。ありゃ普通に受けた方が良い」
「おいガキ!!やめとけ!!お前じゃ逆立ちしたって勝てやしねーよ!!」
騒々しく野次を飛ばされる中で、依然としてナナセは虚空を睨み続けていた。
「アンタに……そんな決定権があるのか?」
「馬鹿か、貴様は……」
横顔から覗く涼しげな表情から吐き捨てた声には、隠しきれないほどの憎悪が宿っていた。
「それで、どうするんだ?見た所、試験に向けて何も備えていない様だが?」
……まあいい。ここは黙って従うしかないだろう。
それにこれは茶番だ。
俺が勝って、それで話は終わりだ。
「ああ、模擬戦を受ける……これで満足か?」
俺の答えに一層野次は熱気を帯び、騒々しくなる。その中でナナセの口元が一瞬、僅かに歪むのが見えた気がした。
「……付いて来い」
後ろに束ねた金色の髪を揺らし、騒ぎ立てる連中を背に鋼鉄の鎧を軋ませる。
「面倒な事になったな……」
黒いコートを揺らし、野次を引き連れて溜息と共にナナセの後へと続く。
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