第7話 野獣とスキューバダイビング
追っ手のホモガキをかわして海辺の町にたどり着いた野獣先輩は、静かな波音に心を癒されていた。疲労困憊だった身体に潮騒のメロディが沁みる。
「海か……ここならもう誰も俺を見つけられないかもしれないな……」
野獣先輩はそう呟きながら、ふと目に入った「スキューバダイビング体験」の看板を見つける。
「ダイビングかぁ。俺も潜ってみたいなぁ……って思ってたんだよね」
興味本位でダイビングショップに足を踏み入れると、元気のいいインストラクターが迎えてくれた。
「いらっしゃい! ダイビング初めて?一緒に海の世界、楽しもうよ!」
「あ、お願いします…でも、深いところまで行けるやつとか、できますか?」
「深いところ? うーん、初心者向けだと浅いエリアだけど……まぁ、ちょっと頑張ればね!」
インストラクターに軽く流されつつも、先輩は装備を整え、ボートに乗り込む。波の音とともに沖へ進むと、先輩の顔に少しずつ緊張が見え始めた。
「これ、ほんとに大丈夫なんだよな……? なんか不安になってきたんだけど…」
「大丈夫大丈夫! 俺に任せてよ。まずは呼吸をゆっくり整えて、落ち着いてね!」
指導を受けながら、いよいよ海に飛び込む先輩。冷たい水が体を包み込み、最初は恐る恐るだったが、水中の透明感に驚きを隠せない。
「すっげぇ…こんなに綺麗だなんて、たまげたなぁ…」
インストラクターの指示でゆっくり潜っていくと、カラフルな魚たちが先輩の周りを泳ぎ回る。
「うおっ、魚多すぎィ! こんなのテレビでしか見たことないぞ…」
野獣先輩が夢中になっていると、ふと視界の隅に巨大な影が見えた。それは大きなウミガメだった。
「でっけぇ……すごいな、こんなの生で見れるなんて…」
ウミガメと一緒にしばらく泳ぎながら、先輩はしみじみと呟く。
「俺、こんな世界があるなんて知らなかったよ。なんか、追われてるのとかどうでもよくなってきたな……」
しかし、その平和な時間は長く続かなかった。突然、海面の方から妙な音が聞こえてくる。
顔を上げると、潜水服を着た数人の人影がこちらに向かってくるのが見えた。バイブを片手に彼に迫ってくるのを見逃さなかった。
「ファッ!? 追っ手がなんでこんなところまで…」
焦る先輩に、インストラクターが不思議そうに声をかける。
「どうしたの? 知り合い?」
「いや、知らないっす! 知らないっすけど、なんかやばいっす!」
とっさに先輩はインストラクターの制止を振り切り、さらに深い場所へと潜り始める。
「おい! 無理するなって! そんなに深く行ったら危ないぞ!」
「いいから! 俺を追ってこないで!」
水圧が体に重くのしかかる中、先輩は必死で泳ぎ続ける。暗くなり始めた視界の先に、奇妙な光が見えた。
「なんだこれ……潜水艇か……?」
そこには大きな潜水艇が浮かんでおり、ハッチが開いていた。中から忙しない声が聞こえる。
「早くこっちに乗り込め!」
迷う間もなく潜水艇に飛び込む野獣先輩。ハッチが閉まり、静寂が訪れる。
「助かった……のか……?」
潜水艇の中には数人の男女が座っており、彼らは野獣先輩をじっと見つめていた。
「君、追われてるのか?」
「あ、いや……まぁ、そういうことになります……」
「ここは深海の自由な街に繋がる潜水艇だ。君がここまで来たのも、何かの縁だろう」
「えっ、そんなの本当にあるんですか?」
「見ればわかるさ。地上で居場所がないなら、ここで新しい生活を始めるといい」
「マジかよ俺、そんなすごい場所にたどり着いちゃったのか……」
野獣先輩は驚きながらも、彼らの言葉に少し希望を感じ始める。
「まぁ、ここなら追われることもないかもしれないしな……」
深海の光に包まれながら、野獣先輩は新しい人生への一歩を踏み出すことを決意した。
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