第4話
とある詩を思い出した。
─我らが進む生命の道、人生という道。
消して戻ることのできない道。
何があれど人は時とともに道を進む。
ときに人は道に迷い、苦しむこともある。
しかし、今という名の過去を憂えど、
明日は晴れゆく。
人生とはそういうものだ─
明日は、晴れてくれるだろうか?
憂おうが晴れ 第三話
「退避(2)」
約束の24時、ドアが開いた。
「…さて、時間です。…作戦の前に、こちらを。」
客室で待っていた2人に渡されたのは黄色いブレスレットだった。
「お守りです。どうか私たちに幸運が訪れるよう。願いましょう。」
「ありがとうございます。」
「…それでは、こちらへ。」
眼鏡の男性に案内され、入り口の方へと行く。
15人の人が、そこには居た。
…案外、少ないもんなんだな。
眼鏡の男性が、集まった全員に声をかける。
「…本日は、皆様、計画の通り、どうかよろしくお願いします。これは、私たち魔法使いの命運をかけた脱出作戦なのです。くれぐれも失敗のないよう、お気をつけて。」
そのまま、闇に紛れて、港の方へと向かった。
港はやはり大勢の警備員がいた。
しかしどうだ、計画通り、全員が寝ている。
…昨日男に話された計画についてだ、もう少し詳しくまとめる。
まず、警備員の一人に混ざったスパイが飲み物や食べ物に睡眠薬を混ぜる。
そうして警備員達が眠っている隙に、自分たちが管制船の小さな船の格納庫に外部から侵入するのだ。
どうやらその格納庫のみは、構造上監視カメラの大きな死角が生じるらしく、そこに隠れるらしい。
格納庫へは、外部から壁を溶かして侵入するようだ。
…ここで、眼鏡の男が魔法を使う。
魔法の化学エネルギーへの変換の応用だ。
強力な酸を生成し、格納庫の場所の船の壁を溶かす。
その後、溶かした壁をさらに魔法で修復し、証拠を残さないという算段だ。
…さて、いざ実行だ。
眼鏡の男を先頭に、船の方へと進む。
そこからの手際がなんとも良かった。
船の壁を上手く溶かし、格納庫まで人を入れる。その後すぐに格納庫から壁を直す。
…麗也は今この目で、初めて魔法というものを見た。
確かにこれは、人から恐れられるのも無理もない。
何もない場所から物を、作る。
文字だけで見ると伝わらないかもしれないが、確かに何もなかった男の手から少し離れた所から突然、物が出てくるのだ。
男が出した酸は確かに頑強な船の壁を溶かし、男が出した金属は確かに、船の壁を直した。
この力を目にし、功翔からの逃亡というものがいよいよ現実味を帯びてきた。…が、こんな力があってなお、これまで脱出に失敗してきたというのだから恐ろしい。
その後は薄暗く寒い格納庫の隅で、何もせずただ静かに出港を待った。
ただ待った…
いつの間にか眠りについていたようだ。
…目を覚ますと、もう船は出ていたらしい。
腕時計の針は10時を示していた。
さて、ここからが本番だ。
14時には格納庫のハッチを開き、船を出す。
手早く行わなければ、すぐに捕まってお陀仏だ。さぁ、ここで人生の全てが決まる…。
4時間後。ついに実行。
眼鏡の男が船のハッチのレバーを勢いよく下げる。
…数時間ぶりに見た空は、大荒れの模様だ。
さぁ、すぐに船を海まで出し、自分、海斗の母、眼鏡の男で船に乗り込み、発進する。
他の人たちもそれぞれまとまって船に乗り、発進したようだ。
それから、空も海も荒れていたが、船は順調に進んでいた…そう思われた。
…船は、止まった。
誤算…そうだ、船にはセンサーと停止装置が!
この船も例外などではない。
…だが管制船からはそれなりに離れている。まだ余裕はある、どうにかして進めれば…
いや、もう既に遅い。
管制船の搭乗員が余った船で追いかけて来ている。
終わった…のか…
「お二人共、私に掴って!」
眼鏡の男が突然言う。
眼鏡の男の腕に二人は掴まった…
男が、二人と共に宙に浮いていく…!
「…!!」
海斗の母も自分も、驚いた。
魔法って…こんなことまで…!
少しの希望を見いだしたその瞬間。
聞こえたのは銃声。見えたのは男の腹から噴き出した血飛沫。感じたのは海へ落ちた衝撃だった。
最悪な事に、海は荒れ模様。
荒波になすすべも無く、麗也は海に飲み込まれた。
視界が暗くなっていき、体温が低くなるのを感じたのを最後、意識を失っていった。
…母さん、ごめんね…
…そして、父さん、そっちへ…
第四話 終
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コラム
三崎麗也
年齢 15
身長 162
体重 46
苦手 計算 サッカー
得意 とくになし
嫌い 功翔
好き 家族 友人 カレー
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