凍てつく未練

土蛇 尚

記憶が思い出になる頃

 もう恋愛なんて絶対にしない。


 あの男のことだからそんな風には絶対考えだろうけど、とにかく私から振ってやった。


 私が傷ついた分を少しでも取り返したかったから。

 

 でもそうして手に入れた勝利の勲章は、氷が溶けるみたいに小さくなってしまった。今はもうコップに浮く小さなかけらのよう。


 小さい頃から氷が好きだった。透明でキラキラした氷。


「溶けない氷があったらそれは役に立たない氷だよ。氷は溶けることで飲み物を冷やすんだから」


 いつだったか忘れたけど、私がコップに入った氷を見て、いつまでも溶けないといたらいいのにって言ったら、彼はそう返した。


 この恋で私は好きになった理由が嫌いになる理由になるって学んだ。最初の頃は確か分かりやすいロマンチックさがないそう言う所が好きだった、気がする。


 冷凍庫で氷が出来た時、ケースを捻って氷を落とす仕草が好きだった。確かに硬くてやりにくかったけど、出来ない事はなかったのにいつもやってもらってた。


この氷が溶けてなくなってしまう前にちゃんと嫌いになろう。


おわり

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