魔王の教育係をクビになった俺はヒーラー役として勇者パーティーに入ることにした

田中又雄

第1話 魔王の教育係をクビになりました

「...今、なんとおっしゃいました?」

「何度も言わせるな。リクゼン、お前はクビだ」


 第31代魔王シュテンリフク様の教育係を務めて、約200年。

シュテンリフク様は歴代の魔王様の中でも抜群の才能を持ち、魔法やスキルなども幅広く使うことができ、苦手なものなんてまるでなかった。


 そして、第30代魔王シャライン様が亡くなったことで、この度新魔王に任命された。


 これまでは人類とうまく共存してきたものの、シュテンリフク様は人類との共存など考えておらず、全面戦争をしようと考えていた。


 そういった情報を聞きつけた私は、なんとか戦争を避けようと色々手回しをしていたのだが、そのことがバレて、玉座の間にて私にクビを宣告した。


「...理由を伺ってもよろしいでしょうか?」

「理由?決まっているだろ、お前が余計なことをしていたから。それ以外にもいくつかあるが、1つはこの魔王の俺より長く生きていたお前の方が尊敬されているからだ。もう1つはもうお前から教わることはないから。最後の1つは俺はお前が大嫌いだからだ」


 魔王様は玉座に座ったまま、膝をついて見上げている俺を見下しながら誇らしげにそう言った。


「...なるほど。つまりは私が邪魔だと」

「あぁ。確かにお前は魔族が生まれてからずっと魔王の教育係として頑張ってきたことは認める。だが、どんなことがあろうと俺より上が存在しちゃならないんだよ」


 ずっと言いたかった言葉だったのか、少し声を上擦らせながらそんなことを言う。


「...分かりました。それが魔王様の命令というならば、私は受け入れましょう」

「あぁ。ここを出て好きに生きろ。まぁ、好きに生きられる場所があればだがな。人間界にお前の生きる場所なんてないと思うがなw」

「えぇ、分かりました。これまでお世話なりました」


 そう言い残すと、すぐに玉座の間を後にして、自分の部屋に戻り支度を始める。


 私に与えられた狭くて汚い掃除用具入れのような部屋。


 最初こそ抵抗があったものの、1万年も住んでいれば、私にとってはこれほど居心地が良い場所などなかった。

こういうのを人間はなんというんだっけか?住めば都だっけか?


 そうして、片付けをしていると、魔王様の親戚たちが顔を出してくる。


「師匠、どこに行くの?」「行くの?」と、双子のヴァーミとヴィーミが首を傾げながら質問してくる。


「...こんばんわ、お二人とも。私はこの城を出ていくことになってね。二人の大きくなった姿を見れないのは残念だよ」

「なんで?」「なんで出ていくの?」


 純粋な目で質問されて思わず言葉を濁してしまう。


「私は魔王様にとって邪魔な存在だから...だよ。けど、いいんだ。いつかはきっとこうなっていた。私なんてただの長生きなだけの魔族だからね。魔貴族でもなければ、魔七剣ですらない私がここに教育係としていたこと自体が間違っていたんだ」


 パタンとカバンの鍵を閉めながらそう言った。

 こうしてまとめてみると荷物はあまり多くはないな。


「そんなことないよ!師匠はいい人だもん!」「だもん!」

「その言葉で十分さ」


 そうして、2人の頭を撫でる。


 最後の挨拶回りすら許されず、城を出ていくように言われた私はそのまま、人間界に向かうのであった。

 もちろん、人間の姿に変身して。


 ◇


 人間界には何度も行ったことがある。

しかし、いつもは事務的なことだけでこんなラフな気分で来たのは初めてだ。


 到着したのは人間界の中でも比較的に栄えた都市である、ラーギャ国である。


「...さて、どうしようか」


 ひとまず、住む場所もないので、適当に宿屋に入ることにした。


「いらっしゃい!」と、筋骨隆々な店主がそう挨拶する。


「1人行けるかい?」

「おう!もちろんだ!けどあんた、見ない顔だな。旅人か?」

「...まぁ、そんなところだ」


 お金を渡して、鍵を受け取る。


 そうして、自分の部屋に荷物を運ぼうとしていると、机を大きく叩く1人の少年がいた。


「俺は勇者だ!何があっても逃げない!それが勇者ってもんだろ!」


 少年は声を張り上げてそう言った。

確かに胸元には代々勇者が引き継ぐペンダントがついていた。


 少年の目の先には3人の男女だった。


「けど、うちらのパーティーにはヒーラー役がいないし、危険すぎる。もし、今城に突入したとしても、魔王幹部にも勝てずに死ぬだけだろ」

「じゃあ、指を咥えて見てればいいってか!俺は勇者だぞ!見過ごせるわけないだろ!」

「そうじゃないが、少なくても今はそのタイミングではない」


 勇者...か。

いいライバルであり、好敵手。

しかし、今の魔王様とこの勇者では力の差が明らかなのは言うまでもない。


「だけど、それでも俺は!!」と、必死に訴える。


 だが、そうだな。面白い。

もし、私が勇者を育てたとしたら、一体どうなるのか...。


 そんな暇つぶし程度に思いついたことを俺は口に出した。


「ヒーラーなら俺なれますよ?」

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