誓いを違えないため、蛮勇を抱く

 冬華が軍に連行された日の夕方。

 一人の男が、森丸吉の征鬼軍本部の執務室へと入る。

 片腕が義手の、赤毛の巨躯の男。

 鋭い目つきは、小心者をたちまち恐怖で心から服従させてしまうほどに威圧的。

 そんな風貌の男は、丸吉の部下と言っても差支えのない人物だった。

 そして同時に、一人の少年の父でもあった。

 親子だからか、やはりあの少年と似ているな、などと思いながら丸吉は男に訊ねた。


「何用だね、風魔蒼龍ふうまそうりゅう君」


「はい……先程、我が愚息が来まして事情を部下に訊ねさせたところ丸吉様に昼の不躾を謝りたいと思いここまで訪ねに来た、との事でして。

 ご迷惑でしょうが、我が愚息を部屋へ入れてもよろしいでしょうか」


 秋夜の父である蒼龍の言葉に、丸吉は怪訝な顔付きで疑心を晒す。


(あの少女を奪いに来たか……? 否、それならわざわざこんな馬鹿正直に真正面からは来んだろう。

 あんな子供が、我々に馬鹿正直で勝てるとは思ってもないだろうしな。

 ならば本当に、詫びをしに来ただけなのか?

 一応……ボディーチェックくらいはさせておくか)


「構わんよ。しかし先に何か隠しとらんか確認してからだ」


「承知致しました」


 頭を下げた後、蒼龍は丸吉の傍に立つ御門に声を掛けた。


「御門、お前に任せよう」


 御門は無言で頷き、丸吉から離れて部屋を後にする。

 執務室内には、丸吉と蒼龍のみとなった。

 この状況に、丸吉は一抹の不安を抱く。


(……もしやコイツが何か企んどるのでは無いか?

 だとするならばマズイな……風魔蒼龍は今は鳴りを潜めているものの、昔は───────)


「愚息が、とんだ痴態をお見せしたようで。

 誠に、申し訳ございません丸吉様」


 牽制のために、懐から銃を取り出そうとする丸吉であったが蒼龍が深く頭を下げることでその腕が、身体が硬直した。

 そして呆気なくその疑心を解いたのだった。

 否、疑うのを馬鹿馬鹿しく思わせてしまったのである。


(演技の気配は無い。となると……この家族は疑わんでもいいみたいだな)


「いいや、こちらこそすまないな……しかし、わざわざ謝罪に来るなど関心だ」


「いえ、丸吉様。お言葉ですがアレは​───────」


「失礼致します」


 同時に、御門も部屋へと戻ってきた。

 なにか言おうとしていた蒼龍は直ぐに口を結び直し、御門に視線を向けた。


「怪しいものは何もありませんでした。

 丸吉様、如何しますか?」


 その吉報に丸吉は胸を撫で下ろしながら、杞憂である事に胸の内では喜びながら秋夜を歓迎した。


「構わん、入れろ」


「承知致しました……入るといい」


「​───────失礼します」


 頭を下げ、秋夜が執務室へと入る。

 丸吉と目が合うや否や、彼は直ぐに手と足を床に付け、額を床に擦り付けた。


「本日は余分なお時間をとらせてしまった事を心よりお詫びします。

 丸吉様、本当に申し訳ございません!!」


 秋夜の行動に丸吉は驚きながら彼を凝視する。

 御門は今の秋夜を無様と心では嗤い、歪ませた目で秋夜を見つめていた。

 蒼龍はただ、自身の息子に対して侮蔑の視線を向けていた。


「こちらこそ、そこの御門が手荒なことをしてすまなかった……怪我はないか?」


「はい、大丈夫です。この通り」


 言いながら、終夜は服を捲り腹部を見せる。

 丸吉の目に、脳裏には痣などない、シルクのように純白でそして程よく鍛え上げられた少年の腹筋が焼き付かれた。

 そして、

 (──────この白無垢を、今すぐにでもグチャグチャに穢してやりたい)


 溢れ出る情欲に、彼は逆らうことが出来なかったのである。


「…………君達二人、部屋から出たまえ」


 丸吉は固唾を呑み込んで御門と蒼龍に視線を配らせ、態とらしく咳込み、指示をした。


「御意に」


「承知致しました」


 二人はすぐに部屋の外へ向かう。

 蒼龍はすれ違う刹那、秋夜に、


「身体を捧げに来るとは……狂ったな、この愚か物め。

 だからアレに、因幡に関わるなと言ったのだ」


 他人かのように冷たく、突き放すように耳打ちをし、部屋から去るのだった。

 そしてその空間は、丸吉と秋夜のみとなった。

 椅子から重い腰を上げ、鼻息を荒らげながら丸吉は秋夜へと近付く。

 ジリジリと、少しずつ。確実に逃さないように。


「……二人には、あぁ言ったが……

 私とて厳格たる軍人の一人、君にはちょっと、すこーしだけ……痛い思いをしてもらおうかな」


 ねっとりとした視線は今にも少年を汚すべく動くだろう、それは秋夜にも察せれた。

 少年は微笑み───────


「なんなりとお申し付けください丸吉様。

 貴方の温情さに心奪われたのです、是非とも受け入れさせてください」


 丸吉ほしょくしゃの怪しげな笑みを前に秋夜えものは誘うように、艶やかで淫靡な微笑みを見せた。

 その瞬間、丸吉の中で何かがブツリと途切れられ、


(​───────これで、チェックメイトだ)


 その様子を見た、秋夜は勝利を確信したのだった​───────





 時刻は変わりその日の深夜、風魔邸にて。

 鈍い音が居間に響き、それと同時に秋夜は床へと倒れ込んだ。

 何発も、何発も殴られた後であり、その顔は青痣だらけとなっていた。

 秋夜を殴って床へ倒れさせたのは他でもない、彼の父である蒼龍であった。

 蒼龍からは明らかな激怒が、否、憤怒がその瞳で、表情で語られていたのだった。


「お前がどういうつもりかは知らん。

 奴に媚びを売り体を売りあの、愚かで哀れな愚女を救うつもりなのだろうが……」


 言いながら、蒼龍は秋夜の髪を引っ張りあげ、無理やり目を合わさせる。

 秋夜は、蒼龍の怒気と殺意を孕んだその空色の瞳に恐怖を抱いた。

 その冷たい瞳を向けたまま、蒼龍が続きの言葉を紡いだ。


「しかし万が一でも我々、風魔の家が危機となる可能性が芽生えるのなら、貴様が血縁だろうと容赦はしない。

 ───────これは警告だ、今は顔だけで済ましてやる。

 だが、次に森の元へと赴くのならばその手足を砕いてから殺してやる、忘れるなよ」


 そう言い放ち、彼は最後にもう一発、秋夜の顔を蹴り上げた。

 半回転し、床へと仰向けに倒れ込む。

 そんな秋夜の視線の先には、辛そうに顔を歪ませる春朝がいた。

 蒼龍には『手を出すな』と命令されていた。

 春朝は身代わりになろうとしたが当然、それを許されることは無かった。

 なぜなら、これは春朝への罰でもあったからだ。

 蒼龍は自身の代わりに秋夜を因幡冬華と接触をさせぬように命じたが、春朝は弟への否、持ち前の優しさで秋夜を見逃していた。

 その優しさを蒼龍は罪とし、そしてその優しさに罰を与えた。


 それこそが、この光景を見るだけ。

 優しい彼にその優しさの結果をむざむざと見せつける事こそが、至上の罰であると蒼龍は分かっていたのだった。

 その罰を受けることとなった春朝は、歯を軋ませながらその光景を目にすることしか出来ずにいた。

 口端から流れる血を拭いながら秋夜は視点を変え蒼龍を、兄に罰を与えた父を睨む。


「なんだ、不愉快な目を向けて。

 躾が足りなかったか、愚息」


 鬱陶しそうに秋夜を睨み返す。

 だが、今の秋夜にとってはもはや父の癇癪なんてどうでもよかった。

 冬華を救う。

 それは、征鬼軍を相手回すということに変わりない。

 たかだか自身の父に、怯えていてはダメだ。

 そう自身を言い聞かせた後、秋夜が改めて口を開いた。


「いえ……なんでもありません。

 申し訳ございません、父上」


 謝罪を紡ぐ秋夜を鼻で笑いながら、蒼龍は部屋から去る。

 直後、春朝が秋夜の元へと駆け寄り彼を抱き締めた。


「すまない秋夜……力のない兄で本当に、すまない……!!」


 声を震わし、秋夜に何度も謝る春朝。

 秋夜は、自身の肩が濡れている事に気付き兄に対して罪悪感を抱く。

 だが、秋夜の瞳は未だに狂っていることを、春朝も蒼龍でさえも気付かなかったのだった。


「こっちこそ……ごめん、兄さん。

 僕のせいで、兄さんにも悲しい思いをさせてしまって……」


 ごめんなさいともう一度、秋夜は心の中で兄に対して謝る。

 何故なら、止まらないから。

 例え兄にどんな罰が下ろうとも、自分は冬華を救う為に動く。

 そして次に移す行動は確実に兄にもう一度辛い目に合わせてしまうだろうと確信していたから。


 その日、秋夜と春朝は久しぶりに同じ空間で就寝した。

 それは、春朝がせめて今晩だけは安心させてやりたいという心配りから。

 それを感じ取りながら、罪悪感で秋夜は胸が膨れ涙が溢れてしまった───────




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「───────今、なんと?」


 翌日、森 丸吉の部屋で怪訝な表情を浮かべるのは風魔 蒼龍だった。

 目の前の机には丸吉がふてぶてしい態度でどっしりと腰を下ろしていた。

 その横には、何故か秋夜がいたのだった。


「なんだ、今日は鈍いなぁ。

 秋夜くんは本日からこの私が、少しの間のみ預かると言ったのだ」


 入るや否や直ぐに蒼龍に告げられたのはそれだった。

 寝耳に水を浴びせられたかのように彼はつい呆気に取られてしまった。

 しかし、再度告げられた言葉を飲み込みつつ、脳にある情報を冷静に処理する。

 そして、彼は自身の息子を睨みつけた。

 あれだけしてもまだ分からない愚かな息子に怒りを、敵意を抱く。

 が、直ぐに今この感情を発散させたところで無意味だと悟り溜息を一つ零したのだった。


「……了承致しました」


 蒼龍の了承に、勝ち誇った笑みを丸吉が見せる。

 しかし、


「だが丸吉殿、貴方が私よりも上の立場なのは一時的ということをお忘れなく。

 来週の式典で、あなたは現在の役職を解任され、私は正式にあの御方の補佐という立場へと就く。

 この権威を絶対とする征鬼軍のシンボルの意味は───────お忘れでは無いですね?」


 彼の放った牽制、忠告の言葉はまさに龍の吐くとされる炎熱同然であった。

 そして朝日に金色の葉をあしらったバッジを、丸吉に思い出させるように見せつけるのだった。


「…………分かっている。

 権威を象徴するこのバッジに逆らう事はせん……逆らった馬鹿共の末路を知っているからな。

 まぁ、可愛い子のちょっとした家出先と思っていてくれ給えよ」


「……了承致しました。

 要件はそれだけで?」


「ああ、そうだ。

 急に呼び出したのはすまんな」


「いえ、お構いなく。

 では、これで失礼致します」


 一礼し、蒼龍が退室する。

 その直後、蒼龍の威圧的な視線から解放されたからか、森は大きく溜息を吐き出しながら項垂れたのだった。


「流石は戦争が起こる前から鬼を、罪人を殺めてきた男だ……覇気を出されただけで疲れる」


 そんな弱気な声を呟く。

 その呟きを聞き逃さなかった秋夜ははて、と首を傾げたのだった。


「ですが丸吉様は立場は上なのですよね?

 ならば、父に対してそのような恐れを抱く必要は……」


「いいや、あるのだよ秋夜君。

 先程も言われたが……あの男よりも立場が上なのは一時的、それも来週の式典までだ。

 その式典が終わり次第、奴は私よりも立場が下となる」


(なるほどね……そこは確かに計算外だ……でもやっぱり、コイツは使える!)


 胸中で笑みを浮かべながら秋夜は部屋の隅々に視線を巡らせた。


「どうしたのかね、秋夜くん」


 その動作に森は不審に思い、尋ねた。

 それが、秋夜の撒き餌とも知らずに。


「いえ……隠しカメラを探してました。

 ですが無さそうだ……けれど」


 言いながら、秋夜は森の元へゆっくり歩み寄る。

 ───────森の心臓が、高鳴る。

 何をするつもりだ、と期待と得体の知れない恐怖が重なり心臓を激しく脈打つ。

 そして、


「盗聴器は……あるようで」


 そう言い、秋夜が机の裏に手を入れる。

 ベリ、とテープのはがれる音と共に小さい四方系の黒い機会を森に見せた。


「な、いつの間にこんなものが……!?」


「……実は前日、丸吉様に謝りに行った時に貴方のボディーガードの御門さんがさりげなくここに手を入れていたのを見たのです」


 、秋夜はそれを床に投げつけ踏み潰す。

 そして、動揺して固まる丸吉に耳打ちをした。


「……言い辛いのですが、実は私の父と御門さんは『平和主義連合』と手を組んでいるようでして。

 ……証拠は得れませんでしたが。

 しかし昨日、父の部屋に行った際に電話で平和主義連合との会合を……なんてことを聞きましたので。

 僕はどうしてもそれを伝えたくて今日、貴方の執務室へ訪ねに来たのです」


「なるほど……しかしいいのか?

 ソレを壊せば、奴らは……」


「焦りはしますでしょうが、先ず反応はしないでしょう。

 寧ろ、怪しまれないように平静を装うかと思われます。

 そこでですが丸吉様、一つ提案がありまして​───────」


 餌に食いつく魚を合わせるように、秋夜は丸吉に提案をするのだった。

 その提案を聞いて、丸吉は歪んだ笑みを見せたのだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 そして一週間後。

 征鬼軍本部、大広間にて。

 西洋風の宮殿のように煌びやかに、しかし厳正さ、高貴さを損なわれずに内装が施されているその間では、百を優に超える程の人数が中央に敷かれた赤い絨毯を踏まぬように側壁に併せて列を組んでいた。

 踏むことを許されぬ赤い絨毯の上に、例外である数人の影が。

 赤髪を全て後ろへ流し、鷹のように鋭く勇ましい眼をした風魔蒼龍。

 顔に脂汗を滲ませながらもその蒼龍と目を合わせる森丸吉。

 その丸吉の両隣りには二人。

 一人は、幼いながらも丸吉の補佐として彼に選ばれた秋夜。

 そして、丸吉の護衛として選ばれた御門。

 秋夜が持っている盆の上にはバッジが置かれており、それは元々、丸吉の持っていた物であった。

 自身の階級を表すソレを蒼龍に渡す。

 だと言うのに見下すような笑みを向けてくる丸吉に蒼龍は、ただ不気味に感じていた。


(何か吹き込まれたか? まぁいいだろう。それよりも───────)


 蒼龍は自身の息子である秋夜へと視線を移す。

 にこやかに笑みを浮かべる秋夜だが、その背後からは得体の知れない気味の悪さが滲み出ていた。

 昇進することに対しての祝福の笑み、雰囲気などでは無い。

 しかしその笑みは確かに何かを祝福している。

 ならば後、残されているのは自身の失脚の祝福か。

 殺気を出さずに、そして察知されることなく蒼龍は警戒をし五感を鋭く研ぎ澄ます。


(……何を吹き込んだ? 丸吉の顔は正に、立場が逆転した奴隷そのものだ。

 今までは余裕の裏に隠していたつもりであろう焦りを隠せていなかったこの腐敗爺を、こうも活気を与えた虚構の甘言とは一体───────)


 ───────その瞬間、僅かに彼の鼻腔は何か不思議な匂いを嗅ぎつけた。

 それは、秋夜との距離が近くなるにつれて強くなる。

 森の体液か、そう思ったが彼の脳裏はそれとは違う匂い───────灯油と火薬の匂いだと気付いた時には、既にあと数歩の間合いだった。


(ここまで狂えるとは───────侮った!!)


 手遅れと本能では分かりつつも蒼龍は直ぐに、袖口に隠していた暗器を取り出す。

 しかし、秋夜を護るように丸吉が彼の前に立ちはだかり、


「さて───────軍事裁判と行こうか風魔蒼龍、そして御門憲一みかどけんいち!!」


 丸吉が、二人に向かって叫ぶ。

 それはその空間の人間全てに聞かせるように、力強くそして滑らかに発せられた演説を得意とする丸吉の本領、その一遍であった。

 丸吉の言葉に、「なんだ?」と周囲がざわつき始める。

 ただ一人───────奥の玉座で四人を見ていた白髪の男以外は。

 男はただ、呆れていた。

 男の中ではもう少し速く気付いても良かった気もしたが、気付きはした蒼龍は及第点ではある。

 しかし、その他の丸吉、御門……そしてその部屋にいる全ての征鬼軍の者達に、呆れていた。

 自身達の香水の匂いで気付いていないのかは定かでは無い。しかし、その部屋は既に灯油と、火薬の匂いで充満していた。

 そしてその犯人は───────


「フッ…………童なりによく頑張ったな」


 男は僅かに口角を上げ、犯人である秋夜を短く称えた。


「被告は貴様、風魔蒼龍と御門憲一の二人!!

 罪状は平和主義連合と繋がっていること、即ち国家転覆罪!!

 さぁ……秋夜君よ、例の証拠を。そして御門、貴様はとっとと蒼龍の横へと立つが良い!!」


 御門は身に覚えのない罪状に戸惑いながらも、言われるがままに蒼龍の横へと移動する。

 秋夜は丸吉の指示に頷き、上着のボタンを外し始めた。

 一つ、二つ。そして三つ目のボタンをを外した瞬間、秋夜は勢いよく上着を丸吉に向かって脱ぎ捨てた。

 何をするかなど、蒼龍は大凡の想像はできていた。

 しかし、この僅か数歩の圏内の間合いとなった時点で、否。

 秋夜がこの軍本部にいる時点で、自身は彼に負けたということは、変えられぬ事実であった。

 蒼龍は暗器を出せずにいるまま次の光景を待っていると、片膝を曲げて体勢を崩している丸吉と、丸吉の頭に銃口を当てている秋夜の姿が。

 彼のシャツにはプラスチック爆弾らしきものが巻かれていたのだった。


「なっ……お、おい……秋夜君……!?」


 戸惑う丸吉に、秋夜は淡々と告げた。


「失礼ですが丸吉様───────裁判の内容は変更します。

 つい一週間前に捕縛されました、因幡冬華の処遇についてです」


 そして蒼龍を睨む、秋夜その瞳は恐れを抱きつつも闘志が燃え滾っていた。

 自身が惚れた女子を救うために奮い立った少年の覚悟が如実に現れている。

 その覚悟を込めた言葉は丸吉に、だがその敵意のある視線は父である蒼龍に向けられていた。

 その言葉に丸吉はようやく騙されたことに気付く。

 深い悲しみと、間抜けな自身への怒りを丸吉は抱いた。

 蒼龍はやはりか、と予想通りの理由で蛮行する秋夜への苛立ちで眉間に皺を寄せた。


「何故だ、とは聞くまいよ。

 しかし……良くもまぁ、ここまで狂えるものだ」


 呆れながら、怒りと殺意を言葉に篭める蒼龍に、、


「えぇ、狂ってやりましたよ。

 僕は彼女に誓ったのですよ、助けてみせると。

 ───────だから僕は貴方を、いいやこの征鬼軍さえも敵に回した。

 これが貴方にとっては下らないであろう、僕の覚悟です」


 蛮勇を持って、秋夜は答えてみせたのだった。

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