転生者達はこの先生き残れるのか!《大怪獣戦車バトル》
星野林
転生!シャルル·ルーク12歳
「お目覚めになりましたか坊ちゃま」
よかったと目の前に居る女性がそう呟いた。
混濁する記憶を整理しながら目を白黒させていると、女性は旦那様に俺が置きた事を報告するために足早に部屋をでていってしまった。
(んん、思い出してきた……俺は確か仕事帰りに居酒屋に寄って泥酔して……いかん、それからの記憶が無い)
巷で流行りの異世界転生かと思ったが、ステータスオープンと叫んでみても何も起こらない……というよりさっき喋っていた女性の言葉がフランス語であった。
少しずつ呼吸を整え、落ち着くと体の持ち主の記憶を思い出してきた。
この体の持ち主はシャルル·ルークと言う12歳の青年で、どうやら日本人の記憶からしたら過去のフランスらしい。
シャルル君の親父は企業を経営している社長で、会社の規模は中堅かそこらで大企業とは言えない。
最近ではフランス自動車産業の雄であるルノー社から業務提携を受けて自動車産業の勉強をしているのがうちのルーク社であり、本業は大砲の製造と缶詰の製造を営んでいる。
本拠地はフランス中央やや東にある都市のヴィシーで、この屋敷もヴィシーにある。
なんでもナポレオン3世がヴィシーの町を整備する時にお父さんとお祖父さんが都市開発に噛む事が出来て、企業を拡大することに成功したらしい。
そんな事を思い出しているとシャルル君のお父さんらしき人物が勢いよく部屋に現れた。
「シャルル! 心配したぞ! 熱がずっと下がらなかったからな。終いには意識が混濁していて医者も匙を投げ出したが……よかった峠は越えたみたいで……おお! すっかり熱も下がったみたいだな」
「はい、お父様……少々記憶があやふやなところがありますが……確認の為に聞きますが今西暦何年ですか?」
「今は1904年の7月4日だ。大丈夫か?」
「ありがとうございます。大丈夫です」
1904年となると第一次世界大戦まで残り10年……。
俺が22歳の時に大戦が始まる計算だ。
前線に出たら真っ先に死にそうだから親父の企業を継ぐ方針で考え無いといけねーな。
「おっとと」
「無理をするな。まだ治りかけだ。メイドのアンナに世話してもらえ」
「はい、お父様」
親父はそう言うと部屋から出ていった。
俺も再び眠りにつくのだった。
フランスについて俺はあまり詳しくないが、自動車の製造をしていたこともあり、ルノー社については色々詳しい。
しかもある程度の軍に関する知識があればイギリスが最初の戦車を作ったが、ルノー社が製造したルノー戦車が多くの戦車の元となった戦車で、旧日本陸軍なんかもルノー戦車を拡張、改造した戦車を使っていた。
まぁフランス本国の戦車開発はルノーの派生を作っていくが、軍人間の戦術の齟齬や国から開発の資金を抑える命令がでたり、マジノ線に予算が取られたりして防御力は高いけど無線が隊長車しか無く連携の取りにくい戦車に仕上がってしまう。
戦車ゲームとかをしていてもフランス戦車は扱いが難しいことで有名だ。
せっかく自動車産業に参加しているのだから未来知識を生かして傑作自動車を作ることができないかと俺なりに資料を集めるようになり、学校に通いながらエンジンに関する論文を取り寄せたりするようになるとある日新聞で日本でやっていた忍者の漫画を小説版にしたのが掲載されており、それのクイズがなぜかされていたので懸賞金に釣られて応募してみることにすると、手紙が届いた。
『シャルル·ルーク君へ
当選おめでとう。賞品としてパリへの旅行券を贈ろう。フランスの今後についてお話をしたいと思うので是非ともパリに来て欲しい。待っているよ
フィリップ·ペタンより』
と書かれていた。
「フィリップ·ペタン……ペタン将軍じゃねーか!」
俺はこの手紙と忍者小説から俺以外にも転生者が複数人居ると確信し、親父に懸賞でパリへの旅行券が当たったと言うと、勉強も頑張っているから家族で行くかということになり、母親とメイドを2名連れてパリ旅行へ出かけることになった。
パリにて招待されたホテルに行くと色々な人で賑わっていた。
そもそもパリ自体が人で賑わっており、ロンドンやベルリンに並ぶ巨大都市なだけあると感動した。
凱旋門やエッフェル塔といった現代でも有名な観光名所が既にあり、見るだけでも壮観だったし、ホテルに就いてからの食事も実家で普段は出されないような豪華な食事の数々に感動した。
「失礼、シャルル·ルーク君かな?」
「は、はい! シャルルです!」
食事を終えてゆっくりしているとスーツを着た男性から声をかけられた。
「私は今回の会の参加者を確認しているものでね。シャルル君に1つ質問をしているのだよ……フランスと日本どちらが良いかい?」
「じゃあ日本で」
「もうそれで答えみたいなものだが一応確認だ。戦国時代に本能寺で討たれた武将の名前は?」
「織田信長」
「よろしい。この招待状を贈ろう。君のお父さんは業界人が居る会合に招待するから、君も隙を見てホテルのパーティー会場に来ると良い」
そう言われて男性は去っていったが、あんな問題を出すので転生者なのだろう。
親父の方はルノー社の社長がいらっしゃるということでそちらに顔を出すようだ。
俺は母親に旅行チケットを当てた人限定のパーティーに誘われたからと言って部屋を抜け出して会合に参加した。
各々集まっていたが、年齢も服装もバラバラ……最低限のドレスコードはしているが、質が全然違い、新聞に載っていた顔の人も少々見受けられる。
「お集まり頂きありがとうございます。ここに居る皆さんは転生者であるということは主催の私ルイが保証いたします」
ルイという男はフランスのブルボン王朝の王位継承者が付ける名前であり、目の前の男はブルボン王朝の直系では無かったが、フランス革命からナポレオン時代のゴタゴタをフランス外で生活していた家柄で、分家筋だったが、宗家が断絶したためにフランスのブルボン王家の家を継承し、現在は公爵の身分があるらしい。
そんな彼も転生者で、ここ数十年でフランスに転生者がポツポツと現れ、祖国であるフランスを良くしていこうと頑張っているらしい。
ただなぜかフランス人だけでなく前世が日本人の転生者も多く紛れ込んでいるらしい。
歴史的に著名な人物は現代フランス人が、無名だった人は現代の日本人が多いらしく、俺は後者に当たるだろう。
それで最近では転生者達の知識や知恵を効率よく国益に還元する為の組織として幻想会という組織が結成されたらしく、希望者は参加して欲しいとのことだった。
転生者の間では第一次世界大戦は回避する方向で動いているらしいが、何かの拍子で大戦が始まりかねないのが現状であり、そのために優秀な軍人や技術者、経営者などは幾らでも居て欲しいらしい。
フィリップ·ペタン氏やモーリス・ガムラン氏、ポール・レノー氏等の第一次世界大戦や第二次世界大戦でキーマンとなる人物にも転生している人が居るらしく、レノー氏なんかは転生者達の力を借りてそうそうに政治家としてのキャリアをスタートさせているらしい。
「幻想会への参加は良いのだけど利点とかはどれぐらいに」
と主催者側に俺が質問する。
見た目が幼くても実年齢は年上かもしれないからと大人の対応をしてくれる。
曰く技術の共有や提携している大学への入学の補助、軍民官の経済だったり軍事に関する研究会への参加許可、幻想会の関連企業への補助だったり色々あるらしい。
全員に一致しているのはドイツを含めた外国から祖国を守る事である。
特にナチスドイツを生み出さないことを重点に置いていた。
特にユダヤ系に転生していた人達は将来自分や家族が虐殺される可能性が高いため必死である。
俺も歴史を知る者としてナチスに良いイメージは持っていないし、ヨーロッパの覇権が低下してアメリカやソ連に持っていかれるのも権利を持っている側からするとたまったものでは無い。
俺も微力ながら協力すると誓約書を書くが、12歳の為に出来ることは限られている。
勉強をして飛び級で大学に入ることを目標とするしか無い。
前世で外国語でフランス語を取っていたのがまさかこんな形で生きることになるとは思わなかったが……。
ちなみに既に幻想会は動いているらしく、アメリカからライト兄弟を引き抜いてきて飛行機を作る会社が既にできていたり、フランスにおける自動車の権利を握っているルノー社に政治的圧力をかけて自動車産業の独占では無く技術提供をすることで産業全体を盛り上げようとしたり、史実ではあまり良いところの無かった海軍の強化、フランス植民地へのテコ入れや漫画の普及等が行われていた。
とりあえず俺の目的であった転生者との接触を終えて部屋に戻ると、親父はルノーとのさらなる業務提携を引っ張ってこれたと喜んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます