15. 究極の栗パフェ!とろけるブラン少年
・ ・ ・ ・ ・
……そうして出てきた鉢ものの甘味は、ほんとに究極だった。
こんなにたっぷり濃いめの泡乳なんて、ブランは初めて見た気がする。
そこにかかった、ちょっと酸っぱい
お祝いごとのある日以外は、ふだん
だから当然、他の三人の話なんて、聞いちゃいないのである。
「そう。ベッカさん、ファダンに行くのね……!」
「ええ。前回お話を聞いた件、あれの延長なんです」
栗の滋味を味わいつつ、しみじみした口調で言うキヤルカの前、優美な手つきで木さじを動かしながら、ベッカがこたえる。にしても、さじが小さく見える手である。
「精霊使いの話でしょ? あたしら役に立てなくってごめんね。知ってる人が、流入民集落で見つかるといいんだけど」
ころんと小粒、さじの中できらきら赤く輝く露地ものの苺をいとしむように見ながら、ルーハが言った。
「それはそうとキヤルカさん、ルーハちゃん。そのファダン流入民集落のことも含めて、最近この辺の界隈で、なにか東部ブリージ系の人の流れについて、新しく聞き及んではいませんか?」
「うーん、特にはなし。もう東部からはそこそこ人が出尽くしちゃって、いよいよ流れてくる人の数も少なくなっている、とは相変わらずみんな言っているけど……」
「ずっと前にうかがった話ですけど。イリー系の入植民と手を組んだという、テルポシエ国境まぎわの集落の噂は聞こえてきませんか?」
「だめね。そのいくつかが頑張れば、東部大半島内をつなぐ“緑の
「そうですかー……」
なめらか広大なひたいに、ちょうど栗の渋皮みたいなしかつめらしいしわをこしらえて、ベッカはぱくんと苺を頬張る。
「ベッカさん。役に立つかどうかわかんないけど、あたしはちょこっと面白い話をふたつ、仕入れたよ!」
「おっ、何だい? ルーハちゃん」
「ぱん屋のお嫁になったシロエちゃん、憶えてるでしょう? こないだお店にね、“
「いそおり?」
「東部でしか作ってない、ちょっと変わった織物のことなの。色味ですぐにわかったから、シロエちゃん嬉しくなって、ぱん渡す時にどこで買ったんですか、って聞いたのよ。そしたら、旦那さんがオーランへ行った時、港の露店で買ったおみやげなんですのよ、って」
「オーランで?」
「うん。その磯織り露店の人は、見るからに東部ブリージ系の人だったらしいよ。きれいな首巻きや
「ほ~、ほ~……!」
ありえなーいな! と思いつつも、ベッカは面白く聞いている。ルーハは気を良くして、話し続けた。
「あと、もう一つのお話はね、“英雄おじさん”に助けてもらった男の子の話!」
「それは、わたしも聞いたねえ」
キヤルカが合いの手を入れてきた。
「お母さんとおばさんと、いとこ同士の男の子二人で、一緒に流れてきた家族があったんだけど、山あいの街道で運悪く奴隷業者にかちあたって、男の子たちがさらわれかけたのよ。そこへするっとやって来たおじさんが、魔法みたいにめっぽう強い力技を使って、業者を叩きのめしたんだって! 男の子二人は無事にお母さんたちと合流して、ファダンの集落までたどり着けたそうよ」
「へえー! 胸のすく話じゃないの。何者なの、そのおじさん?」
「あはは。その辺が謎に包まれているから、みんな喜んで話し回っているんだよ、ベッカさん」
ルーハは嬉しがって笑う。
「腕っぷしの強い東部ブリージ系の男の人が、同胞とみて助けてくれたのかもしれないし。あるいは、イリー騎士だったのかもしれない。真相は知れないけどね、わたしらを助けてくれる人もいるもんなんだって、心の支えになる良い話さぁ」
「あたしとキヤルカさんに、ベッカさんがいるみたいにね!」
ベッカは照れ笑いする。
「……おそれ入ります」
「ベッカさん。ファダンの集落に着いたら、そこの人達と話をするのに、わたしの名前をどんどん使ってもらっていいからね。ガーティンローにいたことのある人なら、わたしを知ってる人も多いと思うの。それに何と言っても、あなたがあの事件を解決したことは、東部ブリージ系の人々のあいだに広まっているのよ……」
「……もう、一年以上も前なんですね」
「かわいそうなレグリも。あなたに感謝して、迷わず丘の向こうに行ったのでないかしら」
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