第25話 三人寄れば文殊の知恵

 ●【雫視点】


「――幹事やってくれる人はいるか」


 午後のホームルームの時間。智慶祭の展示作品の幹事を決めるということで三枚堂先生が立候補を募ったがすぐにやりたいと手を挙げるクラスメイトはいない。


 きっと先生だってこうなることは予想がつくはずだから、最初からクジでも作っておけばいいのに。


 このまま気まずい沈黙が教室を支配する前に手を挙げよう。


 別に智慶祭に思い入れがあるわけでも幹事のような責任者をするのが好きというわけでもない。


 望まれて生まれてきたわけではない子である私を育ててくれている父さんたちのため。そして、万が一、自分のことがばれてしまった時の保険のため私はみんなが言うところの聖女様なる仮面を被る。


「……はい」


 机の上に置いた手を浮かした瞬間、教室の後方から道端に咲く月見草のような声がした。


 振り向くと丹下君がどうもすいませんとでも言いたそうな様子で手を挙げている。


 なんで、丹下君が!?


 普段、目立つようなことを避ける丹下君が智慶祭のクラス幹事だなんて。


 きっと、他のクラスメイトも同じ感想を持ったのだろう、明らかに空気が変わった。


 でも、それはクラスの人気者が手を挙げて、他の人がそれに続くというようなものではない。


「もう一人くらい一緒にやってくれる人はいないか」

「はい」


 先生から追加の立候補者を求める声に迷わず手を挙げた。


 きっと丹下君が手を挙げたところでさっきまでの流れが変わるわけではないから。


 それにお互いに幹事なら学校で普通に話しても周りに変に思われることはない。やっと、学校でも普通に友達ぽく過ごせるかもしれない。



 ●【龍之介視点】


 放課後、智慶祭実行員会から展示についての資料と過去の展示作品を作った先輩からの申し送りが綴られた厚さが十㎝はあるファイルが渡された。


 俺達が作る展示というのは外装展示といわれるもので、廊下の壁に沿って組まれた木の枠に今年の文化祭をイメージした装飾をするというものだ。


 教室で資料と申し送りのファイルを広げ、まずは幹事三人で今年の展示の方向性を決めようということになった。


「過去の作品を見るとけっこうクオリティーというか凝り方に差があるな」

「そうですね。モザイクアート、ステンドグラス、切り絵……、風船を使ったり、ネオン管を使ってる年もありますね」

「せっかくやるなら凝ったものにしたい。龍君もそう思うだろ」


 過去の展示作品のファイルをぺらぺらと捲りながら言う伊緒。


「うん、そうしたいけど……」


 凝った作品にするってことはそれだけクラスのみんなの協力が必要ってことで、今のうちのクラスで上手くいくかな。


「実行委員会からの資料だと、展示作品には必ず『智慶祭』の文字と今年のテーマの『温故知新』の文字を入れないといけないみたいですね」

「それにテーマに沿ったコンセプトで展示を作らないといけないから結構制約も多いな」


 隣に座っている綿矢さんの持っている実行委員からの資料を横から覗き見る。


「ねえ、これどうだろう?」


 伊緒が開いたページには四年前の作品が載っていた。

 切り絵を中心に使ったその年の作品は切り抜いた部分にカラーフィルムが貼られ、木枠の中に設置されたLEDの光によって幻想的な世界観を表現していた。


「これすごいですね。他の年よりもかなり細かく作られますし、全体のデザインもすごく洗練されています」

「相当ハードルが高いのを選んだな」


 机に置かれたファイルを三人が頭を付け合わすように見る。

 これだけの作業量を本番までにやりきるのは相当骨が折れそうだ。


「ねえ、丹下君、これって」


 その年の資料の末のページまで捲ったところで綿矢さんが最後の部分を指さした。

 ――作製幹事 丹下七海


「マジか、七海姉さんのやつか」


 姉さんはこの学校のOGだけど、姉さんも展示作品の幹事をしてたなんてまったく知らなかった。


「でも、七海ちゃんなら納得かも」

「鷹見さんも七海さんを知ってるんですか」

「まあね。七海ちゃん、生徒会長もしてたし、一年の頃からこうやって頭角を現してても不思議じゃない」


 あんなにいい加減な姉さんがどうして生徒会長なんかできたのだろうと思っていたけど、この作品を見ると学校では意外とちゃんとしていたのかもしれない。


「えっ、七海さん、生徒会長だったんですか」


 姉さんと数回しか会ったことがない綿矢さんも俺と同じ感想を持ったに違いない。そのぐらいいつもの姉さんからは生徒会長をやってたなんて想像がつかない。


「俺も姉さんが生徒会長になったって聞いた時は信じれなかったもんな。でも、姉さんも幹事をしてたならいろいろ聞けそうだから助かる」

「そうですね。ここに書かれていること以外にも気を付けた方がいいことはあると思いますし」

「じゃあ、細かい事は姉さんに聞くとして、まずはアイデア出しだな。思いついたものをどんどん書き出していこう」


 さて、三人寄れば文殊の知恵となってくれるか。


― ― ― ― ―

 今日も読んでいただきありがとうございます。

 次回は嫉妬✖嫉妬……

 皆様からコメントレビューもお待ちしています。

 ★★★評価、ブックマーク、応援、コメントよろしくお願いします。

 皆様の応援が何よりの活力でございます。

 次回更新予定は12月25日AM6:00頃です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る