第9話 レアアイテムの代償
きっと俺だけじゃなくてこのお店にいる他のお客さんも驚いているに違いない。
銀髪の美少女が全く恥ずかしがることなくステージ上で変顔を晒している。
いや、変顔だけじゃない。ダンスの振りやギラギラジュースのあまりの不味さに吐いてしまう時の顔も完璧だ。
ウララちゃんによる審査結果はもちろん優勝。二人で記念の写真も撮っていた。
「イエーイ! 私の雄姿見た?」
優勝商品である世界の理を高らかに掲げながらへへっと笑みを浮かべた綿矢さんが戻ってきた。
「完成度高過ぎ。どう見てもダンスの授業が得意ってレベルじゃないだろ」
「そ、そうかな」
はにかみながら席に座る綿矢さん。
あのダンスを恥じらいなくできるのにどうして、ここではにかむ。
「もしかしてSNSに上げるために練習してたとか?」
「そ、そんなことないよ。ただ、丹下君とゲームしてる時に何度かウララちゃんが踊ってるのを見たり、SNSでバズってる動画も見たりしたからじゃないかな……」
先程に比べて声のトーンが少し落ちた気がする。
「それであの完成度はマジですごい。ちょっと尊敬する」
俺が羨望の眼差しを向けつつ言うと、綿矢さんは視線を外して小さく息を吐いてから、
「ごめん。ちょっと嘘ついた。本当はギラギラジュースのダンスは家で練習してた」
「そ、そうなんだ。でも、なんでわざわざ嘘なんか」
綿矢さんが嘘をついていたことに一瞬虚を突かれたが、むしろあの完成度なら家で練習していたという方が全然違和感がない。
「だって、家で練習してたって言ったらその様子を想像するでしょ」
「まあ、するな」
「でしょ。そうすると丹下君の想像の中で私がギラギラジュースのダンスをしているのが恥ずかしいから……」
ちょっと待て。あなた今、多くの人の前でギラギラジュースのダンスやったよね。
それよりも俺に想像される方が恥ずかしいって、ちょっと酷くない。
「あのステージの上でやる方が恥ずかしい気がするけど」
「いや、だからそれは……、もー、やっぱり、丹下君は乙女心がわかってない」
えっ!? どういうこと。さっぱりわからない。誰か乙女心についてのnoteがあったら教えて。
「でも、練習の甲斐あって世界の理をゲットできてよかったな」
これ以上俺の乙女心への理解の無さを言われても困るから話題を切り替える。
「だけど私の装備はこれがなくてもすでに最強レベルまで強化されているんだよね」
世界の理のカードを三本の指で器用にくるくると回す綿矢さん。
「そういえばそうだな。つーか、やり込み過ぎだろ」
「おっと、ゲームを愛してると言って欲しいね」
「愛が重い」
「そう、私の愛は重いんだよ。……そうだ、この世界の理は丹下君にあげる」
人差し指と中指に挟まれたカードが俺の方に差し出される。
「いやいや、もらえないって。それは綿矢さんがもらった賞品なんだから」
ゲームの中でこのアイテムがリアルマネーで取引されることはないけれど、手に入れるまでの時間と労力を考えると俺のひと月分の小遣いよりも価値がある。
「丹下君の装備の強化に使ってもらった方がこれから冒険を進める上で有意義だと思うんだけどね」
「それはそうかもしれないけど」
「それにこれをもらうことができたのは丹下君のおかげってところもあるし」
「どういう意味?」
はっとした綿矢さんは手を口に当て、少し下を向いてから口を開いた。
「……ほ、ほら、丹下君、ウララちゃん好きでしょ。何かの機会にあのダンスを見せたら喜ぶかなって思って練習してて……、だから、丹下君がいなかったら優勝できなかったっと思う」
徐々にフェードアウトしていく綿矢さんの声とそれに反比例するように朱くなる頬。
たしかに一緒にゲームをしている時に俺があのダンスが好きな話はしたことがある。
それが理由で練習してたなんて。
たまたま、このイベントで披露する機会があったけど、そうじゃなかったらいつ披露するつもりだったんだろう。
「そうだとしても、それをもらうわけには――」
「なら、あげる代わりに一つお願いを聞いて」
世界の理の代償になるようなお願いとはなんだ。本能的にこれから発表されるお願いが危険だと感じる。
「警察の厄介になるようなことや誰かを傷つけるようなことはやらないぞ」
「大丈夫。そんなに難しいことじゃないし。悪いことじゃないから」
そこまで言うと綿矢さんは一呼吸おいてから笑顔で言った。
「丹下龍之介君、私――綿矢雫とお友達になってください」
こうして聖女様はボッチ生活終了の引導を俺に渡してきた。
― ― ― ― ―
今日も読んでいただきありがとうございます。
短編版からお付き合いいただいている皆様お待たせしました。
明日の更新分から短編版にないシーンに入っていきます。
皆様の力でさらに本作を盛り上げていただきたいと思いますので、
皆様の応援が何よりの活力でございます。よろしくお願いします。
次回更新予定は12月9日AM6:00です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます