フィーマンおばさんとグリム童話の秘密の旅
鳳隼人
第1話 日常
カッセル近郊にある小さな村。
そこはなんの変哲もない小さな村。
特別に優れた物がある訳でもなく、観光名所と言うほど有名な場所でもない。
しかしそこは静かで安らぎのある良い場所でした。
「ねぇおばあちゃん、今日たくさんお話し聞かせて!」
そんな小さな村でも楽しみの一つや二つなくてはやってはいけない。
子供たちにとってそれは彼女のお話を聞くことでした。
「分かった、分かったよ。だからそんなに慌てないの」
シワクチャな顔をしたお婆さん。小さい眼鏡ををかけ膝の上にはそこそこ大きな本を置いている。
「今日はなんのお話を聞かせてくれるの?」
お婆さんの周りに集まる子供の中で一人の女の子がそう聞いた。
「そうだね。私のお話はもうかなり聞かせたしね」
「ならさ、お婆さんの旅をお話を聞かせてよ!」
お婆さんが悩んでいると一人の男の子がそう言った。
「お婆さん、昔この村にいた人とどっかに旅してたんでしょ!」
「よく知ってるね」
「うん!僕のお父さんが言ってたんだ!」
「そうか、そうか」
お婆さんは少し驚きながらも微笑んで頷いた。
「そうだね。じゃあまずは最初の旅立ちのお話といこうかね。むかしむかし、あるところに一人の少女がいました」
***
「ドロテアお姉ちゃん、今日もお家で遊ぶの?」
「ごめんなさいエネイン。その代わりと言ってはなんだけど新しい物語を書いたの」
「ほんと!?わーい!ねえ早く」
ベットの上で本を読んでいた銀髪の美しい女の子。そして彼女に甘える綺麗な明るい緑色の髪を持つ女の子。二人は血がつながっていなくとも本当の兄弟の様に仲が良かった。
トントントン。
二人が楽しそうな会話をしていると家の扉をノックする音がした。
「ドロテア姉さん。フェルディナントです。ここにエネインがいると思うのですが」
「やばい!?お姉ちゃん助けて!」
フェルディナントが来た事でエネインが慌てて静かな声でドロテアに助けをこう。
それにドロテアは苦笑する。
「入りますよ」
そしてフェルディナントがゆっくりと扉を開けて家の中に入ってきた。
「あ、やっぱりここにいましたね。父さんと母さん、兄さんたちもみんな心配していたよ」
家の中にいたエネインを見つけたフェルディナント。見つかったエネインはドロテアのベットの中に隠れる。
それを見てフェルディナントは呆れる。
「すみませんドロテア姉さん」
「いいのよ」
申し訳なさそうに謝るフェルディナントに笑顔で対応するドロテア。それを見てフェルディナントは余計に申し訳ないと思った。
フェルディナントはベットに入ったエネインの手を掴んで無理矢理引きずり出す。
「やーだー!今日はお姉ちゃんのお話聞くの!」
「僕もドロテア姉さんのお話は好きですが勉強を大事です。さあ帰りますよ」
「いーやーだー!」
エネインは断固として拒否の姿勢を崩さない。最後にはドロテアのベットの脚を掴んででも出たくないらしい。
そんな妹の姿を見てフェルディナントは困った。
それを見てドロテアも申し訳ないと思いエネインに話かける。
「エネイン。お勉強できることはね、とっても凄いことなの」
「でもお勉強つまんな」
「そうね。でもね私は羨ましいわ。だからエネインがお勉強したこと今度私に教えてくれないかしら」
「どうして?」
「そうすればもっとたくさんの物語が書けるからよ」
「ほんとに!?」
ドロテアの話を聞いて嬉しそうに跳び上がるエネイン。
「分かった!エネインたくさんお勉強してお姉ちゃんに教えてあげる!」
エネインは小さな胸を張ってそう言った。
そしてフェルディナントと手をつないでドロテアの家から出て行った。
「ドロテア姉さんありがとうございました」
「いいのよ。今度はヴィル達も連れて遊びに来てね」
「はい。兄さんたちにも伝えておきます」
二人はそう言って帰って行った。
一人になったドロテアは閉じていた読みかけの本の続きを読み始めた。
これが彼女にとっての日常。もとからそこまで体の強くないドロテアは同年代の女の子に比べて体力も少なくいつもベットの上で本を読む生活を送っていた。
もちろん偶には外を歩くことはあるが同年代に比べてその頻度は圧倒的に少ない。
「今日はどんな本を読んで過ごしましょうか」
ドロテアはゆっくりとベットから出て読んでいた本を本棚に仕舞い、次に読む本を探す。
「もうここにある本は読んでしまったしどうしましょうか?お料理の本を読んではしたけど材料もないから作れないし」
目の前の本棚には数十冊の本が並べられているが十年以上毎日本を読み続けていれば全冊読み切ることなんて容易なこと。
「やっぱり今日はお花の本にしましょうか」
ドロテアは本棚から花の図鑑を取ってまたベットに戻り読み始めた。
これが後に歴史に名を刻む兄弟達、その彼らを陰ながら支えた光を浴びず歴史の影に埋もれた努力と探求心の良女、ドロテア・フィーマンのかつての日常だ。
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