第18話 選択の代償③

広がる白い空間。その中心にある結晶は、まだ静かに脈動している。レオンたちは決断を目前に、未だその手を伸ばせずにいた。それぞれの胸の内にある迷いが、行動をためらわせている。


選択の重み


「選択肢を与えられるって、こんなにも苦しいものなんだな……」


レオンが呟く。その声は、疲労と責任の重さでかすれていた。


「俺たちがここまで戦ってきたのは、正しい未来を作るためだった。でも、これが正しいかどうか、誰にも分からない」


カリンはレオンの言葉に苛立ちを隠せず、結晶を指さした。


「でもよ、ここまで来て動けないなら、それこそ意味がないだろ!私たちは未来のために戦ってきたんだ!だから……どんな結果になっても進むしかない!」


「それは分かってる。でも、この先に何があるか分からないから怖いんだ」


ユキが小さな声で言葉を継ぐ。彼女の顔には明らかに不安が浮かんでいた。


「結晶を破壊すれば、みんなが消えてしまうかもしれない。でも、均衡を選べば、また誰かが犠牲になる……どちらを選んでも、苦しむ人が出る」


アルフはその言葉に静かに頷きながら口を開いた。


「俺たちはどちらを選んでも責任を背負うことになる。それなら、後悔のない方を選ぶしかないだろう」


彼の言葉に、一瞬の沈黙が訪れた。


レオンの決意


「……そうだな」


レオンは深く息を吸い込み、結晶に向き直った。その目には迷いが薄れ、覚悟の色が宿っていた。


「何が正しいかなんて、誰にも分からない。だけど、俺たちは進むことを選んできた。だからこそ、最後まで戦い抜く。それが……俺たちの役目だ」


レオンは振り返り、仲間たちに視線を送る。


「一緒に決めよう。この未来をどうするかを」


その言葉に、カリン、ユキ、アルフがそれぞれ頷いた。


結晶との接触


四人が結晶に手を伸ばした瞬間、空間全体が眩い光に包まれた。体中に広がる温かさと同時に、結晶の中から彼らの記憶が浮かび上がる。


過去に戦ってきた敵、失った仲間、そして守りたいもの。すべてが走馬灯のように流れ込む中、結晶が静かに語りかけてきた。


「お前たちの選択を、この世界が受け入れる準備ができた」


その言葉と同時に、レオンたちは結晶の核心部分に触れる。すると、内部に新たな映像が広がった。それは、この選択によって生じる未来の姿だった。


未来の映像


結晶が見せたのは、二つの異なる未来だった。一つは結晶を破壊した後の新しい世界――草木が再び芽吹き、魔力が循環を取り戻したかのように見える。しかしその背景には、消えゆく多くの命の痕跡も見え隠れしていた。


もう一つは、均衡を選んだ後の世界――表面上の平穏が続くが、その裏では再び新たな魔王が生まれ、支配が続く運命が描かれていた。


「どちらも正しいとも、間違いとも言えない未来だ……」


アルフが低く呟いた。その言葉が全員の胸に重く響く。


選択の実行


レオンがゆっくりと手を挙げ、結晶の中心部に剣を向ける。


「俺たちは、すべてをリセットして新しい未来を作る。そのためにここまで来たんだ」


その言葉にカリンが頷く。


「そうだ。もう繰り返しは終わりにしよう。この手で、新しい世界を作るんだ!」


「みんなで作りましょう、新しい未来を!」


ユキも声を張り上げる。そしてアルフは静かに目を閉じた。


「これが正しいと信じるなら、俺は従う。行こう、レオン」


レオンは剣を強く握り締め、結晶に渾身の力を込めて突き刺した。その瞬間、光が爆発し、空間が砕け散るように崩壊していく。


新たな始まり


光が収まった時、彼らが立っていたのは見慣れた大地だった。だが、そこには新しい生命が芽吹き始めていた。


「これが……俺たちの選んだ未来……」


レオンが小さく呟く。その顔には疲れが見えるが、それ以上に安堵の色が浮かんでいる。


「正解かどうかなんて分からないけど、これでいいんだよな?」


カリンが剣を肩に担ぎながら微笑む。ユキはその横で頷きながら、空を見上げた。


「これからが本当の戦いですね。新しい世界を守るために……」


アルフは最後に短く呟いた。


「そうだ。俺たちで守るんだ、この未来を」


新たな未来を決断するため、レオンは剣を結晶に向けていた。その刃先に宿る魔力が、脈動する結晶の光と交わる。その瞬間、空間全体が激しく震え、光が広がっていった。


覚醒する記憶


結晶に触れた瞬間、レオンたちの意識は結晶の内部に引き込まれた。そこには広大な宇宙のような空間が広がり、無数の星が輝いていた。


「ここは……どこだ?」


ユキが呆然と周囲を見渡す。カリンも剣を握りしめ、警戒を怠らない。


「意識だけがこの空間に引き込まれているのか……?」


アルフが低く呟く。その声に答えるように、空間全体に響く声が聞こえた。それは創造主のものでも、カイザーのものでもない、優しくも力強い声だった。


「よくぞここまでたどり着いた。我らの最後の記憶を受け取る者たちよ」


「最後の記憶……?」


レオンが剣を構えたまま問いかけると、無数の星がひとつに集まり、光の柱が生まれた。その中に現れたのは、かつてこの世界を作り上げたと言われる「原初の魔法使い」だった。


世界の真実


「私は、この世界を作り上げた者たちの一人。この記憶をお前たちに託すために、長い間ここに残っていた」


その姿はぼんやりと揺らめき、確固たる実体を持たない。だが、その声は重く、空間全体に響き渡った。


「お前たちが選んだ未来……それは、この世界をリセットし、新しい命を芽吹かせるものだ。だが、それは単なる破壊ではない。この世界に蓄積された記憶と意思を継承するものだ」


「意思……?」


カリンが不思議そうに問いかける。その問いに、原初の魔法使いは頷いた。


「この世界に生きたすべての者たちの記憶が、この結晶に刻まれている。その記憶を消し去るのではなく、新たな世界の土台として融合させる。それが、お前たちの選択の意味だ」


「じゃあ……俺たちがやったことは、無駄じゃなかったってことか?」


レオンが安堵の声を漏らすと、魔法使いは微笑んだ。


「その通りだ。だが、お前たちが選んだ未来を守り抜くには、さらなる試練が待ち受けている」


未来を守るための試練


原初の魔法使いは手をかざし、結晶から溢れ出る光を抑え込んだ。その光が再び一つに収束し、新たな結晶となる。


「これが、新たな世界の核となるものだ。この結晶を通じて、お前たちの未来が創られる。だが……」


魔法使いが手を振ると、空間が変化し、無数の裂け目が現れた。その中から暗黒の魔物たちが次々と姿を現す。


「これらは、世界の均衡を失った際に生まれた『歪み』だ。新たな未来を築くには、この歪みを浄化しなければならない」


「また戦いかよ……」


カリンが呆れたように笑みを浮かべるが、その目は闘志に燃えていた。


「でも、やるしかないよね。この未来を守るために」


ユキが杖を握りしめる。アルフも静かに剣を構え、準備を整えた。


戦いの開始


魔物たちが一斉に襲いかかる。その数は膨大で、形も不規則だ。レオンたちは連携して迎え撃つ。


「右を任せた、カリン!」


「了解!そっちは任せる!」


カリンが素早く動き、右側から迫る魔物を切り捨てる。一方で、ユキが遠距離から雷の魔法を放ち、魔物の群れを次々と撃退していく。


「行け……雷槍(サンダーランス)!」


巨大な雷の槍が魔物たちを貫き、空間に雷光が走る。その隙を見て、レオンが中央に突撃する。


「このまま突破する!」


彼の剣が輝き、迫り来る魔物たちを次々と切り裂いていく。アルフは後方から闇の魔法で支援を続けた。


「闇の波動(ダークウェーブ)!押し返せ!」


最強の魔物の出現


戦いが激化する中、裂け目からひときわ巨大な魔物が姿を現した。その姿はまるでカイザーを彷彿とさせるもので、異様な威圧感を放っている。


「なんだこいつ……!」


カリンが剣を構えながら後退する。魔物の巨大な腕が振り下ろされ、空間全体が揺れる。


「一撃が重すぎる……!ユキ、アルフ、後方支援を頼む!」


レオンが叫び、全員が一斉に動き出す。ユキが魔法で魔物の動きを封じ、アルフがその隙を突いて魔力を叩き込む。


「行け……!これで仕留める!」


レオンとカリンが同時に突撃し、巨大な魔物の核心部分を狙う。その連携攻撃が見事に決まり、魔物が大きく崩れ落ちた。


新たな結晶の誕生


戦いが終わると、空間が再び静寂に包まれた。原初の魔法使いが現れ、満足げに頷く。


「よくやった。これで新たな世界の基盤が整った。お前たちの選択は、確かに未来へと繋がるだろう」


結晶が輝きを増し、その光が広がる中で、レオンたちは互いに顔を見合わせた。


「これで終わりじゃない。この未来を守るために、俺たちはこれからも戦い続ける」


レオンの言葉に全員が頷き、新たな世界での戦いが始まることを覚悟するのだった。

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