【毎日16時投稿】100回目の異世界転生で、最強の英雄は魔王を倒さない道を選ぶ
湊 マチ
第1話 99回目の終焉と最後の選択
魔王カイザーの城は赤黒い光に包まれていた。燃えるような空が広がる中、瓦礫と炎の中を主人公レオンは剣を握りしめ進んでいた。周囲に転がるのは仲間たちの無惨な姿。彼らと共にここまで戦い抜いてきた記憶が頭をよぎる。
「これが……99回目の挑戦……か」
肩で息をしながら、彼は剣を地面につき立てた。全身が傷だらけだ。特に左腕の深い裂傷は、もはや感覚すらなかった。だが、それでも立ち上がる。最後の一撃を放つために。
玉座に座る魔王カイザーは、冷酷な笑みを浮かべながら彼を見下ろしていた。
「愚かな勇者よ。何度挑もうとも、結果は変わらん。お前が立ち上がるたびに、私の退屈が少し和らぐ。それだけだ」
カイザーの周囲には、黒い炎が渦巻いている。それは見るだけで魂が焼かれるような、圧倒的な力の象徴だった。レオンはその言葉に反応せず、ただ静かに剣を構える。
「黙れ……俺は、まだ……!」
カイザーが玉座からゆっくりと立ち上がる。彼の手には漆黒の剣「終焉の刃」が握られていた。その剣が振るわれるたび、空間が歪み、世界そのものが崩壊するかのような力を放つ。
「その身体ではもう何もできまい。だが、これ以上足掻きたいのなら、最後まで付き合ってやろう」
カイザーが剣を振り下ろすと、黒い炎が渦を巻き、城全体を飲み込んだ。レオンは剣でそれを防ごうとするが、すでに限界を超えていた。身体が黒炎に呑まれ、意識が遠のいていく。
「くそっ……また……失敗……か……」
崩れ落ちる意識の中で、仲間たちの笑顔が浮かぶ。それは戦いの中で失った多くの命。カリン、アリオス、リナ――彼らを守れなかった自分を責める思いが、黒い深淵へと彼を引き込んでいく。
次に目を覚ましたとき、そこはどこか懐かしい空間だった。全てが白い光に包まれ、周囲には何もない。広がる静寂の中、立っているのがやっとのレオンの前に、少女の姿をした謎の存在が現れる。
「久しぶりだね、レオン」
その声にハッとする。顔を上げると、そこにはアリシアが立っていた。淡い金色の髪と透き通るような青い瞳。その姿は全く変わらない。初めて彼女に会ったのは、最初にこの異世界に転生してきた時だった。
「お前か……アリシア」
レオンは絞り出すように言葉を発する。その表情には疲れと苛立ち、そしてわずかな希望が入り混じっている。アリシアは微笑むが、その瞳には深い悲しみが宿っていた。
「99回目の挑戦、惜しかったね。でも、あなたは本当に頑張ったと思う」
「……そんな慰めは聞きたくない」
レオンは疲れた様子で答える。彼の中には、これまでの失敗が積み重なり、限界を超えた絶望が渦巻いていた。
「アリシア、もう無理だ。何度挑んでも、俺は同じ結果に終わる。俺は英雄じゃない。ただの……敗北者だ」
その言葉に、アリシアは首を横に振る。
「それでも、あなたには100回目の挑戦がある。これが本当に最後のチャンス。どうする? 諦めるなら、ここで全てを終わらせることもできる」
「100回目……?」
レオンは目を見開く。再び挑むことができるなら、仲間を失うことなく救える可能性があるかもしれない。しかし、その一方で恐怖が押し寄せる。99回の挑戦の果てに待っていたのは、全て失う痛みだったのだから。
「……俺に、何ができるっていうんだ?」
その問いに、アリシアは静かに答える。
「失敗した99回の記憶が、あなたの中に残っている。それは、普通の人が持ち得ない経験と知恵。あなたなら、この世界の運命を変えられるはず」
アリシアの言葉に、レオンはしばらく沈黙していた。しかし、その瞳に再び小さな炎が灯る。彼はゆっくりと立ち上がり、アリシアを見つめた。
「……分かった。もう一度挑む。これが最後だ」
その決意を聞いたアリシアは、満足げに微笑む。そして、その掌から柔らかな光を放ち、レオンを包み込む。
「行こう、レオン。この世界を変えるために――」
再び目を覚ましたとき、レオンは自分の身体に違和感を覚えた。鏡を見て驚く。若返っている。以前の20代の頃の肉体に戻っていた。しかし、その瞳には99回分の記憶が確かに宿っている。
「戻ったのか……これが、100回目の旅だ」
彼は剣を握り、深呼吸をする。そして、まず向かったのは仲間を探す旅路だった。
仲間との再会
最初に訪れたのは、過去の冒険で共に戦った剣士カリンの住む小さな村だった。村は平和そのもので、田園風景が広がっている。カリンは冒険をやめ、普通の生活を送っていた。
レオンは意を決して、彼女の家を訪れる。
「久しぶりだな、カリン」
カリンは驚いた表情を浮かべるが、すぐにそれが険しい表情に変わる。
「……お前か。何しに来た?」
「また俺と戦ってくれ。100回目の挑戦に向けて、お前の力が必要だ」
その言葉に、カリンは立ち上がり、レオンに拳を振り下ろした。
「ふざけるな! お前のせいで、私は仲間を失ったんだ! また同じことを繰り返すつもりか!?」
その瞳には涙が滲んでいる。99回目の冒険で、彼女は魔王との戦いの中で命を落とした。彼女の怒りと悲しみは当然だった。
レオンはその拳を受け止めることもせず、ただ黙って彼女の言葉を受け止める。そして静かに言った。
「……分かってる。俺がまた同じことをするのは、間違ってるのかもしれない。でも、俺にはもうお前しかいないんだ。頼む。最後にもう一度だけ力を貸してくれ」
カリンはしばらく黙っていたが、やがてため息をつき、剣を手に取った。
「……これが本当に最後だ。次は、必ず勝てよ」
「ありがとう、カリン」
こうして、レオンは最初の仲間を取り戻す。
次回予告
次回、第2話「試練の地」。
100回目の旅が本格的に動き出す!仲間となったカリンと共に挑む最初の目的地「試練の地」では、魔王軍の四天王の一人、炎の剣士イグニスが立ちはだかる。過去99回の挑戦で苦しめられた宿敵に、レオンはどう立ち向かうのか?新たな戦術と成長を見せる戦いが始まる――!
「果たして、記憶は力になるのか、それとも足枷となるのか……」
読者メッセージ
最後までお読みいただき、ありがとうございます!第1話では主人公レオンの挫折と再挑戦、そして物語の始まりを描きました。99回の失敗を経て立ち上がる彼の物語は、ただの「冒険」だけではなく、過去の後悔や仲間との絆が織り交ぜられたドラマが展開されます。
次回はいよいよ魔王軍との激しい戦いが描かれる予定です!レオンの成長や、過去の記憶がどう活かされるのか、ぜひ注目してください。応援や感想をいただけると、とても励みになります!
また次回お会いしましょう!読んでくださり、本当にありがとうございます!
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