シンデレラは帰らない

チョコミント

第1話

「今日もこれか」


 伯爵令嬢のエリーは一言呟き、洗濯を始める。

 エリーは名のあるハルヴィア家の一人娘である。

 母親はエリーを生んですぐに死亡した。

 父親も5年前に死亡し、実権は継母が握っていた。


 そして、継母には二人の娘がいて継母はそちらにばかり構い、エリーは使用人のように扱われた。

 そして、最低限の衣食住のみを与えられ、生かされているだけだった。

 ある日はこぼした水を舌で舐めさせられ、またある時は暖炉の横で眠らされ、灰まみれにされたこともあった。


 それでも、エリーは母親の「信じていればいつか夢は叶う」という言葉を信じて生きてきた。そして、母親の墓の前で毎日泣いていた。

 そんなある日、姉の一人が

「お母様、新しいドレスが欲しいです」

 と言った。

「ダメよ。今そんなお金ないのよ」

「え~。もうすぐお城の舞踏会があるのに?」

 お城の舞踏会。それは王国中の令嬢が集まり、着飾って王子に見初められる為の重要な場である。

 それを聞くと継母はニヤリと笑い、


「そうね。じゃあを使いましょう」

 と言って継母は何処かに向かった。


 母親の墓の前でエリーが一人でいると継母が来た。

灰被シンデレラ、その女の金が必要なの」

 それを聞くとエリーは血相を変えて継母に向かった。

「止めてください!あのお金はお母様の…」

 すると継母はエリーの髪の毛を掴み、顔をビンタした。

「ああっ」

 悲鳴を上げるエリーを一瞥すると継母はまた、歩き出そうとする。しかし、エリーも食い下がらず母親の墓を守ろうとする。

「うるさいわね。」

 そう言うと継母は鞭を取り出し、エリーを叩く。

 その度にエリーの服は破け、皮膚は傷だらけになった。

 エリーが力なく倒れると継母は母親の墓を荒らし、エリーの為のお金を奪った。

「いい?あなたには生きている価値はないの。生きていられるだけ有難いと思いなさい」

 そう言って笑顔で家に帰って言った。


「ありがとうございます。お母様」

 継母の姉二人が新しいドレスを着こなしていた。

「あなた達凄く綺麗よ。王子の花嫁間違いなしよ」


 一方のエリーはボロボロの服を着て一人惨めに掃除していた。あの日以来、エリーは何度も逃げようとした。しかし、あの日のトラウマが頭をよぎる度、体の震えが止まらなくなっていた。エリーの首には恐怖による見えない鎖がついていた。


 舞踏会当日、エリーは留守番を強要され、見るも無残な姿となった母親の墓の前で一人涙を流していた。

 すると、エリーの前に一人の男性が現れた。

「舞踏会に行きたいのだろう。じゃあ助けてあげる」

「あなたは?」

「ただの魔法使いさ」

 男はそういうとエリーに魔法をかけた。すると、ぼさぼさの髪の毛は綺麗に整えられ、宝石が埋め込まれたティアラが輝いていた。最高級の化粧のおかげで、エリーの顔は誰にも負けない程綺麗になっていた。そして、つぎはぎまみれの服は青を基調とした美しいドレスに仕上がっていた。極め付きはガラスの靴で、月光を受け、光輝いていた。

「これが私?」

 生まれて初めて着る美しいドレスにエリーは感動していた。

「そうさ。けどこの魔法は12時になると全て元通りになる。気をつけてね」

「ありがとうございます」

 こうしてエリーは魔法使いの用意した馬車で舞踏会に向かっていった。


「誰なんだあの娘は?」

「とっても綺麗」

エリーはお城に入るとみんなから羨望の眼差しを送られた。

一方の継母達は誰からも見向きもされなかった。

「あの娘、一体何者なの?」

と怒りをあらわにするが、その声はエリーへの声でかき消される。

エリーが歩いていると目の前に王子が現れる。

「失礼ですがレディ。どうか私と踊っていただけないでしょうか」

エリーは快諾し王子の手を取ると、ワルツの音楽が流れ、二人だけにスポットライトが当たった。


エリーと王子は息の合ったダンスを披露し、見るもの全てを釘付けにした。ダンスが終わると王子は

「あなたに会えて本当に幸せです」

と幸せそうに言った。

その後も二人は幸せな時間を過ごした。しかし、そんな時間は長くは続かず、残り10分になった。

(どうしよう。もう帰らないと…)

しかし、虐めのトラウマから足が動かなくなった。息もしづらくなるほどの恐怖を思い出す。

「はあっはあっ…」

「どうかしましたか?」

王子が心配そうにする。

エリーは王子に背を向ける。

(思えば私はずっと何かに従ってばっかの人生だった。それが正しいことだと思ったから)

エリーは拳を強く握る。

(でも、それは違った。本当の幸せは自分で掴むしかないんだ。これで何か言われてももう知らない。これが私の生き方なんだ)

(ごめんなさい。魔法使いさん。私

「王子様、これが本当のわたくしです」

「え?」

すると12時になると教会の鐘が鳴り、魔法が解け、エリーは元のボロボロの姿に戻った。

「誰だお前は」

「さっきの美女は一体何処に…」

会場がどよめく中、エリーは丁寧にカーテシーをする。

わたくしはハルヴィア家のエリー•ハルヴィアと申します。見ての通り普段は奴隷のような生活を送っております。魔法の力で着飾っていましたが門限を破りこの有り様です」

エリーは続ける。

「私のことが気に食わない方もいるでしょうね。ですが、これが私です。嫌われようが知ったことではありません。ただ、一つ言い残すことがあるなら王子様の思いを無下にしてしまったことをどうかお許しください。素敵なひとときをありがとうございました」

そう言ってエリーは去ろうとする。しかし、王子は

「待ってくれ」

と言ってエリーの前に立った。

「どうかされましたか」

「あなたの考え方は素敵だ。私もあなたのように自由に生きてみたいと思った」

するとエリーは微笑んで

「じゃあ、私と共に来てくれますか」

と挑発的に言い、手を伸ばした。

「やっぱり、あなたに会えて私は幸せだ」

エリーの手を王子が掴むと二人は何処かに旅立った。

全てから解放された二人の顔は幸せそうだった。

他の参加者達はただ呆然としていた。


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シンデレラは帰らない チョコミント @mod8

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