テーマ: 夢と現実




みなさん、今日も集まってくださりありがとうございました!

また来てくださいね。

バイバイ!にぱ〜。



しばらく同じ顔で停止した後、

ふうーとため息をつき表情がなくなる。


お、事故か?


カメラが止まるまで画面を眺めていた視聴者が

コメントを付けず様子を見始める。



ここから愚痴モードに走ってくれれば

炎上チャンスだ。

普段我々から金と時間を奪うVチューバーが

真実の姿を晒してくれれば、お仕置きの愉悦を楽しめる。


さあ晒せ、お前の本性を。

俺は人間の真実の姿が見たいんだ。




じっとりと眺めている視聴者は数名。

アカウントを確認したらどいつもこいつも見覚えのある

アイコンをしてやがる。

廃課金勢だ。



これは、面白い。



悪趣味な笑いが込み上げて来る。

録画できるよう設定をいじりながら、

次の発言を舐めるように待つ。



あー、終わった。今日も緊張したわ〜。

うー、肩凝る。ストレッチストレッチ。

無の顔からうええという顔になり、

親父のような唸り声を上げながら


肩を抑え首を回し始める。



みんな楽しんでくれたかなあ。

あーもう、色々メモってんのに、

喋ってる時パーになるんだから。ほんとポンコツ。

このネタ話忘れたし。

あーもう。もっとすごくなりたい!

今日もたくさんスパチャ貰ったんだから、

払った分楽しんで貰わないと!

あーなんで計画通りにいかないのかなー。





醜い愚痴が始まるかと思えば一人反省会が始まった。


今日の配信の予定はこれだったのに

ここで進行をミスった。

あそこで噛んだ。

発音悪くて恥ずかしかった、ボイトレ強化だ、



そこにいたのは期待した醜い本性を表した女ではなく

普通の女の子だった。


え、なんか良い子だし?

いや、元々そんなに醜いもの見たかったわけじゃねえし?

裏垢で回して炎上プランとか練ってねえし?

こういう放送事故映像もお宝だし??



言い訳が頭にぐるぐる沸いている時、

一行コメントが流れた。




“カメラ切り忘れてますよ”




え?やば。




そこで配信は途切れた。



醜い姿が見れなかった舌打ち感と、

それを期待した自分への恥と、

コメントを流したやつグッジョブな気持ちと、

最後にいいもん見れたぜという満足感が複雑に混じり合い、

なんだかいい気分だった。




次の配信ではスパチャを弾もう。




そう決意してソシャゲに切り替え、

ログインボーナスを貰うことにした。




ククク、餌は撒いた…。計画通り。

カメラのスイッチを切った配信者はニヤリと笑う。

夢を売る商売でリアル見せるほど素人じゃないんだわ。




さて、明日の配信はいくら稼げるかな。

明日の皮算用をしながら

配信機器を片付けて、ナイトルーチンに入る。




肩が凝っているのは嘘ではないのだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る