君と出会えて、幸せだった

山田剛

第1話 始めまして、僕ニャン太

 2006年3月、僕は千葉県松戸市横須賀一丁目の一番地に生まれた…猫。


 名前はニャン太、と言っても生まれた時に名前なんて無い。

後々、僕を飼ってくれた飼い主が付けてくれた。飼い主のことは後で紹介するよ。


 まずは僕の自己紹介から...


 僕の出身地は松戸市横須一丁目にあるとある中古車屋。店の名は「CAT」。


 扱ってる中古車は全て外車。そんなCATの店長は猫好きで僕以外にたくさんの猫を飼っていた。CATと言う店名も店長が猫好きだからつけたのだろう。


 店の看板のロゴは車屋だから「CAR」となっていたが、よく見ると「R」の部分が崩された文字になっていて「T」に見えなくもなかった。 

 車屋の店長であり猫好きでもあるそんな店長が遊び心で「CAR」にも見え、「CAT」にも見える看板のロゴを考えて作ったのだろう。


 中古車屋の店長はちょっとだけヤクザ入っていた。小澤一郎似の強面オヤジ。

 そんな強面オヤジだけど猫が大好きだった。 


 カウンターのオヤジのとなりにはオヤジの奥さんが座っていた。奥さんはこれまたちょぴっとだけヤンキーが入っていた。

 店は夫婦二人だけで切り盛りしてるみたいだ。


 オヤジが飼ってた猫は僕を含め十匹、いや十五匹くらいはいたと思う。


 中古車屋で商売をやってるというのに、そのスペースで多数の猫を飼っていた。やって来る客はみんな慣れっこ。

 接客テーブルに猫が飛び乗ってもみんな平気。それどころか、みんなオヤジの飼っている猫をさすったりしていた。


 そんな十五匹の中の一匹のお母さんから僕は生まれた。お母さんは乱暴に中古車屋の倉庫の段ボールに僕を生み落とした。


 【ちょっとちょっと、お母さん、乱暴過ぎない】


 そう思った。生み落とされた時、ちょっと痛かったからね。


 僕と言うからには当然雄猫、グレーと白の柄の雑種だ。キジシロってやつかな。

 

 僕は大人しく人見知り、いや猫見知りな猫。あまりはしゃいだり、走り回ったりするのが正直好きじゃない。猫と遊ぶのも、人と戯れるのも好きじゃない。猫見知りであり、人見知りである。


 僕を生んでくれたお母さんや、兄弟はと言うと…

 お母さんはちょっと怖くいつも無愛想。 

 兄弟は僕にはお兄さんが二人、いや二匹いた。


 一番上のお兄さんは僕と同じく大人しくあまり周りの猫達とはしゃいだりしなかった。 

 いつもどこにいるかわからなかった。中古車屋の奥の段ボールの中で一日中寝てたこともしばしば。


 二番目のお兄さんはとてもやんちゃだった。いつも走り回っていて、中古車屋の書類をめちゃくちゃにしてオヤジにひどく怒られてたこともあった。


 僕はそんな様々なキャラクターが集ったところで生まれた。


 そうそう、毎日CATに配達に来る郵便配達の青年が毎日のように僕を「可愛い、可愛い」って言いながら触って行ったりもした。


 そんな五月のとある日、オヤジは


 「猫も増えすぎたんで、さすがにもうこれ以上はこのスペースで飼えないな。そろそろ里親でも探すか」


 と、とんでも無いことを言い出した。


「とりあえずまずはこの三匹の中のから一匹の里親を探すか」

 

 【えっ、待ってよ。里親って何さ。そう言えば過去に何匹か人間に連れて行かれた先輩猫がいたな。その後先輩猫はこの店に帰って来なかった。里親って人間に飼われることなのか】


 僕は過去に、人間に連れて行かれそれっきり姿を見せない猫が何匹かいたのを目にしていたので、なんとなく里親の意味がわかっていた。


 【僕かお兄さん二匹の誰かが里親に出されるのかな。お母さん、お兄さん達とお別れなのかな】


 イヤだよ、と思ったよ。


 「そうだな。猫が飼えるかどうか、誰に聞くかな。ネットで里親を探すのも面倒だし、誰かいないかね。まずはいつもうちに配達に来る郵便配達の青年にでも聞いてみるか。毎日顔を合わせてる手っ取り早いところから責めるか」


 オヤジはとなりにいた奥さんにそう言うとニヤッと笑って僕とその横にいたお兄さんニ人、いやニ匹を見た。


 【だから、ちょっと待ってよ。僕まだ人間と一緒に暮らす心の準備ってのがさ、できて無いからさ。お母さん、お兄さん達とは絶対別れないからな】


 僕はプイっとオヤジから目をそらした。


 【いや、例え僕が里親に連れていかれなくても、お兄さんのどっちかが連れて行かれてしまうのかな。何なんだよ。僕たち家族を離れ離れにすることを考えてるオヤジなんて大嫌いだ】


 夕暮れの朱色の日差しの眩しさがガラス越しに午後六時を告げた。

 

 店は閉店の時間、オヤジと奥さんは僕らをそのままにし、着替えて帰り支度をし、店内に鍵をかけ、店を後にした。そのオヤジの後ろ姿に、


 ニャー(オヤジのバカ)


 僕はそう吐き捨てると、一番上のお兄さんの眠る段ボールにちょっくらお邪魔し、床についた。

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