その魔法が解ける前に

@hayama_25

プロローグ


「口説いてるんだよ」


彼の声は低く、優しく響いた。


穏やかな朝の中で、その声は特別な温かさを持っていた。


彼の瞳は真剣で、まるで私の心の奥底を見透かすようだった。


「口説く…?どうしてですか、」


私は戸惑いながらも、彼の視線から目を逸らせなかった。


「花澄のことが好きだから」


彼は一歩一歩、ゆっくりと私の方に近づいてくる。


心臓が早鐘のように打ち始め、頬が赤く染まるのを感じた。




私には人権なんてものはない。


この先もずっと、


父の駒として、姉の召使いとして生きていくことになると思っていた。


だけど、壱馬様が目の前に現れてから、私の世界に色がついた。


壱馬様は私にをくれた。


私はずっと、自分が誰かの特別な存在になれるとは思っていなかった。


だけど壱馬様は、私の心の中に新しい光を灯してくれた。


彼の優しい言葉と温かい微笑みが、私の孤独な心を包み込み、安心感を与えてくれた。


家族からの冷遇や、姉からの虐待が私の心を傷つけていた私を救ってくれた。


壱馬様との生活を通じて、私は少しずつ自分を取り戻していった。


彼と過ごす時間は、まるで夢のようだった。


彼の隣にいるだけで、世界が輝いて見えた。


彼の手が私の手に触れるたびに、心が温かくなり、胸が高鳴った。


これからは…私も幸せになれるんじゃないかって。そう思えた。


だけど、そう思うと同時に怖かった。


私には何も無い。

いつまで彼が、私を好きでいてくれるか分からなかった。



私が幸せになるなんて、無理だったんだ。


やっぱり上手くはいかないみたい。

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