近年導入された恋愛学習の授業が怠いので、隣の席の女子と偽装恋愛します
マウンテンゴリラのマオ(MTGのマオ)
第1話 月曜日最後の授業
「それでは授業を始めます」
月曜日の6時限目。本日最後の授業が始まった。教壇に立つのは、このクラスの担任教師である中年女性。彼女の担当科目は数学だが、今から始まる授業は数学ではなかった。
「来週末には今年度初の合コンが実施されるので、今日からその予習を始めます。教科書の52ページを開いてください」
担任教師が発した合コンという言葉。高校生には似つかわしくない、などと言われていたのはもう十年以上前になるらしい。
恋愛学習。全国レベルで導入されたこのカリキュラムは、文字通り恋愛についてレクチャーすることを目的としている。その背景には、少子高齢化に加えて、若者の恋愛離れが叫ばれていたことがある。出生率を上げる以前に、そもそも結婚はおろか恋人すらまともに作れない若者が急増したのだ。そのことに危機感を覚えた政府は、早急に対策を立てた。その一つが、この恋愛学習だ。要するに、恋人の作り方を学校で教えることで恋愛離れを防ごうとしたのだった。恋愛学習自体は小学校から始まるが、本格化するのは中学以降、露骨にコマ数が増えるのは高校からだ。公立高校の学費無償化によって高校進学に金銭的な障害がなくなったこと、成人を迎える直前の年齢であることからも、この時期が適切とされたらしい。
「学内合コンはこのページに書かれている内容に沿って行われます。まずは―――」
学内合コンというのは、恋愛学習の一環として開催される行事だ。月に一度行われるこの行事は、学内の恋人がいない生徒を集めて、マッチングをする集団お見合いである。共学の高校は原則学内合コンの実施が義務付けられているので、別にうちの学校特有の行事というわけではない。……男子校や、男子が極端に多い工業高校などは、他所の女子高などと合同で行うらしい。その場合は休日に行うので、貴重な休日が潰れることになる。とはいえ、学内合コンも金曜日の6時限目を使うものの、2時間に渡って開催されるので、放課後の時間を喰われることになるのだが。更に厄介なのは、これは授業の一環であるため、正当な理由がない限りは強制参加であるということ。恋愛学習には試験や成績はないものの、必修科目扱いなので出席日数が足らなければ落第してしまう。
「……怠い」
授業を聞き流しながら、俺―――黒岩高志はそう小さくぼやいた。正直、恋愛なんてものに興味が微塵もない俺にとって、恋愛学習は苦痛でしかない。恋愛学習を避けるために中卒で働こうと思っていたのだが、両親の猛反発に遭って渋々進学を選んだ。高校進学が当たり前の昨今、中卒ではまともな仕事に就けないというのが理由なのだが……とはいえ、一切生活できないということはないはずであるし、もしも生活に困窮するならさっさと野垂れ死ねばいいだけの話だ。だが、わざわざ自殺するほど意志が強くもない俺は、流されるように今こうして恋愛学習の授業を受けている。
「……寝るか」
授業の内容はこれっぽっちも頭に入っていないし、これ以上起きていてもエネルギーの無駄だ。他の授業なら居眠りは極力しないようにするが、興味がないを通り越して苦痛な授業をまともに聞くのも馬鹿馬鹿しい。俺はそう開き直って、瞼を閉じた。
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