第2話 下級見習い ケント目線
王都まで馬車で一泊だ。せまい馬車に乗って王都にいくのは楽しかった。ぴったりと寄り添って座り、話をしたりうとうとするリシアの肩を抱いたり、王都に着かなければいいのにと思ったものだ。
見事、リシアは試験に合格して文官見習いになった。もちろん俺も騎士団の見習いになることができた。
最初の一ヶ月は文官も騎士団も合同で研修をするらしい。おれみたいな田舎もんに最低のマナーを教えるためだと聞いた。
合格者20人と顔を合わせたら、平民は俺とリシアとダグラスと言うやつの三人だけだった。
あとは下級ながら貴族だそうだ。女も何人かいたが、正直、リシアの方が上品で美人だった。
そして俺とダグラスはリシアからマナーと勉強を教えてもらうおかげでなんとか研修についていけた。
貴族のやつらも仲間入りしたいってやつがいて、俺はこっそり耳打ちされた。
リシアは
「それなら、みんなで教えあいましょう」と言った。
それで、放課後も俺たちはみんなで自習をした。
いつのまにか、俺たちは全員、仲良しになった。
ある日、役所の見学として外務部に行った。綺麗なおねえさんがいたが最高にきれいなのはリシアだった。
そして、ぜったいわざとだとおもうが、あるおねえさんが書類をわざと落として撒き散らした。
俺たちは床にはいつくばって書類を集めた。おねえさんは笑いながらおれたちをみていた。
リシアも書類を集めていたが、ある箇所をみて眉をあげた。集めた書類を隅にいた男性に渡す際にあるところを指差してなにか囁いた。男性は驚いてリシアを見たが、なにも言わずに書類を受け取った。
その男性に書類を集めて貰って助かったとお礼を言われて、俺たちはそこを出た。
その日、リシアに誘われて俺たちは図書館にやってきた。じゃまなダグラスも一緒だった。
「リシア、本なんてどうするんだ?」ダグラスは本気の馬鹿だ。
「ダグラス、もちろん読むのよ」とリシアが律儀に答えてやっている。
こんな阿呆に真面目に答えることはない。
「今日、外務部でミルフォーク語を読んだから久しぶりに本を読んでみたくなったの」
おれは思わず
「え?リシア、外国語が読めるの?」と聞いた。
リシアはあっさり
「うん」と答えた。
「リシアって・・・」『綺麗で頭が良くて、優しくて』と言いたかったが声にならなかった。
おれはただ、リシアの横顔に見とれていた。
そのとき本棚の後ろから子供が出てきて
「君、リシアって言うの?このさきに個室があるからその本を持ってついて来てくれない?もちろんその二人も一緒に」と言った。
するとその子供のそばの大人が
「いきなり、そのようにおっしゃると令嬢はびっくりなさいます。リシア様お時間を頂いてよろしいでしょうか?わたくしは護衛のオークレーと申します」と言った。
「ギルバード殿下、オークレー卿、リシアと申します」そういうとリシアは優雅にカーテシーとかいう挨拶をした。なんかお姫様みたいだ。
不思議そうに見ていたダグラスが
「リシア、知り合いなのか?」と言ってくれて
リシアは言葉に詰まった。
でも優しく
「いぇダグラス」と答えてやっている。
俺は「黙れ、ダグラス」というと習いたての礼を行った。
「真似しろ」と囁くとダグラスもあわてて礼を取った。
リシアはカーテシーをしたまま俺たちが礼を行うのを待ってそれから
「かしこまりました」と子供に、いや、ギルバード殿下に答えた。
ちらっと見たら、なんとか卿はリシアをじっとみていた。
部屋で椅子にすわりお茶が配られたあと、ギルバード殿下が口を開いた。
「リシア嬢、お願いがある。その本を読んでみて欲しい」
十年後に戻ったら、 朝山みどり @sanguria1957
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。十年後に戻ったら、の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます