十年後に戻ったら、

朝山みどり

第1話 記憶をなくした少女 ケント目線

いきなり現れた見慣れぬ魔獣が護衛を次々に倒していく。僕のそばで護衛が身構えていた。エリシアが移動の魔法陣を起動していた。魔法陣が光り始めた。僕はほっとした。発動まで後少し、その時、魔獣が護衛を躱して、僕に飛びかかってきた。

エリシアが僕を突き飛ばした。




陣は発動し魔獣もエリシアも消えた。




十年後。地方のある町

教会の孤児院にいる少年、ケント目線

僕は池にやって来た。仕事帰りにここで汗を流す。

今日は、主任さんが差し入れの残りを包んでくれた。子供たちが喜ぶ。

あれ?池の辺に人形?と俺は恐る恐る近づいた。



銀髪が広がっていた。あわてて揺り起こすと「アレク」とつぶやいた。



「起きろ、名前は?起きろ」「・・リシア」そう呟くと人形はまた気を失った。


リシアを背負って教会に連れ帰ると神父さんがあわててシスターを呼んだ。

着替えさせてベッドに寝かせた。


リシアは教会の手伝いをした。玄関の掃除は上手だったが、食事の支度はあまり上手じゃなかった。一番、上手な仕事は子供の相手だった。

子供たちに絵本を読んでやって、字を教える。


子供たちは、リシアの後を付いて回っている。


そして領主の息子が、教会を頻繁に訪れるようになった。

高価な装身具の贈り物をリシアは断っていた。

「このようなものをわたくしが持つのはよくないです。下さった、そちら様にも迷惑をかけてしまいます。有難いですが、いただけません」


それからやつは、お菓子をたくさん持って来るようになった。


やつが持ってきたお土産のお菓子を皿に盛り付けているリシアに向かって

「リシア、本当になにも覚えてないの?」


「はい、名前もリシアかどうか、はっきりしないくらいです」


「そうか、それは不安だね。僕は君の身元は気にしないから、安心して」と領主はリシアの手を取って言った。


リシアが返事に困っているのを見たシスターが、子供に耳打ちした。


「「「リシア。本を読んでくれる時間だよ」」」


子供たちがリシアを取り囲むと、領主の息子は


「忙しいみたいだね。僕はこれで帰るよ」と帰って行った。


しばらくしたら、領主からリシアを館の侍女として雇いたいと手紙が来た。


神父はそれを見せてリシアの考えを聞いた。


そんなの断ればいいんだ。あの勘違い野郎が!


「いえ、あの方の所で働くのはちょっと」とリシアは言った。


それでいいんだ。そうだ。俺と一緒に王都へ行けばいいんだ。


リシアなら文官試験もへっちゃらだ。


「俺、王都へ騎士団入団試験を受けに行くけど、リシアも行けばいい。確か文官試験もあるし」と俺が言うと神父もリシアもはっとなった。


リシアは、ぱっと明るい顔になって


「おぉケント、そうする。王都もケントがいれば安心だし」と言った。


それから、急いで準備をすると俺たちは王都行きの馬車に乗り込んだ。

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