第41話 アンネリア嬢と過ごす時間が幸せすぎる~アレグサンダー視点~
とにかく、話題を変えないと。
「アンネリア嬢、急に僕の事を“旦那様”と呼んで、どうしたのだい?」
「はい、カレッサム伯爵夫人が“自分の夫の事を侯爵様と呼ぶのは変だ、旦那様とお呼びください”とおっしゃられたので」
「そうだったのだね。カレッサム伯爵夫人はどうだい?」
「とても優しくしてくださいますわ。侯爵夫人としての心得などを、色々と教えてくださいます。私、今まで本当に侯爵夫人として何もできていなかったのだと、痛感したしましたわ」
「それはよかった。でも、無理はしないでほしい。夫人にも伝えておくよ。さあ、着いたよ」
そっとベッドに降ろした。
「旦那様、私はもう随分と怪我もよくなりましたわ。お医者様からも、無理をしなければ普通の生活をしても問題ないと言われておりますし。食事も最近は、食堂で頂いているのですよ」
「そうかもしれないが、万が一傷口が開きでもしたらどうするのだい?君はただでさえ、珍しい血液の持ち主なのだよ」
「完全に傷口は塞がっておりますので、再び刺されない限り問題ないとお医者様がおっしゃっておりました」
そうは言っても、僕はあの時の大量に血を流すアンネリア嬢の姿が、脳裏に焼き付いて離れないのだ。もしまたあのような事が起こったら…考えただけで恐ろしい。
「君の気持ちは分かったけれど、今日はここで食事を摂ろう。食後改めて医師の話を聞く事にするから。それから、今日で大きな仕事が一区切りしたのだよ。せっかくだから、食後はお茶でも楽しもう」
ここしばらく、アンネリア嬢とはすれ違いの日々を過ごしてきた。離れていた分、これからはしっかり交流を持たないと!
「…承知いたしましたわ。少しだけでしたら…」
「少しだけとはどういう意味だい?もしかして、誰かと会う約束でもしているのかい?まさか、男か?」
僕が忙しく過ごしている間に、アンネリア嬢に近づく不届き者がいたというのか?許せん事態だ!
「いえ、誰かと会うとかではないのです。実は先日から、本格的に領地のお勉強を始めまして。旦那様に新しい奥様がいらっしゃるまでは、しっかりと侯爵夫人の仕事をこなさないといけませんので。侯爵夫人は、領地の事をも覚えておく必要があると教わりましたので」
そういう事か…
アンネリア嬢は、本当に勉強熱心な子だな。彼女は僕の傍にいてくれるだけでいいのだが…
待てよ!いい事を思いついたぞ。
「アンネリア嬢、領地なら僕が誰よりも分かっているから、僕が教えてあげるよ」
「旦那様がですか?旦那様のお手を煩わせる訳にはいきませんので。領地の件は、カミラに教えてもらいますので、大丈夫です」
「遠慮する事はないよ。それに、カレッサム伯爵夫人に教わらなかったかい?夫婦の時間を大切にすることも、夫人の大切な仕事だと」
「そういえば、その様な事をおっしゃっていた様な気がしますわ」
「そうだろう?僕が家にいるときは、極力2人で過ごそう。それが君の仕事でもあるのだよ。それじゃあ、早速食事にしよう」
アンネリア嬢の部屋に準備された食事を、2人で頂く。この2ヶ月半で、少しずつだが食べる量も増えてきたアンネリア嬢。メイドたちの話では、どうやら彼女は、特にキノコ類と野菜、果物が好きらしい。
今日もアンネリア嬢の為に、キノコと野菜がたっぷり入った料理と、デザートには果物が準備されている。
そんな料理を美味しそうに頬張るアンネリア嬢。彼女の食べられる量に調整されている様だ。
「アンネリア嬢は、とても美味しそうに食べるね。君の姿を見ていると、どんな料理も美味しく感じるよ」
「侯爵家の料理人のお料理は、本当に美味しいので。旦那様は、どんなお料理がお好きですか?」
「僕かい?僕は肉料理が好きだね。特にこのカモ肉が好きなんだ」
「カモ肉ですか。確かに柔らくて美味しいですね。確かカモは、侯爵領でも沢山取れると聞きましたわ」
「そうだよ、我が領土は、カモが沢山いるのだよ。カモだけではないよ。牛や豚、鶏、馬や羊なども飼育されているよ。それに温暖な気候を利用して、オレンジやパイナップル、バナナなども栽培している。ここに並んでいる果物も、領地から運んできているのだよ」
「まあ、領地からですか?だから甘くて美味しいのですね。そういえば産業にも力を入れていらっしゃると聞きましたわ。特に侯爵領で作られた絹を使った衣服は、肌触りがよく、王族の方たちの衣装にも採用されているとか」
「アンネリア嬢、よく知っているね。そうだよ、農業や畜産だけでは不安だからね。産業にも力を入れているのだよ。色々な分野を取り入れる事で、リスクを軽減しているのだよ」
「なるほど。旦那様は色々な分野にトライしてらっしゃるのですね。母から聞きましたが、実家の領地経営についても、色々とアドバイスをいただいていると伺いました。そのお陰で、少しずつ軌道に乗り始めたとか。何から何まで、ありがとうございます」
「ファレソン伯爵領は、元々資源が豊富な場所だからね。それをうまく活用する方法を教えただけだよ。伯爵はともかく、アラン殿は非常に賢くて、頭の回転も速いし視野も広い。きっとアラン殿の代になったら、もっともっと発展すると思うよ」
「確かに家の父は、少し抜けているところがありますから。アランの事をその様におっしゃって下さるだなんて、きっとアランも喜びますわ」
弾けんばかりの笑顔を見せてくれるアンネリア嬢。まさか女性と領地について語る日が来るだなんて。キャサリンはこういった話は、丸っきりダメだったものな…
よく考えたら、女性とこんな風に話すのは、初めてかもしれない。それにしても、アンネリア嬢は本当に頭がよいのだろう。つい先日から領地について勉強し始めたと言っていたのに。
僕の話にもしっかりついてきているし。それに何よりも、アンネリア嬢との会話は、楽しくてたまらない。
その後も時間が許す限り、アンネリア嬢と一緒に過ごしたのだった。
※次回、アンネリア視点です。
よろしくお願いします。
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