[勇者]と[王様]
〈視点/ISEKAI大樹店/観客たち〉
『本日も、のっけから絶好調ッ! 勇者と王様、そのコンビネーションッ!』
実況妖精が
会場には各
『幻想闘祭、大別四職の例外分類[王様]! それは他の職業のように、派生する分類を持ちません! 行うことは共通にして唯一……
王は下々と同じ舞台に上がらず、戦闘の員数にも数えられない。
対戦開始と同時に専用の空間[玉座]に送られ、一ゲームに一回ずつ使える四つの専用スキルで仲間をサポートする、極めて特殊な職業だ。
『オンリーワンの働きが可能ながら、フィールドに存在できないデメリットはリスク以上のリターンを見出せずに持て余され、一説には、【魔王】問題に対しろくに支援もせず過剰な役割と使命だけを課す
黄金と魔の十秒を駆け抜けた一ノ瀬の活躍を支えたスキルは、以下の二つだ。
①[物品下賜]。任意で行える道具転送。
②[王命拝領]。ブロックへの効果設定。
他二種も強力だが、人数の減少・回数の制限は、多人数戦で負うマイナスに見合わない。
敬遠の風潮にあった王様はしかし、機転と才覚によって最強の土台に生まれ変わった。
『確認、合流、必要無し! 戦場に降り立つはパーティの中でたった独り、味方がいない孤立という大きなマイナスを、研ぎ澄ませて突き詰めたプレイスタイルが冴え渡る!』
別々の地点からの開始、状況確認からの合流を定石とするがファンフェスパーティ戦。
彼女はそのレールを、自らの王道にて上書きする。
[戦士/勇者]——それは本来、追い込まれるほど強くなり、逆転勝利を掴む戦法に特化した職業だ。
メリットは孤軍奮闘に向くこと。
弱点は、仲間が揃っている間に狙われれば、全力を発揮できないまま落とされること。
そんな勇者の常識に、一ノ瀬は発想の逆転を持ち込んだ。
逆境にあるほど強くなるならば。
最初から最大の逆境であればいい。
一ノ瀬は構成した。
フィールドに他の仲間がいない程、大きな強化を受けられるスキルを。
一ノ瀬は考察した。
基礎値が大幅に向上する代わり、自分が落ちれば敗北になるスキルを。
つまり、要約するのなら。
壱個とは、パーティ単位で組み上げられたシナジー・コンボである。
『それができたら最高だ、しかしそんなことはできるはずがない――理論上でのみ空想され、誰もがいつか置き去りにした御伽噺は、彼女らの手で実在を証明された! 私たちは今日も、幻想更新の現場に立ち会っている!』
あのコンボこそは、望み、挑まれ、破れ、挫け、諦められた手法だった。
【三王一勇】はおよそ実戦に向かない愚策、浪漫と呼ぶのもおこがましい、袋小路の悪手の代名詞であった——一ノ瀬古都子が現れるまでは。
観客が目撃したのは、たった一人で居並ぶ相手を切り伏せる雄姿。
長く居座っていた
一ノ瀬古都子は、ただ強いから人気なのではない。
人々の期待を、夢を、可能性を背負うからこそ、【英雄】なのだ。
「さて。一方でなニッシュ、名勝負ってのは、好敵手あってこそだぜよ」
スサノオ神の言う通り、会場にもそこをわかっている者が少なからずいる。
黄金と魔の十秒で一ノ瀬に狙われながら生存したプレイヤーは、実に二十七戦振り。
マッチングの時点で誰もが心構えをしていて、中には逆襲の準備万端な相手に当たったこともあった……そうした中で尚、一ノ瀬古都子は備えようと防げぬ災害として君臨してきた。
「“勇者があらわれた。勇者はこちらが身構える前に襲いかかってきた”に出くわすかどうかは賽の目次第。取られてもっとも損害の少ない味方か、敵パーティが貧乏くじを引くようにお祈りする……そんなのが、一ノ瀬戦で最初にやることだと相場が決まっていたやが、ぬはは」
アリーシャ・レネレーゼは、自力で耐え抜いた。
そこにあるのは、【一秒でも生き残る、自分が時間を稼いだ分だけ仲間が有利になる】という控えめなものでは、断じてない。
「跳ぶが信条、天使兎人。大人しく落とされるつもりなんて毛頭あらざる目の色ぞ」
片足を斬られ、翼を貫かれ、退路さえ封じられ。
それでも尚、狩られるだけの獲物はそこにいなかった。
見よ、観衆。
そこにいるのは、一匹の——勝利に飢えし、肉食の獣。
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